元旦の社説には、その新聞の考え方や何を重視しているかが表れます。本欄では2019年の元旦の読売、朝日、毎日、日経、産経、東京の6紙の社説を概観します。

トランプ政権に対する評価が分かれた

読売「米中対立の試練に立ち向かえ」

  • アメリカが内向きの政治に転じ、欧州はポピュリズムの横行と英独仏の混迷で求心力が低下。世界の安定を支えてきた軸が消えつつある中で、最も警戒すべきはアメリカと中国の覇権争いによる混乱だ。

  • 「アメリカ第一主義」のトランプ大統領への不安は尽きない。貿易赤字縮小という目先の利益を外交や安全保障より優先してきた。

  • 多国間協調を支える自由貿易の網を広げることは急務である。米国との貿易協議に取り組みつつ、米国が離脱した環太平洋経済連携協定(TPP)の拡大や、中国やインドなどアジア各国との自由貿易圏づくりを進めたい。

  • 社会保障制度を支える消費増税が10月に控える。超高齢社会の安定財源であることを周知すべきだ。

日経「日本は自由貿易や国際協調の重要性を説き続けるべき」

  • アメリカをリーダーに世界の安全保障や自由貿易を守ってきた体制は大きく揺らいだ。

  • こうした地政学リスクに日本は立ち向かわなくてはならない。自国第一主義に傾くトランプ大統領らに、自由貿易や国際協調の重要性を説き続ける必要がある。

  • 10月には消費税率が10%に引き上げられるが、19年度予算で手厚すぎるほどの対策を講じており、消費腰折れのリスクは小さい。

  • 資本主義や民主主義の疲弊が海外で目立つが、日本はこのふたつの価値を守り、米中などに働きかける責任がある。

産経「トランプ氏は安倍首相に米中のどちらかを選ばせる」

(※論説委員長の「年のはじめに」の記事から引用)
  • 平成は「敗北」の時代だった。その理由の一つとして、中国の共産党独裁体制を支援した失策が挙げられる。日本は平成元年の天安門事件後、国際的に孤立した中国共産党政権を助け、国際社会に復帰させた。中国が一党独裁を維持したまま、世界第2位の経済大国に成り上がった出発点はここにある。

  • トランプ氏が米大統領選を勝った3年前の秋、「トランプでいいじゃないか」という記事を書いた。その思いは、「トランプで良かったじゃないか」との確信に変わった。

  • 日本は米中の狭間でうまく立ち回れる、と今でも思っているならば、よほどのお人よしだ。トランプ氏はいずれ、安倍首相に、アメリカと中国のどちらかの選択を迫るだろう。

  • 日米安保さえあれば大丈夫だ、という思考停止の時代はまもなく終わりを告げる。

読売や日経は、「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領の政策に否定的ですが、産経の論説委員長は「トランプで良かった」と肯定的に捉えていることが分かります。

米中の覇権争いは、今年さらに激しくなることが予想されます。しかし、トランプ政権が「米国第一主義」を掲げて対中強硬的な政策を並べているのは、中国の軍事力拡大による安全保障上の懸念があるためです。日本が「中国を含めた自由貿易圏づくり」を進めることは、中国包囲網づくりを妨げる可能性があります。

また、「消費増税による冷え込みへの対策は十分」「消費税は超高齢社会の安定財源」という見方には注意が必要です。消費税の引き上げで個人消費はさらに冷え込む恐れがあり、消費税を財源として社会保障が充実されても日本の景気の押し上げにはつながらないでしょう。

朝日「政治改革30年の先に 権力のありかを問い直す」

  • 自民党が1989年に「政治改革大綱」を出してから30年が過ぎた。政治改革がもたらした功と罪を総括し、次の段階に進むべき時である。

  • 国会を強くする必要がある。議院内閣制の下では、内閣とそれを支える衆院の多数与党が一体となっている。与党は数の力で政府提案を次々通していこうとする。一方で国会には、政権中枢や各省庁の活動を監視する役割がある。

  • 安倍政権は憲法に基づく野党の要求を重ねて無視してきた。違憲批判が起こるのは当然だ。

毎日「AIと民主主義 メカニズムの違いを知る」

  • 今やネットサービスは必需の生活インフラだが、膨大な個人データをAI(人工知能)が処理する時、私たちは思いがけない事態に直面する。民主主義との緊張関係だ。

  • 強力なAIは利用者の消費性向を知り尽くそうとする。その精度が高いとしたら、政治分野に応用することは容易だろう。

  • 民主主義の価値は試行錯誤を重ねるプロセスにある。人間は一人ひとり違うからこそ、対話を続けて集団の共感を維持しようとする。処理の速さと分類を得意とするAIとは根本的なメカニズムが異なる。

  • 私たちはこれまでAIに対し無防備過ぎたかもしれない。議論をする。互いを認め合う。結論を受け入れる。リアルな肌触りを省いたら民主主義は後退する。

東京「分断ではなく対話の時代であれ」

  • アメリカでは貧しい白人労働者たちを「忘れられた人々」と称したトランプ氏が勝ち、欧州では移民を嫌う右派政党が躍進。人権宣言の国フランスでは黄色いベスト運動が起きた。格差が、不平等が、政治に逆襲した。

  • 多数派は少数派の声に耳を傾けねばならない。多数の利得が少数の損失のうえに築かれるのなら、それは国民全体の幸福とはいえない。

  • 自由と競争は必ず不平等を生じさせるが、それを正すのが政治の役割である。

各紙、政治のあるべき姿を問う社説になっています。民主主義の大切さは言うまでもありませんが、多数を占めたものが必ずしも正しいとは言えません。

大川隆法・幸福の科学総裁は、著書『青銅の法』で、「 この世の政治・経済的な意味においては、『自由』『民主』『信仰』の三つを浸透させるべく、地上的な活動を続けていくことが 大事です 」と説いています。

人間を超えた存在である神仏を信じ、神仏の願いは何かを考えながら正しさを求めていくプロセスが、民主主義の本当のあり方ではないでしょうか。

各紙の価値観が色濃く反映されている

元旦の社説を読み比べると、各紙の価値観や主張が記事に色濃く反映されていることが改めて分かります。方針や方向が異なる複数筋の情報や、各紙の異なった意見を比べることで、世論を操作しようとしている意図が見えてくることもあります。

今年も新聞から情報を得る際には、こうした各メディアの論調の違いを意識して読む必要があるでしょう。

(小林真由美)

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