《本記事のポイント》

  • 「死の商人」による景気回復に懸けるバイデン大統領
  • ラッファー博士は「戦争経済」による景気回復の効果をどう否定したか
  • 「血まみれ」の長期戦を是とする経済学の問題とは?

ウクライナ紛争開始から1年が経過した。だがバイデン大統領がキエフ電撃訪問後、イエレン米財務長官も27日にキエフを訪問し、今後数カ月で80億ドル(約1兆円)の追加援助を約束するなど、米政権側のウクライナ支援が続いている。

昨年末に成立した2023会計年度(22年10月~23年9月)予算では総額1.7兆ドル(約225兆円)のうち、ウクライナ支援のために450億ドル(約6.4兆円)が充当されている。これまでアメリカは約500億ドルの支援を行ってきたが、総額で約1000億ドル(約13兆円)の支援を行うことになる。

「死の商人」による景気回復に懸けるバイデン大統領

23年度予算には兵器開発のための予算も盛り込まれており、軍需産業による米経済の復活という野心も見え隠れする。米経済が景気後退と物価上昇が同時進行するスタグフレーションに陥っているため、その打開策として戦争経済に打って出るという戦略だろう。

要するに、ウクライナで戦争が長引き、流血が続くほど、アメリカにとって有利になるというものである。

言ってみれば「死の商人」による景気回復ではあるが、これまで経済学において肯定的に評価されることが多かった。

ラッファー博士は「戦争経済」による景気回復の効果をどう否定したか

だが経済学的にもこの点にメスを入れる見解が現れた。アーサー・B.ラッファー博士は新著『Taxes Have Consequences』(税金は必然的な結果を伴う)(邦訳未)の中で、この点を論駁する考えを発表したのだ。

同著の中で博士は、第二次世界大戦時の米経済復興の理由について、これまで一般的に肯定されてきた見解が必ずしも正しいものではないと指摘。その上で「戦争経済」ではなく、人々が働く意欲を高めたことが理由で、景気が回復したのだと結論づけた。

詳細は同書に譲ることにするが、戦争経済に関する重要な部分のみ紹介したい。

第8章の「第二次世界大戦と経済」の章で、博士はまずこう指摘する。

ケインズ経済学を奉じるケインジアンらは、第二次大戦の終わりの1944~45年に、国防費への政府支出が減れば経済が崩壊すると恐れ始めた。なぜなら彼らは、国防費への大幅な政府支出が大恐慌から脱するための決め手になってきたと考えていたので、戦争が終わり、国防費がカットされれば、第二次世界大戦前の状態にまで経済は戻ってしまうと危惧したのだ。

確かに、第二次世界大戦で国防費を増大させたことが理由で、大恐慌から米経済が復活したのならば、戦争が終わって国防費が減少したら、マイナスの乗数効果(*)が働くはずである。その結果、経済が崩壊し戦前の状況に戻ってしまう。

当時、ケインジアンらはこれを心配し、「(ケインジアンの)ポール・サミュエルソン氏は1944年の時点で、民間の生産力が拡大するまで、政府支出の削減はゆるやかなものでなければならない」としていたほどだ。

だが戦後に行われた国防費のカットは、緩やかなものではなかった。

国防費がばっさりと削られたにもかかわらず、マイナスの乗数効果が働かず、恐慌にも陥らなかった。この事実により、ケインズ経済学の乗数効果という理由のみで、景気が回復したわけではないことが証明される。

その上で、ラッファー博士は人々が働く意欲を高めたことで生産が回復し、その後の永続的な成長につながったのだと詳述する。

詳しい論理構成については同書に譲るが、資本主義の精神が旺盛に働いたことで、国防費が削減されても不況に戻らず、経済成長が軌道に乗ったのだという理論は、完全に無視できるものではない。異なる意見が出された時に、学問は進化するのであるから、異論は歓迎されるべきであろう。

(*)政府が投資のために支出したお金が、どれだけの経済的波及効果を生むかを示す数字のこと。

「血まみれ」の長期戦を是とする経済学の問題とは?

ウクライナに軍事支援を行うほど、ロシアを弱体化できるのは確かだ。だが流血が続くことは疑いようがない。

マサチューセッツ工科大学(MIT)の軍事学者バリー・ポーゼン氏も、この戦争が「血まみれの持久戦」になると予測する。

「長期化させるほど経済成長できる」。実はこの考えは、新保守主義者でブッシュ(子)政権下で国防副長官を務めたポール・ウォルフォウィッツ氏の「ウォルフォウィッツ・ドクトリン」の前提にあるものだ。

しかし、そうした経済理論は、無条件に是とされるべきではないだろう。

文系の学問は善悪を峻別するところにその真贋が現れる。

本来、人類にとっての付加価値が高まった時に国内総生産(GDP)が増加すると考えられるべきである。だが外国でその国の兵士を捨て駒のように使って代理戦争を行い、自分たちの国の武器の消費することで景気を回復させることに、どれほどの「付加価値」があると見做されるべきなのか。

それは国家が「死の商人」と化しただけで、勤勉や努力、創意工夫によって人類の幸福に寄与するといった意味での「経済」からは逸脱したものである。

また民主主義は、個人は手段ではなく、目的とされる政治体制である。

この場合、戦争の道を選択し、国民を窮地に陥れたゼレンスキー大統領に責任があるとはいえ、ウクライナ兵がアメリカの「ロシア弱体化」という野心を遂げるための「道具」、つまり「手段」と化している面がある。バイデン政権の「民主主義のための戦い」とは、これほど欺瞞に満ちているのである。

さて、経済学は学問が持つべき善の方向性を失ったら、その本来の価値を喪失したものだと看做されるべきであろう。

21世紀の現代、学問の多くはその価値論の貧困に直面しているが、経済学はその最たるものの一つである。

中身を吟味することなく、GDPが大きくなりさえすればなればよいとするのは一つの思考停止の現れであり、価値判断からの逃避である。GDP増が本当に人類の幸福の増進につながっているのか、その本質を見極める智慧の目を持つことが、経済学において今最も求められていることではないだろうか。

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