《本記事のポイント》

  • 「生産力」と「お金の量」の観点からMMT理論を捉えるとその危険性が分かる
  • コロナが打撃を与えたGDPの7割を占めるサービス産業の特徴は「人と人が接する」ところにある
  • サービス産業の付加価値を上げれば、まだまだ経済成長は可能

コロナ不況に対する政府の対策はどこまで妥当と言えるのか。今後のあるべき経済政策について、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の経営成功学部で、経済政策を教える西一弘アソシエイト・プロフェッサーに話を聞いた。

(聞き手 長華子)

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HSUアソシエイト・プロフェッサー

西 一弘

プロフィール

(にし・かずひろ) 1971年、兵庫県生まれ。京都大学経済学部卒業、東京大学大学院経済学研究科中退。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)経営成功学部で経済政策を教えている。

──政府は、今年度90兆円の国債を発行し、コロナ対策に充てることにしました。1100兆円の政府債務を抱え、財政健全度は世界でも最悪です。自国通貨建ての国債を発行する国は財政破綻しないので、もっと債務を増やせるとするMMT理論も流行っていますが、この理論について、どう考えるべきでしょうか。

西: 一時的な場合であれば、経済を救済するために財政出動するという方法に訴えることもあり得ます。しかしリーマン・ショックと違って、コロナは再度流行する可能性があります。

この理論の支持者は、インフレにならない限り、貨幣を増発することで政府が財政出動を続けるのをよしとしています。

この理論の妥当性を考えるためには、「生産力」と「お金の量」の2つの観点から考えてみることが必要です。

まずコロナウィルスは、生産力を止める力が非常に大きいと言えます。

日本のGDPの約25%は第二次産業の製造業が占め、約70%は第三次産業のサービス産業が占めています。コロナは、この2つを直撃するのです。人の密集が問題であれば工場は稼働できず、第二次産業の効率は下がります。

とくに問題なのは、第三次産業のサービス産業に与える影響です。サービスにおける「生産」、つまりサービスを提供し消費するという経済活動は、主に「人と人とが接する」時に生まれます。コロナで人との距離を保つことを強制されると、人と人とが接するサービス産業が成り立ちにくくなります。

お金の量については、政府が新規に90兆円の国債を発行して、コロナ対策に充て、足りない歳入を補う予定です。当初、銀行などが新規の国債を購入したとしても、一方で日銀は国債を市場で買い取る計画を立てています。日銀が購入する際には、購入代金として新たに貨幣を発行するため、事実上、新たにお金を刷っているのと同じことになります。

経済規模が拡大すれば、お金がたくさん必要になります。つまり生産力に見合った量のお金が流通している状態が健全な経済であると言えます。つまり、健全な経済状況においては「生産力」と「お金の量」がおおむね比例すると考えてよいでしょう。

生産力が縮小するのにお金だけ増えると、お金の価値が下がる、つまり、物価が上がります。経済が縮小しているのに物価だけが上昇すると、人々の暮らしは非常に厳しくなります。

その考えからすると、あくまで理屈上の話ですが、仮にコロナの影響で、GDP(国内総生産)がマイナス20%になった場合は、「生産力」と「お金の量」を比例させるためには、市場で流通しているお金も20%回収した方がよいということになります。

実際には、一時的な経済の落ち込みなら、景気を回復させるための"誘い水"として貨幣の供給量を拡大する、という政策もあり得ますが、それは、景気回復後に適正な水準に戻すことが前提の話です。

自民党議員の中にも、MMT理論の支持者が一部いるようですが、生産力が落ち、将来の経済成長に見通しが立たない中で、さらにお金を刷って市場に供給するMMTは、将来のインフレのみを招く、危うい政策なのです。

日本の財政は危機的な状況にある

第二波でさらなる財政出動をしなくても、日本には1100兆円の政府債務があり、財政状況が非常に悪いため、危うい状況にあります。

また超高齢化社会を迎えており、このままでは国の生産力が落ち、将来的には円の価値が下がると考えても不思議ではないでしょう。財政状況と合わせて考えると円が投げ売りされて極端な円安になり、輸入物資が高価になりその結果インフレになる、というリスクシナリオは常に付きまとっています。

大川隆法・幸福の科学総裁は、書籍『先見力の磨き方』の中で、アベノミクスは、本来のプランになかった消費増税を付け加えた結果、理論的に崩壊し、「デフレから脱却できず、経済成長もできず」という状態で走っていることを指摘しました。この先には、2つの選択肢があるとして、こう述べています。

この先には、二つの選択肢が来るはずです。それは、デフレスパイラルに戻っていく可能性と、国債暴落によるハイパーインフレーションが起こる可能性、この二つの道です。今はどちらを選ぶか迷っているので、その"中間"のところを走っていますが、結論を出そうとしたら、どちらかのほうに振れるはずです。

これは理論的にそうなっているのです。ボウリングの球を転がすのと同じで、まっすぐピンに当たればストライクが出るかもしれませんが、ガーターという横の溝に落ちたら、ピンは倒れません

安倍政権は、アベノミクスでマイルドなインフレによる経済成長を狙っていました。消費増税の導入で、この戦略がとん挫し、デフレによって経済が徐々に衰退するか、「生産力」の裏付けのない国の「国債」の信用が失われ、国債の暴落でハイパーインフレになるかという道筋をたどっているということです。日銀が国債を買い取ることで暴落を防ぐという手段もありますが、その際には「円」を大量に発行することになり、今度は「円」の価値の暴落につながります。

諸外国の財政状況も悪化しつつある

ただ、財政状況は日本だけが悪化しているわけではありません。日本のバブル崩壊後も、リーマン・ショックや、欧州経済危機が起き、現在は諸外国もコロナ対策で、実質的にはMMTを政策として採っているような状況だからです。

GDPの2倍以上の債務をかかえている日本であっても、国債が暴落していないため、まだ大丈夫だという安心感を与えているのかもしれません。

つまり相対的に見たら、日本の問題は目立たないけれども、日本だけ見たら末期的症状だと言えます。コロナだと全世界の問題ですが、もし日本にだけ疫病が流行ったら、日本円は売られていたかもしれません。

すでに経済的に弱い国の通貨は売られ始め、ブラジルやアルゼンチンの通貨は下落しています。日本は大国ではあるので、すぐ円は売却されないとはいえ、危機は先送りされているだけなのです。

「国家百年の計を持て」

──こうした最悪の事態を防ぎ、日本経済を回復させるには、どうすべきでしょうか。

西: 大きく分けて二つあるでしょう。一つは、国家百年の計として、宇宙産業などの未来産業に日本が本腰を入れ「繁栄する強国になる」という決意を示すことです。

日本が大戦略を掲げて本腰を入れ始めたら、「日本の未来は明るい」と市場は考え、円が売られ暴落し物価が高くなってハイパーインフレになるというシナリオは起きません。

これを実現するには、国の将来のために、大胆に投資をするという決断ができる政治家が現れることが必要です。

デフレ下でもディズニーランドのパスポートの価格が上がった訳

もう一つは、付加価値を生み出す産業のあるべき姿を見直すことです。

そもそもコロナ以前から経済はデフレで横ばい状態でした。経済が成長しない理由の一つに、新しく魅力のあるものが生産されていないという問題があります。

たとえば100円ショップなども当初は目新しく魅力がありましたが、現在は当初の魅力を失っています。

このような大量生産・大量消費型の経済のままでは、既存の商品の値段が下がって、付加価値が下がり、GDPは横ばいになってしまう。

でも実は、日本の産業構造を見ると、大量生産を強みとする製造業は、GDPの25%を占めているだけで、残りの70%はざっくりいうと、サービス産業が占めています。先ほども述べた「人と人が接する産業」です。

分かりやすいたとえを挙げると、ディズニーランドがあります。デフレのときにも入場料(パスポート)が上がり続けましたね。つまりデフレ下でも、値打ちを感じるものには、人はお金を払うのです。

生産性の高い顔の見える経済の構築を

イノベーションというと、GAFAに代表されるデジタル産業を思い浮かべる人が多いと思います。しかし、デジタルは、どんどん値段が下がり、ゼロ円になることも多い。「付加価値=売値―原価」で表されるものですから、それでは付加価値はゼロになってしまいます。

例えば、寿司職人がつくった寿司と回転寿司の寿司とでは、値段が違います。これは、工業化の観点からは非効率に見えますが、実は生産性が高いことを意味します。大量生産型とは一線を画した、心を込めてつくった物などに対して、みんながお金を払うのです。

GDPとは国内で生産された「付加価値」の総量です。売上と原価の差額の部分の付加価値が増えるほど、GDPが成長していきます。原価がかかっていなくても、心を込めたおもてなしに何万円も払ってくれることもある。ここに経済が成長していく道があると考えています。

デフレの中でも、どうしても欲しいものにお金を支払ってくれるような、市場で評価される経済をつくっていくことが大事になってきます。

モノづくりに強みのある日本ですが、今後は人間相手のサービス産業においても、強みを発揮していくことが求められるでしょう。

──コロナを受け、政府の諮問会議では、「新たな日常」として「デジタル・ニューディール」を掲げ、デジタル化への集中投資・環境整備を行う方針を骨子として掲げました。

西: このままでは、リモート・ワークや、人と人との間に、常にAIが関与するような管理が進む未来がやってくる危険性を感じます。幸福の科学の教えによれば、あの世では、自分とタイプの違う人とは違う世界に住んでいると言われています。その意味で、AIが人間の間に立ち入り過ぎる社会は、人と人が接して学び合うというこの世での魂修行の意味を奪うことにもなります。

非接触型のビジネスや生活がかっこいいという風潮に踊らされると、社会がそうした方向に進みます。

この潮流にどうカウンター・パンチを打ち続け、コロナの感染を過度に恐れず、創意工夫を重ねて、そして勇気をもって、人と人が接する経済を推し進め、人間の顔をした経済を取り戻せるか。今、それが問われていると思います。

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