《本記事のポイント》

  • 物価高対策に事業規模13.2兆円!?
  • 利上げによるインフレ対策さえできないのはなぜか
  • 政府は巨額の借金の利子さえ返せない

円は11日、1998年9月以来24年ぶりに137円の最安値をつけた。ユーロや新興国の通貨も下げが加速しているため、今後、世界をインフレが覆いかねない状況になってきている。

日本は、内需拡大を諦め、輸出主導で景気回復を図るという政策を長年続けてきたため、円安は肯定的に捉えられていた面がある。

だが状況は変わった。円安のメリットは自動車などの一部の業種にとどまり、むしろ食料品や資源の輸入コスト増によるマイナス面が大きくなりつつある。

円安を加速させている要因は、経常赤字の悪化のほか、アメリカが量的縮小を決定しているのに対して、日銀が量的緩和の維持を続けていることや、利上げを行うアメリカとの金利差が挙げられる。

物価高対策に事業規模13.2兆円!?

この物価高への対策として政府は4月26日に、事業規模13.2兆円の総合緊急対策をまとめ、以下の4点の物価高対策を行うと発表した。

  • (1)原油高騰対策に1.5兆円
  • (2)エネルギーや原材料、食料などの安定供給対策に2.4兆円
  • (3)中小企業支援に6.5兆円
  • (4)生活困窮者支援に1.3兆円

この物価高対策が摩訶不思議なのは、国民が使うお金に制限をかけて、需要を抑えることでインフレの火種をこれ以上大きくならないように抑えるべき時に、お金をばら撒いて、火に油を注ぐかのように、需要を喚起することである。

前回本欄(関連記事)で触れたように、アメリカではオバマ政権で大統領経済諮問委員会(CEA)委員長を務めたケインズ経済学者のジェーソン・ファーマン氏も、お金の量を増やして消費者の需要を高める政策は、物価上昇を招くことになるとして、物価高対策として貨幣供給量を増やす政策に反対している。

したがって政府の「事業規模」という発想自体が、「お金を刷りすぎたためにインフレを招いた」という、インフレの根本原因を捉え損ねている。

過剰な政府支出が、インフレの主たる引き金になっていることは、ラッファー博士が、2022年8月号のインタビュー(「アメリカはインフレから不況〔スタグフレーション〕に向かう」)で指摘している通りである。

またこの政策は、バイデン米民主党政権内の極左が推進する政策と方向性が同じで、共和党の側から徹底的な批判を浴びせられているものである。

共和党側は、多額の国債発行でバラマキを行ってきた政権のツケが、インフレという形で国民に跳ね返ってきたことを訴え、責任を政府に取らせる構えである。日本にはそのような論調がほとんど見られない。

利上げによるインフレ対策さえできないのはなぜか

残念なことに、この物価高対策は「円安から生まれる副作用としての物価高」への対応策に留まっていることを忘れてはならない。

先にも触れたように、インフレの根本要因は、各国政府がコロナ対策に予算をつけるために、中央銀行がお金を刷って協力したからである。つまり政府の財源づくりに、中央銀行があたかも"共犯者"のごとく協力してきたことにある。

金利差からも円安が高進している。ならばインフレが高進しつつある日本でも、インフレ対策として米連邦準備制度理事会(FRB)と歩調を合わせて利上げと量的引き締めに踏み切ることが一つの対策となり得る。

政府は巨額の借金の利子さえ返せない

しかし中央銀行の金利の上げ下げによる物価対策さえできないのが日本である。

量的引き締めのために日銀が買い込んできた「国債」を手放して、市場への国債の供給が増えると、国債の値段が下がり金利は上昇してしまう。

金利の支払いをする政府は、借金の返済額が増えるため、財政赤字が膨らんでしまう。

大川隆法・幸福の科学総裁は、この中央銀行の問題点について7月7日に行われた法話「甘い人生観の打破」において、こう指摘した。

日銀がゼロ金利を続けている理由は、政府の借金が大きくならないようにするためなんですよ。政府の借金の利子が高くなったら、返せなくなってもっと膨らんでいきますから。国策として上げることができないでいるんです

だからこそ政府は円安に対し「物価高」という副作用に対処するしかなくなっているのだ。

(後編に続く)

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