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《本記事のポイント》

  • 中国が尖閣諸島を侵攻したら、米軍の出動に賛成するアメリカ人は4割しかいない
  • 自衛隊の現戦力では中国に勝てず、「非対称戦」を想定する防衛大綱は正しい
  • 日本は米軍が来援する間は自衛しなければならず、防衛費倍増が必要

もし中国が尖閣諸島に侵攻した場合、アメリカは軍隊を出動すべきかについて、アメリカ人約1000人を対象とした世論調査が行われ、出動に賛成した人々は、たったの41%に過ぎないことが分かった。米シカゴ・グローバル評議会が11日に結果を発表した。

それによると、回答者の91%は、日米の経済関係は重要だと答え、安全保障については、79%が重要であると見ているという。しかし、実際に中国との戦闘行為に及ぶと、日本はアメリカの力を頼ることなく、独力で守るべきと考える人が多数であることが示された。

日本国民は、アメリカが守ってくれるから安心と考える向きが強いが、アメリカ国民はそうではない。米軍が日本を支援したくても、アメリカ国民が強く反対すれば、米議会は陸海空の派遣に賛同できず、日本は独力で戦うほかない。

自衛隊は中国軍に負ける

では、本当に尖閣諸島で軍事衝突が起きたら、日本は中国に勝てるのだろうか。元西部方面総監で元陸将である用田和仁氏は、弊誌2018年12月号のインタビューでこう語っている。

「中国はまず、戦わずして勝つ『情報戦』を駆使し、日米の戦う意欲を削ぎ、中国に有利な世論に操作します。次に『サイバー攻撃』で国家機能やインフラを攪乱し、海上民兵を投入して港湾などを占拠。その後、ドローンや巡航ミサイルなどで集中攻撃(飽和攻撃)を仕掛け、旧式の軍艦や航空機も投入し、こちらの弾を撃ち尽くさせます。この後、新鋭艦や新鋭機を投入するのです。ここでようやく海・空の日中決戦が起きますが、日本に戦力が残っているのでしょうか」

つまり、日中戦争では、硫黄島の戦いのような上陸作戦や、ミッドウェー海戦のような艦隊決戦は起きない。中国はドローンやミサイルなどの圧倒的な物量によって、自衛隊の弾を撃ち尽くさせ、日本の屈服を狙うという。

日本はその苛烈な攻撃に耐えなければならないが、残念ながら対抗できないだろう。

F35は零戦の二の舞になる

また、日本が導入する米ステルス戦闘機F35は、中国の最新鋭機J-20より優れているから中国に勝てるという見方が一部にある。確かに1対1で戦えば、勝てるかもしれない。だが、F35といえども、複数の敵機に囲まれ、多数のミサイル攻撃を受ければ、ひとたまりもない。ミサイルの搭載数も限られている。

先の大戦でも、世界一と称された零戦は、多くの米軍機に取り囲まれる「ランチェスターの法則」に基づく作戦によって敗れた。日本の技術力は、アメリカの工業力を前に敗北した。いくらF35が技術的に優れていても、中国がランチェスターの法則で挑めば、勝てないと言えよう。

中国の物量には「非対称戦」で戦う

日中の戦力バランスは、中国の20兆円を超える国防費によって差がつき、年を追うごとに日本の戦略的環境は悪化している。中国の数こそが強さの秘訣であることを思い知らされる。

そこで日本政府は「防衛大綱」の見直しを迫られ、今月13日に「多次元統合防衛力」という新しい概念を打ち出す方針を固めた。

要するに、艦艇対艦艇、航空機対航空機という「対称戦」では、中国の物量、工業力に勝つことはできない。そうした苛烈な攻撃に対しては、宇宙やサイバー、電子戦で対抗する「非対称戦」によって、中国に勝利するというわけだ。

非対称戦の例を挙げれば、戦国時代に起きた「長篠の戦い」がある。当時、最強と謳われた武田騎馬隊に対し、織田信長は火縄銃によって勝利を収めた。「軍事革命」によって、既存の兵器を無効化することは極めて大事な考え方だ。

前出の用田氏は、「船を沈め、電磁領域で勝利する兵器をいち早く装備化すること」と語り、艦艇を沈める地対艦ミサイルの量産と、電磁波を使った新兵器などの実戦配備の必要性を指摘している。

財政守って、国滅ぶ

サイバーや宇宙、電磁領域という「新しい戦い方」で対抗するという防衛大綱の見直しは正しい。しかし、大綱に明記されたからといって、国防力が強化されたわけではない。必要な予算をつけ、兵器をいち早く装備化しなければならない。

とすれば、5兆円足らずの防衛費で、急速に高まる中国の脅威に対処できるのか甚だ疑問である。しかも財務省は、今後5年の中期防衛力整備計画で、防衛費1兆円のコスト削減を求めており、財政均衡主義を重視し、中国の脅威を軽視している。

もちろん、税金の無駄遣いは許されない。しかし、必要な装備に予算をつけることを渋り、中国の軍拡に対応できず、尖閣諸島を奪われることがあれば、それこそ国家的損失は計り知れない。「財政守って、国滅ぶ」ということになりかねない。

防衛費の大幅増は、必要なコストだ。左翼的マスコミは、防衛費を少しでも増やせば反発するが、表面的な議論ではなく、その装備が必要であるか否かを議論すべきであろう。

米軍が来援する間は自衛

ただ、日本が単独で中国に立ち向かうことは現実的ではなく、引き続きアメリカにある程度の加勢を担ってもらい、日本を防衛するように説得する必要がある。しかし、その代わりに日本は、一定の防衛義務を果たさなければならない。どこの国であっても、その国の防衛はその国が責任を持つのは当然であるからだ。

日本は、1カ月前後と予測されている中国のショート・シャープ・ウォー(短期激烈戦争)に耐え、米軍が戦力を立て直し、本格的な反攻作戦を開始する間は、自衛する必要がある。そうした状況を想定した場合、少なくとも防衛費を倍増させ、核武装も行うなど、「自分の国は自分で守れる」体制を早期に築かなければならない。

そうしなければ、かつてナチスの攻撃によって、焦土と化したイギリスと同じ轍を踏んだり、亡国の危機に直面したりするだろう。日本は、そうした運命になりたいのか否か、時代の選択を迫られている。

(山本慧)

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