《本記事のポイント》

  • 内国歳入庁(IRS)が民主党に有利な世論形成に利用され始めたか
  • プロパブリカの問題報道:「バフェット氏の税率は0.1%だった」
  • 富は政府ではなく、使い方を知っているところに集めるべき

バイデン米大統領は24日、上院の超党派グループと、8年間で1.2兆ドル(約130兆円)を投じるインフラ投資計画の策定で合意した。

合意を成立させるために、野党に配慮して規模は当初の約半分とし、財源の法人増税は盛り込まなかった。内容も道路や橋、上下水道など、従来のインフラに絞っている。

だが民主党内左派は「人的インフラ投資」を実現しなければ、超党派法案にも賛成しない構えで、3兆ドル規模の米家族計画や増税策については、民主党は別の法案を策定し、財政調整措置(reconciliation)を使って成立させる構えだ。

本来なら法案成立に、60票の上院の賛成票が必要だが、財政調整措置を使えば、単独で可決できる。

米ウォールストリートジャーナル紙は25日の社説(「あっという間に超党派の合意は裏切られた(Instant Bipartisan Double Cross)」で、民主党の「二頭立て」方式は、超党派の合意に対する裏切りであり、このやり方は、合意を「人質」に取っていると批判した。

超党派の議員の交渉の中で、中心的争点となったのは財源である。共和党は2017年のトランプ減税は譲れないレッドラインとしたため、法人増税は盛り込まれなかった。しかし、日本の国税庁にあたる内国歳入庁(IRS)の権限強化は、盛り込まれた。

バイデン政権はIRSの予算を10年で800億ドル(約8.87兆円)増やす計画である。IRSの職員を倍増することで徴税能力が高まるため、今後10年で7000億ドル(約77兆円)の歳入が見込めるというのが「売り」である。

だがこのIRSも、政治利用の懸念が高まりつつある。

民主党に有利な世論形成にIRSは利用され始めたか

発端となったのは、アマゾン・ドット・コムの創業者ジェフ・ベゾス氏やバークシャー・ハザウェイを率いる著名投資家ウォーレン・バフェット氏、テスラ創業者イーロン・マスク氏、ブルームバーグ創業者など25人の納税情報が暴露されたことだ。

暴露したのは、非営利の報道機関プロパブリカである。機密扱いにされている納税記録を入手し、分析結果を発表した(入手されたのは25人のみならず数千人のアメリカ国民の納税記録とされる)。

プロパブリカは、ある匿名のソースから入手したとし、入手経路は明かさなかった。しかし不正開示は、違法行為そのもの。超党派の議員らが、増税案を盛り込むかを審議中と、実にタイミングがよい。報道内容は、民主党の「富裕層は公平な負担をすべきだ」との主張をサポートするものであり、民主党が世論形成のために、IRSの政治利用をし始めた可能性もあり得る。

プロパブリカの問題報道:「バフェット氏の税率は0.1%だった」

プロパブリカは、独自の納税率を算出している。それによると、バフェット氏の富は、税率は0.1%に過ぎないという。プロパブリカは、これほど「不公正」なことはないとするが、そもそも算出の仕方が間違っている。

プロパブリカは、所得税率を算出するにあたり、株式などの資産(富)は、2014年から2018年に増加した額と、連邦所得税の支払額とを比較する。その結果、バフェット氏は0.1%しか税負担をしていないというが、「富」は「所得」ではない。

株式などの資産は売却されて利益が実現しなければ所得とみなされないのは、主要国でも共通ルールだ。

株価などの含み資産が増えたとしても、所得が増加するわけではないため、「不公正」とは言えない。

プロパブリカの記事には、世論形成を通して、「富裕税」導入の機運を高めたいという意図が透けて見える。

富の集中はなぜ大切か

この問題に対して、元上院の銀行委員会の議長だったフィル・グラム氏と、米政策評価基準のマイク・ソロン氏がウォールストリートジャーナル紙に「貧しさを招くプロパブリカの計画(ProPublica's Plan for a Poorer America)」と題する記事を寄稿した。その内容を一部紹介したい。

  • プロパブリカは、納税情報を暴露した25人は3.4%の所得税しか納めていないというが、同じIRSのデータによると、トップ400人は連邦レベルの所得税を32%支払っている。

  • 投資家が所有する富(資産)に課税されず、彼らが資産を保有しているおかげで、資本投資が行われ、企業家の起業意欲や夢の実現を助けてきた。最終的に彼らが新しい製品やサービスを増やし、人々の生活が豊かになり、雇用も生まれてきた。

  • 資本主義の奇跡は、富の所有者、生産的なアイディアの所有者、働き手が、互いに知り合いではなくても、国の共通善の実現のために互いの利益のために働けることだ。

  • ビル・ゲイツがつくったマイクロソフト社はアメリカで、10万人以上の雇用を創出している。

  • 民間部門の投資は、32兆ドル(約3520兆円)の富を生み出してきたが、公共投資は21兆ドル(約2420兆円)の政府債務を積み上げた。

  • 富に対する税金である富裕税は、権力の拡大を目指す政治家にとって価値があるだろうが、富を所有しているか否かにかかわらず多くのアメリカ人にとって、雇用の減少、低賃金、人類の繁栄にとっての機会が減少することを意味する。国家の繁栄の種を吸い尽くしてしまうことになるのだ。

富は政府ではなく、使い方を知っているところに集めるべき

この記事で重要なのは、両執筆者が語る「富の集中」という概念である。

この点について、大川隆法・幸福の科学総裁は、著書『「未来創造学」入門』の中で、こう述べている。

資本主義においては、やはり『富の集中』が非常に大事であって、『富が集中しないと大きな事業ができない』ということは、ここ百年余りの歴史のなかで、当然、起きてきていることです。要するに、富の使い方をよく知っている人のところに富を集めたほうが、この世の経済原理はうまく働くことが、経験則上、分かっているわけです

政府に資金を集め、公共投資をさせたら21兆ドルの赤字──。そんな数字が物語るように、富はその使い方を良く知っている人のところに集めなければならない。

とはいえ金持ちは合法的な租税回避の方法をいくらでも持っている。

だからこそ簡素な手続きで納税できるフラット・タックスが求められているのだ。そうすれば、租税の回収のためだけに、国民の税金を使い監視社会を構築しなくて済むので、IRSの権限は最小限に縮小できる(フラット・タックスについては、6月30日発売のリバティ8月号の連載で、ラッファー博士が語っているので、参照されたい)。これこそ国民の自由を守る政策だ。

豊かな人を目の敵にすれば、アメリカは、「富」を生む源泉を失う。平等化と経済成長とを両立した国はないからである。

もちろん機会の平等は確保されなければならないが、政府の介入による調整を間違えると、アメリカは没落しかねない。

プロパブリカによる暴露報道は、今後も数ヵ月続くとされている。この暴露報道には、日本人も注意して付き合う必要がありそうだ。

(長華子)

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