《本記事のポイント》
- 「共同富裕」の標的にされる中国IT企業
- 次々と標的になる大女優・大俳優
- 外国籍アーティストまでもが標的に
今年3月、中国共産党は「第14次5ヶ年計画」の中で、民間企業に対し慈善活動を奨励した。また8月17日、習近平主席が中央財経委員会第10回会議で「共同富裕」の問題を提起している。「共同富裕」とは、金持ちは(「第3次分配」として)自発的に富の一部を社会に還元せよ、という意味である。
「共同富裕」の標的にされる中国IT企業
今年に入り、フードデリバリー事業を展開する「美団」の創業者の王興、総合家電メーカー「小米集団」の雷軍、TikTokを運営する「バイトダンス」の張一鳴、IT大手「テンセント」創立者の馬化騰、eコマースプラットフォーム「 拼多多」創始者の黄正などが、巨額の寄付を行っている。
もし、彼らIT企業家らが何も行動を起こさなければ、昨年10月下旬以降、姿を消した「アリババ集団」創始者、馬雲(ジャック・マー)のような運命をたどるかもしれないと危惧し、先手を打ったのかもしれない。
なぜIT企業だけ標的にされたのだろうか。他の従来型産業分野でも、莫大な利益を上げている企業は少なくない。新興のIT企業が目立つからだろうか。習近平政権の恣意的な選別が透けて見える。
次々と標的になる大女優・大俳優
次に北京政府は、芸能人に対してもメスを入れ始めた。
かつて、中国芸能界には「陰陽契約」という悪しき慣習があった。例えば、俳優への出演料は表の契約として全体の約30%だけ、裏の契約として残り約70%を支払う。すなわち裏契約が脱税となる。
近年では、2018年、女優の范冰冰(ファン・ビンビン)が最初のターゲットとなった。そのためか、一時、范冰冰は失踪している。結局、范冰冰は巨額の脱税をしたとして、罰金や滞納金など合計で約146.3億円を支払った。范冰冰の失踪を知り、他の有名俳優らは脱税を認め、自ら修正申告をしている。
今年8月27日、鄭爽(ジェン・シュアン。ドラマ『<中国版>花より男子』に出演)は12.5億円の脱税事件を巡り、上海の税務当局から約50億円の罰金を命じられた。
その3日後の30日、文化観光部は「文学芸術従事者の教育、管理、道徳建設のさらなる強化に関する通知」を発表した(『澎湃新聞』「文化観光部:文化部門および娯楽産業における資本の拡散と野蛮な成長を防ぐために」8月31日付)。習政権による「第2文化大革命」の"本格的"発動である。
既述の中央財経委員会第10回会議では、最近、文化分野と娯楽業界で「〔仮訳〕ライス(おにぎり)サークル」(ファン層の拡大に伴い、アイドル経済が発展。そこで、派生商品の購入、広告ブースの賃貸広報、投票、チャリティ活動など多様な方式が誕生)、「フローオンリー理論」(興行収入、視聴率、クリック数のみ重要視する考え方)、「女性的イメージの男性」(脂ぎった頭、粉をふいた顔、A4ウエスト<腰のサイズは21センチより細い>、か細い指を持つ気取ったアイドル)等の悪い現象が現れた。一部の芸能人は公序良俗に背を向け、職業倫理に反し、法と法規に抵触し、文芸界の風紀を乱し、文芸従事者のイメージを傷つけ、社会主義文芸の健全な発展を阻害していると指摘した。
この通知と直接関係があるのかどうか不明だが、8月16日、北京市検察当局は、元EXOの呉亦凡(クリス・ウー。カナダ国籍)を性的暴行容疑で逮捕した。被害者は8人を超えると見られ、その中には未成年者2人がいたという。
他方、8月27日、映画『少林サッカー』や『レッドクリフ』に出演した有名女優、趙薇(ヴィッキー・チャオ)は、その出演作品から突如名前が削除された。趙が設立した芸能事務所の所属俳優、張哲瀚(チャン・ジョーハン)による「親日騒動」(2019年、デヴィ・スカルノと乃木神社で友達の結婚式に参加)の影響か、あるいは、馬雲との親密な関係のせいではないかと言われているが、定かではない(なお、趙がフランスへ逃亡したという未確認情報がある)。
その他、習政権の目標になっていると囁かれているのは、以下の人物である。
(1)俳優の井柏然、(2)俳優の包貝爾(バオ・ベイアル)、(3)司会者・俳優の何炅、(4)女優の揚紫、(5)女優の徐静蕾、(6)女優・映画監督の沈夢辰、(7)映画監督の管虎、(8)司会者の馬薇薇、(9)ファッション誌編集者、企業家の蘇芒、(10)トークショー女優の李雪琴。
外国籍アーティストまでもが標的に
ただ、不思議なのは、北京が他国籍の人達をも標的にしている点ではないか。
(1)映画『ムーラン』 で注目された米国籍女優の劉亦菲(リュウ・イーフェイ)、(2)アーティストでシンガポール国籍の林俊傑(JJ)、(3)同じくアーティストで米国・台湾籍の潘瑋柏(ウィルバー・パン)、(4)女流作家・脚本家でシンガポール国籍の六六である。
なぜ、彼ら14人が中国共産党に目をつけられたのか。
第1に考えられるのは、彼らの芸または芸術が今の中国の雰囲気にふさわしくない。第2に、中国国内で儲けた分を、寄付等でしっかり中国社会に還元していない。第3に、彼らのバックに大物の中国共産党幹部がいない、などの理由から恰好の的になったのではないだろうか。
アジア太平洋交流学会会長
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
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