千葉商科大学大学院教授の吉田寛氏。

消費増税が行われて1カ月が過ぎた11日、内閣府は、街角の景気を示す「現状判断指数」(季節調整値)が、前の月に比べて10ポイント減の36.7ポイントだったことを発表した。この水準は、東日本大震災後の2011年5月以来、8年5カ月ぶりの低さとなった。

震災級の悪影響を与えたと言える消費増税。これに対し、長年、減税政策を訴え続けている会計学者のインタビュー記事を再掲し、税金の意味や財政改革のあるべき姿について考えてみたい。(※2018年4月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの)

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千葉商科大学大学院教授

吉田 寛

プロフィール

(よしだ・ひろし)1957年生まれ。2003年に千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。現在、同大学院会計ファイナンス研究科教授。千葉県のハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)でも教えている。公会計研究所および自由経済研究所代表。専門は公会計。著書に『公会計の理論―税をコントロールする公会計』などがある。

――トランプ米政権は大型の税制改革を行っています。

吉田氏(以下、吉): レーガン政権(1981~89年)以来の大減税です。理想的な財政運営としては、アメリカの第30代大統領、クーリッジ(在任1923~29年)をあげるべきでしょう。クーリッジ大統領は、「必要以上の税を集めるのは合法的強盗だ」と述べ、減税と政府支出の削減を行い、さらに財政の黒字化にも成功しました。

アメリカ・第30代大統領(在任1923~29年)ジョン・カルビン・クーリッジ・ジュニア。所得税の最高税率を戦時中の73%から25%に引き下げた。富裕層に対する所得減税としてはアメリカ史上で最大となる。

税金には国民の同意が必要

サッチャー元英首相からの激励

2010年9月、ロンドンで開催されたWTA(世界納税者連盟)で講演を行った際にサッチャー氏より激励を受けた。

――なぜ「合法的強盗」が可能になったのでしょうか。

吉: 民主主義を標榜する国であれば、政府は「国民の承諾」があって、はじめて税金を徴収することができます。専制国家では、一人の専制君主が勝手気ままに課税するので、納税者の恨み辛みは専制君主に向かいます。

民主国家では、バラまきを求める貧しい人が多ければ、富裕層からお金を巻き上げる「略奪」法案が議会で認められ「合法化」されてしまいます。貧しい人の声が優先され、「納税者の承諾」は形ばかりになります。これを本当の民主政と言うのでしょうか。

1789年にフランス革命が起き、主権と権力が分離しました。つまり、主権と権力を一身に担っていた専制君主は排され、国民が主権者となりました。フランス人権宣言の第14条は、「国民は税金の有効期限についても規定することができる」と定めています。「とりあえず3年間やらせて駄目だったら、統治者に税金を払うのはやめよう」というオプションを用意していたのです。

73年に、イギリスの植民地だったアメリカに住む人々が同意のない紅茶への課税に反発してボストン茶会事件を起こします。それが76年のアメリカの独立宣言へとつながりました。

日本でも、納税者が税をコントロールすべきだという自由民権運動が起きました。明治6(1873)年、板垣退助が東京・銀座に「幸福安全社」を創設し、翌年に「民撰議院設立建白書」を左院に提出します。この中で板垣は、「政府に対して租税を払う義務のある者は、すなわち、その政府のことを預かり知り、可否する権利を有する」と主張します。

政府に対して税を払う人は、政府の仕事を知り、政府の事業をやめるべきか否かを決める権利を持つ、としたのです。

いつまでたっても資金が足りないという社会保険料を払ったり、いくら預かったかも満足に記録されない年金に対して、「それはおかしい」とか、「政府に任せるのはやめる」と言う権利が、主権者にあるのです。本来、主権者である私たちが政府をコントロールすべきです。

それができないのであれば、建白書が書かれた明治7年よりも遅れた民主主義社会を生きていると言えます。時間が進んだからといって、日本の民主主義が進化するのではありません。

改正すべきは9条よりも90条

吉: 明治15(1882)年、板垣の自由民権運動に抗うことができなくなった伊藤博文は、あるべき憲法を求めて、プロイセンのグナイストに学びます。グナイストは、外交や軍事、財政に議会の口を挟ませてはいけないと伝授します。伊藤はこれに従います。

こうして行政の会計責任が抹殺された大日本帝国憲法第72条ができ、現代の日本国憲法第90条に受け継がれているため、戦後も、役人が予算をコントロールし、国会議員が事実上、口を出せないようになっています。民主主義を掲げるのであれば、9条よりも90条を変えるべきです。

マーケットの力を信じよう

――政府の介入を小さくすべき理由を教えてください。

吉: 買い物をする時に、たくさんの品が揃えてある店は魅力的ですよね。多様性がマーケット(市場)の魅力なのです。余り物とか、変わり者とか、そういったことに価値を見出すところがマーケットなのです。

交換することによる効用は、マーケットの拡大と共に増えていきます。

豊かさは、他人の成功を"利用"することで生まれます。マーケットは余剰を豊穣に変えます。自分にとっての余り物が他人に価値があれば、交換をすることでより豊かになるのです。

――マーケットに政府が介入するとどうなるのでしょうか。

吉: 豊かさは、気持ちの問題です。10俵のお米のうち、4俵を税金として取られたら、交換に当てられるのは残りの6俵です。税として取った政府の仕事に価値がなければ、それは略奪です。よい交換をして「ありがとう」に変化するはずだったお米は「悔しい」という気持ちに変わっていきます。プラスがマイナスになるのです。

このところ、政府は国民所得の半分を使っています。国民が「ありがとう」と言えない使い方をしているなら略奪です。略奪が横行するとマーケットから取引は消えていきます。経済の成長は止まり、やがて衰退していきます。税を負担しても経済がなんとかなるのは国民所得に対して25%くらいまでです。

経済が疲弊している時に減税したのはクーリッジ大統領ばかりではありません。仁徳天皇は、民家のかまどから煙が立っていないのを見て、3年間すべての税を免除しました。3年後、煙が立つようになったのは、政府が略奪を止めたからなのです。

自治体の「成果報告書」

吉田氏は、2011年より栃木県大田原市の「成果報告書」の作成に取り組み、各事業の成果と市民の負担を開示している。右は、津久井富雄市長。

――政府が借金を減らすには?

吉: 経営者は「損益計算書」で株主に利益を提供したか否かを示します。株主は黒字を出す経営者を再任し、赤字を出す経営者をクビにし、企業を発展させてきました。

主権者である国民は、株主のようなものです。政府は「雇われマネージャー」にすぎません。

自分たちが払った税金がうまく使われているのかを株主のようにチェックすることで、安い税金で良いサービスを受けることができます。

私は、政府は主権者に事業の成果とコストを報告すべきだと考えています。当初予定した成果と、実際に提供した成果を示し、納税者でもある主権者の負担を示す「成果報告書」を作成するのです。こうして納税者は、政府や自治体が行う事業を継続するべきか否か、判断できるようになります。

例えば、赤ちゃんを授かったばかりのお母さんが働きやすいようにと、保育所がたくさんつくられています。しかし、2000年度の東京都江東区立の0歳児一人当たりのコストは589万円です。各家庭が月々2万円弱、1年で23万円を自己負担し、残りの566万円を納税者全体で負担しています(上表)。これは、0歳児のための保育所をつくるほど赤字事業が拡大することを意味します。保育所以外でも、子育ての支援ができないか、方法を考えるべきですね。

政府が行おうとしている教育無償化も、成果報告書で表すと、どれだけ赤字が増えるか一目瞭然です。つまり政策の良し悪しがはっきりするのです。

私は成果報告書を作成することで自治体が良い仕事をしているのか、していないのかを分かるようにするお手伝いをしています。子供に借金を回さない財政運営をする自治体が増えることを願っています。

【関連書籍】

『夢は尽きない 幸福実現党立党10周年記念対談』

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大川隆法×釈量子著 幸福の科学出版

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