2023年2月号記事

ニッポンの新常識

軍事学入門 31

中途半端な国防は国を滅ぼす

社会の流れを正しく理解するための、「教養としての軍事学」について専門家のリレーインタビューをお届けする。

元陸上自衛隊・西部方面総監

用田 和仁

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(もちだ・かずひと)1952年生まれ。防衛大学校第19期生。統合幕僚監部運用部長、第7師団長、西部方面総監を歴任。元陸将。共著に『近未来戦を決する「マルチドメイン作戦」』(国書刊行会)など。

政府は2022年12月に「国家安全保障戦略」などを改定し、防衛費を大幅に増やす方針を打ち出しました。従来の防衛政策を変えるという意味では、前進と言えます。

ただし、10年以上前から防衛計画などに盛り込まれていたのに、手を付けていなかった部分に着手するものが多く含まれており、「果たして有事に間に合うのか」という疑問は拭えません。歴代政権の「不作為の罪」はあまりに大きいと思います。特に今回は、重大な問題点を指摘します。

国家戦略の失敗は致命的になる

1つ目は、最も大事な「国家安全保障戦略」の中身です。現在の日本はバイデン米政権の尻馬に乗り、中露北の三カ国を敵に回そうとしています。しかし現状では、三カ国と戦って勝つ「軍事ドクトリン」と覚悟がなく、勝算もありません。外交で三正面作戦を回避する考え方を同戦略で打ち出すべきですが、それもありません。国家戦略の間違いは、戦術で挽回することができないため、致命的な問題です。

2つ目は、憲法9条や専守防衛、非核三原則という非現実的な戦後体制を変えなかったことです。吉田茂政権以来の体制を踏襲した岸田政権は、肝心なところを改革しなかったわけです。