《本記事のポイント》

  • 緊縮よりも経済成長に舵を切れ
  • FRBだけに任せるのは危険
  • バイデン政権がサプライサイドに目覚めなければインフレの収束は難しい

ホワイトハウスが昨年発表した2022年の経済成長率の見込みは4.3%。だが今年の第1四半期の成長率はマイナス1.6%で、第2四半期以降も成長率はゼロ%近くをさまよう予定であるので、ホワイトハウスの見込みは達成不可能となった。

世界の主要中央銀行総裁が一堂に会した欧州中央銀行(ECB)フォーラムでも、米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は、利上げが経済を減速させるリスクがあるとするものの、持続的な高インフレの方がリスクだと指摘。そして経済成長より物価高への対応を優先するとした。

肝心のインフレ対策についてECBフォーラムで取材を受けたパウエル氏は、「我々はインフレについて、ほとんど理解していない」と述べるなど、心もとない発言をしている。

「FRBにインフレ退治を本当に任せられるのか」「FRBだけに荷を負わせられる問題なのか」と誰もが疑問に思い始めて当然だろう。

クリントン政権時に財務長官を務めたラリー・サマーズ氏は、1年ほど前に「第二次大戦時に近い規模の景気刺激策が、長い間経験しなかった種類のインフレ圧力を引き起こす可能性がある」と指摘し、警鐘を鳴らしてきた。

しかも今回のインフレがハード・ランディングとなる確率を、「おそらく3分の2以上」と見込む。その上でブルームバークの6月20日付のインタビューで、「5%以上の失業率が5年続くか、10%の失業率が1年間続くとインフレを退治できる」と述べている。

つまり意図的に景気を冷やす"外科手術"なくして、もはやインフレを止める術はないという悲観論だ。

5年間も不況に陥れるほどの犠牲を強いることが必要なのか──。インフレ退治を中央銀行に任せきりにするだけでは、インフレは収束できないとして、サプライサイダーから代替策が次々と提示されている。

緊縮よりも経済成長に舵を切れ

1つ目は、トランプ政権で経済顧問を務めたアーサー・ラッファー博士とステファン・ムーア氏の「緊縮ではなく、経済成長がインフレ対策への解決策だ」と題するウォール・ストリート・ジャーナル紙の記事である。以下要旨を紹介する。

  • サマーズ氏の主張は、ノーベル経済学賞受賞者のポール・サミュエルソン氏の1980年に執筆した論調と二重写しに見える。

  • 二桁台のインフレで苦しんでいた当時、サミュエルソン氏は「8%~9%の失業率を伴う5年から10年の緊縮を行えば、インフレを徐々に抑えることができる。その間、成長率は1%から2%ほどになる」と予測した。

  • 緊縮主義の立場をとる人々は供給や雇用を減らすが、なぜそれで価格を下げられるというのだろうか。

  • 歴史は、経済成長がインフレを起こさないことを証明している。1920年代、所得税の最高税率が73%から25%に引き下げられた時、実質GDP成長率は上昇し物価は下落した。1960年代の減税および経済成長は、経済の拡大と物価の安定、財政収入の増加をもたらした。

  • 緊縮は必要ではない。エネルギー関連企業に仕掛ける政権側からの戦争をやめ、減税政策・規制緩和の永続化、政府支出の削減と、数兆ドルのFRBの資産の売却による金融引き締め、これがインフレを下げ、失業率を下げる一番の方程式だ。

FRBだけに任せるのは危険

2つ目に紹介したいのはケビン・ハセット氏がナショナル・レビューに寄稿した「インフレをどう退治するか」と題するコラムである。

同氏は、以下のように主張して、バイデン政権の政策にインフレの原因があると指摘する。

  • バイデン政権は、政権の政策とインフレに関係があることを否定し続けているが、サンフランシスコ連邦準備銀行のエコノミストは、アメリカが財政的な支援をこれほど行ってこなければ、インフレ率は2%あたりに留まっていたと結論づけている。

  • このことを理解するのは、それほど難しいことではない。10%分、貨幣を余分に持った国民がいたとして、10%分余分に供給があれば、物価は同じ値に留まる。だが供給が同じ量に留まれば、10%物価が上がってしまう。

  • バイデン政権は給付金を国民にばら撒いてきた。もちろんそれに伴い供給が追い付けばよいが、規制や増税で供給を攻撃。もっと言えば供給側の石油会社を非難して、石油関連企業を悪魔化してきたとさえ言える。

  • トランプ氏が成立させた大型減税(TCJA)で定められた減価償却の法律が来年には失効する。議会が減価償却を定めた規定を失効させず、法人税と所得税の減税を継続するとともに、政権側が財政支出削減を真剣に捉えれば、インフレのスパイラルを終わらせることができる。

  • バイデン政権がこのような政策を取り入れる可能性は極めて低い。それが意味するのは、FRBが単独でインフレ退治をしなければならないということだ。これだけの政府債務と政権の財政政策が間違った方向に向かっている状況において、インフレを撃退するには、金融引き締めの程度を上げなければならなくなるのだ。

  • 金利を上げれば家や車に対する需要を減少させることができるものの、供給のインセンティブも同時に下げてしまうのだ。

  • 中間選挙に向けてインフレに対する国民の関心は高くなる。悪いニュースは選挙後、バイデン政権がつくり出した混乱を引き継ぐことになることだ。良いニュースは、インフレの問題を理解するのに、難しい理屈など必要ないということだ。需要と供給の問題についての常識的な理解と、ちょっとした政治的勇気が必要なのだ。

バイデン政権がサプライサイドに目覚めなければインフレの収束は難しい

バイデン政権側が、「インフレと政権の政策とは関係がない。ロシア、コロナ、石油会社のせいだ」としている限り、FRBは政権側の支援を受けることは難しいだろう。

そうした中でFRBのパウエル議長に全面的に責任を負わせれば、「ハード・ランディング」すること間違いなしである。

景気停滞とインフレが同時並行で進む最悪の組み合わせを意味する「スタグフレーション」という言葉が生まれた1970年代のインフレは、レーガン政権の減税政策が同時に行われたことで収束をみた (ザ・リバティ8月号記事 ラッファー博士インタビュー参照)。

「Too much money chasing too few goods(多すぎるお金が、少ない品物を追いかけすぎている)」

これはラッファー博士がインフレを説明する時に使う決まり文句。要するに、お金が多すぎるのに品物が少ないからインフレになる──。そんな需要と供給の簡単な関係がバイデン政権には理解ができないらしい。

悲劇的であるのは、バイデン政権が問題をほかの国や事柄のせいにしている上、FRBの議長がインフレの根本原因を理解していないことだろう。

利上げとともに失業率が高くなれば、バイデン政権はFRBに介入し、利上げという最終的な選択肢も中途半端に行われかねない。

そうなればインフレのスパイラルは止まらなくなる。これではスタグフレーションが長期化するので物価高は止まらない。失業率が高くなって傷つくのは中低所得者であり、道連れにされる世界経済である。(後編に続く)

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