《本記事のポイント》

  • NATOの東方不拡大を信用したプーチンを欧米は裏切った
  • 現在までの戦闘状況をどう見るべきか
  • ウクライナ紛争の勝者は誰か?

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

ウクライナ侵攻に対して、日本や欧米のテレビ局や大手紙ともロシアの侵略だと大々的に非難しています。日本政府も、「ロシアの明白な国際法違反であり、断じて許すことはできず、厳しく非難する」「強い制裁措置を採っていく」と対露強硬姿勢を揺らがせていません。

ロシアによる武力攻撃は極めて残念でなりませんが、一方で、なぜロシアがこのような行動を取るに至ったのかについて、あまり経緯が説明されていないように感じます。この大事件は、今後の未来を分ける極めて重要な分水嶺となるでしょう。「国際政治を見る眼を持つことはたいへん難しい」のですが、そうであるからこそ、私たちは今一度、大局的な視点から捉え直していくべきではないでしょうか。

NATOの東方不拡大を信用したプーチンを欧米は裏切った

今回の発端には、欧米の北大西洋条約機構(NATO)の東方拡大と、大きく関係しています。

NATOはそもそも冷戦期に、ソ連と対峙するための西側の多国間軍事同盟としてつくられました。ソ連の崩壊後、NATOの主目的は消失し、ロシアを脅威とする見方もほとんど消滅しました。

そのためNATOの役割はロシアとの対峙ではなく、欧州外から侵入してくるテロなどの脅威を未然に防ぐための、欧州域外でのミッションが中心となりました。

欧米諸国はロシアを刺激しないためにも、ロシア周辺国へNATO加盟国を拡大しないことを、ロシアへ伝えていたようです。米ウォール・ストリート・ジャーナル紙が、今年2月22日の記事で伝えたところによると、ジョンズ・ホプキンス大学のメアリー・サロッティ教授の調査を引用し、「法的な確約ではなかったが、欧米の政治家は1990年にNATOが東方に拡大しないと確かに提案しており、またNATOは1997年にも、かつての『ソ連』だった国境にさらに近い場所までNATO軍を移動させる意図はないと宣言していた」と述べています(*1)。

ロシアと欧米の雪解けムードによって、双方の協力関係を規定したNATO「基本文書」が、ロシアとNATOとの間で1997年に採択されました。これを受けて2000年に大統領に就任したプーチン氏は、NATOとの協力体制を堅実に進め、西側との融和を目指したのです。

(*1)2022年2月22日付 ウォール・ストリート・ジャーナル紙コラム「Putin's Endgame Unravel the Post-Cold War Agreements that Humiliated Russia」

「NATOの東方拡大」と「カラー革命」がもたらした脅威

しかし現実は逆方向へと進んでいきます。1999年に旧ソ連圏のポーランド、チェコ、ハンガリーがNATOに加盟(NATO第1次東方拡大)。さらに2004年にはバルト三国、ブルガリア、ルーマニア、スロヴァキア、スロベニアが加盟します(NATO第2次東方拡大)。これに引き続き、ウクライナとグルジア(現ジョージア)へのNATO拡大論さえ持ち上がりました。

加えて2005年、アメリカのブッシュ政権はこうした東欧へ、米国製のミサイル防衛システムの配備を計画します。

これら一連の欧米側の動きは、ロシア側にとって重大な「裏切り」行為と映りました。しかし、これだけでは終わりません。

「カラー革命」と呼ばれる"西欧化"が続きます。グルジアの「バラ革命」(2003年)、キルギスの「チューリップ革命」(2005年)、ウクライナの「オレンジ革命」(2004年)です。これらの国々では親ロシア政権が倒れ、次々に親欧米政権が樹立されました。これら「カラー革命」をロシアは、「アメリカによるロシア勢力圏の切り離し工作」と捉えました。

こういった中で起きたのが、2008年のグルジア紛争です。現ジョージアは、黒海とカスピ海に挟まれたコーカサス地方の要衝で、ロシアと国境を接しています。ロシアの直南に親欧米政権が存在するということは、欧米との関係が悪化したら、欧米の軍隊が南からもロシアを狙うことができることを意味しますので、ロシアにとっては許容できないことだったのです。

2004年のウクライナの「オレンジ革命」は、さらに大きな衝撃をロシアにもたらしました。ロシアに接するウクライナが、新大統領のもとで、NATO加盟、つまり“ロシア離れ政策"を掲げたからです。

その後、ウクライナ国内で親欧米派と親ロ派のゴタゴタもありましたが、ここ数年の流れは、明らかに親欧米路線で進んでいます。

このようにロシア国境に迫る欧米勢力圏の拡大は、ロシアから見て大きな脅威であったのです。

ただ欧米側の論理としては、東欧の民主化と自由化を促進し、欧米と同じ価値観の国へと変革していくことは、世界の安定と国民の幸福、そして何よりも欧米諸国の安全保障環境の改善のために絶対善と捉えられていましたから、単純に「ロシア封じ込め」を目的とした対露敵対政策と言い切ることはできません。

こうした中、ロシアは2015年12月の「安全保障戦略」において、NATO拡大が脅威であると明確に記述しました。

クリミアはなぜロシアにとって死活的に重要なのか

危機感を抱いたロシアは2014年2月27日、特殊作戦軍(SSO)を送り込み、クリミア自治共和国の首都シンフェローポリの主要施設を占拠しました。彼らは覆面で顔を隠しており、また国籍や軍の所属を示す記章が縫い付けられていませんでした。混乱するウクライナ軍は無血のまま基地を明け渡すこととなりました。

クリミア自治政府は、ウクライナから独立を宣言し、3月16日の住民投票で圧倒的多数となる9割の独立賛成を得て、18日には自発的加盟という形でロシアに併合となりました。

この作戦は、作戦開始からわずか3週間という、電光石火の併合でした。

ロシアにとってクリミアは死活的に重要な地域です。ロシア海軍の黒海艦隊があるからです。もしウクライナ・クリミアが西側に組み込まれてしまえば、ロシアの南側の海軍力がなくなってしまい、同方面の防衛に穴が空いてしまうことは、ロシアにとって大きな恐怖でした。

プーチン大統領の守護霊は、2022年2月24日の霊言「ウクライナ侵攻とプーチン大統領の本心」で、「『ウクライナが独立してEU側に入る』っていうことは、神奈川県が"神奈川共和国"になって、ほかの、まあ、アメリカでもいいし、中国でもいいし、どっかでもいいけど、それとグーッと近づいていくような感じなわけですよ」と語っています(大川隆法著『ウクライナ侵攻とプーチン大統領の本心』所収)。

日本の神奈川県横須賀市には、海上自衛隊の司令部と主力艦艇が集結する重要基地があります。もし神奈川県が日本から独立し、中国と軍事協力を深めるとすれば、私たちは絶対にそれは許すことはできないでしょう。

2019年に就任したウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は、EUとNATO加盟を目指しており、プーチン氏にとって看過できない敵対的な政策だったと言わざるを得ません。またこのような西側入りを目指すゼレンスキー氏の外交政策が、ロシアと欧米を混乱に巻き込むことは、火を見るよりも明らかで、リーダーとしての判断に大きな誤りがあったと考えます。

ゼレンスキー氏はEUやNATO入りを目指すべきではなく、ロシアとの友好関係を続けながら、自由で民主的な国造りを進めるべきだったでしょう。

バイデンの対露強硬路線で米ロ関係の悪化に拍車

ただ、ゼレンスキー氏を煽って加速させたのが、米国バイデン大統領のウクライナ政策でもありました。

バイデン氏は、トランプ前大統領とは対照的に、プーチン氏を厳しく批判してきました。昨年2月の外交演説で、「ロシアの攻撃的な行動の前にアメリカが屈服する時代は終わった」と述べ、大統領就任時から対露強硬方針を強調してきました。トランプ氏がロシアに弱腰だと主張して、トランプ・プーチン関係をやり玉に挙げることで、バイデン氏自身の中国との癒着から目を逸らしたいという思惑も大きく働いていたと推測されます。

昨年3月17日には、ロシアによるナワリヌイ氏の毒殺未遂事件に関して、バイデン氏はプーチン氏を「人殺し」呼ばわりし、あわせて対露制裁を発動してきました。自尊心が高いプーチン大統領を「人殺し」と呼び、制裁を連発するアメリカに対して、ますますロシアが態度を硬直化させたことは当然で、外交上の大きなミスを犯してきました。

またアメリカは、ウクライナのロシア離れを後押しするためにさまざまな支援を行ってきました。例えばロシアによるクリミア併合7周年となる昨年2月25日には、1億2500万ドルの軍事支援を表明しています。

米シンクタンクAEIのロシア研究員であるレオン・アロン氏は、昨年4月、「西側に接近するウクライナの姿勢は、ロシアにとって受け入れられない事態である」とロシアの立場を大局的に分析しており、また「人殺し」との侮辱に対して、「プーチン氏は、このような悪口を放置するタイプではない。ウクライナ国境での事態は間違いなく彼の復讐の第一段階である」と述べています。

このようにロシアによるウクライナへの行動は、「バイデン氏がわざと対立を煽ってきた」という要因を抜きには語れません。今回のウクライナ紛争は、バイデン氏が「A級戦犯」であると言っても過言ではありません。

大川隆法総裁は、前出の霊言のまえがきで「トランプ大統領をアメリカが選んでいたら、ウクライナの戦火はなかったろう」と述べられています。

現在までの戦闘状況をどう見るべきか

2月24日早朝5時ごろからロシアによる空爆が始まりました。軍事的なセオリー通り、まずは空軍基地や対空施設を破壊し、ウクライナの制空権(航空優勢)をロシアが把握した後に、陸上部隊を送り込んで占領、というシナリオを展開しました。またその前後には、サイバー攻撃や各種の情報戦、特殊工作も行っており、当初はロシア軍ペースで急速に戦況が推移するものと見られました。

攻撃初日の24日には、首都キエフの北西約30kmにあるホストメリ空港をロシア軍のヘリ34機が強襲着陸、ロシア軍部隊が占拠しました。各種の情報によると、急襲部隊の主任務は、奇襲的に同空港を確保し、大型輸送機でロシア軍兵士約1万人を空輸、一気に首都キエフを陥れる作戦を立てていたようです。しかしウクライナ側の強固な抵抗により、ロシアの輸送機が近づくことは危険と判断され、空港を占領したものの、陸上部隊を大量に送り込むことには失敗したようです。

そのため北方から陸路で装甲戦闘車両等を送り込み、キエフを目指す作戦に切り替えたと思われます。

しかし、ここでもウクライナ側の激しい抵抗が待っていました。通常、防御側は地形を利用して強固な陣地を構築し、優位に敵を待ち受けることができるため、攻撃側は3倍の兵力が必要であると言われます。しかもウクライナへは、米軍の人工衛星や偵察機などからリアルタイムでロシア軍の動向が伝えられていたものと思われ、加えて戦車や航空機を撃破できる米国製の携帯型ミサイルなどの高性能兵器を多数供与されていたため、侵攻するロシア軍は手痛い損害を出したようです。現在でもこれら兵器などの補給は続々と届いていると見られます。

核兵器の使用はあり得る?

プーチン氏は2月27日、核ミサイル部隊などに戦闘態勢の強化を命じました。これはNATO軍がウクライナに前進してきて、ロシア軍と戦闘になった場合の対応だと述べていますので、ウクライナへの攻撃目的でただちに使われるとはあまり想定できません。

このことは2014年に発表されたロシアの軍事ドクトリンとも符号します。同ドクトリンでは、「他国からの通常兵器による攻撃が、ロシアの国家存続の脅威になる場合には、対抗手段として核兵器を使用する権利を留保する」とされていましたから、NATOの介入を抑止するための牽制であり、想定される範囲の命令であると思われます。

ただしアメリカも、2018年の「核態勢の見直し」において、ロシアが地域紛争で限定的に核兵器を先行使用する場合には、小型核兵器で対抗する旨を掲げました。このように、可能性としてはとても低いですが、ウクライナ周辺での局地的な核戦争の危機が去ったわけではありません。

ウクライナ紛争の勝者は誰か?

3月10日現在、キエフをはじめとしたウクライナの大都市は依然として占領されておらず、ロシア軍の攻撃は低調であると報道されています。また経済的にもロシアは世界各国から非常に厳しい制裁を受けており、プーチン氏が当初に想定していた戦況とは大きくかけ離れてきたように見えます。

それでもロシア軍は大きな戦力を持っていますので、最終的にはキエフは陥落し、またウクライナは敗北するというのが大筋の見方です。ただ同時に、ロシアも立ち直れないほどの打撃を受ける可能性が高まっています。

状況は不透明かつ流動的で、今後の見通しの予測は困難です。ただウクライナ情勢が泥沼化するならば、アメリカや欧州諸国は、長期的に同方面の軍事力強化を優先することが予想され、その場合、アジア方面においては中国と妥協せざるを得なくなる可能性があります。

またロシア事情に目を転ずれば、ウクライナ攻略に失敗するか、または成功したとしても許容できないレベルの損害が出る場合、あわせて国内経済や情勢の極度の不安定化は、次なる混沌を生むでしょう。

プーチン氏が失脚するなど政権の崩壊につながれば、今後、ロシアがどのように国際社会で振る舞うかは、予測不能になります。次回は、ウクライナ情勢が中露関係に与える影響についてお話します。

(後編に続く)


HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回のウクライナ情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。



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