2018年11月号記事

編集長コラム

特別編

中国の「技術略奪」の時代に終止符を


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中国の「技術略奪」インタビュー - 中国の「技術略奪」の時代に終止符を 編集長コラム 特別編 Part.2

中国の「技術略奪」インタビュー - 中国の「技術略奪」の時代に終止符を 編集長コラム 特別編 Part.2


Interview

中国の「技術略奪」インタビュー

留学生を使って知財を奪う中国

中国研究の第一人者であり、40年以上各国からの留学生教育に携わってきた研究者に、中国の恐るべき人材活用戦略について聞いた。

(編集部 長華子)

中国問題専門家

遠藤 誉

プロフィール

(えんどう・ほまれ)1941年旧満州国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。東京福祉大学国際交流センター長、筑波大学名誉教授、理学博士。著書に『習近平vs.トランプ 世界を制するのは誰か』『毛沢東 日本軍と共謀した男』(中文版も)など多数。

『中国がシリコンバレーとつながるとき』

覇権を握るには、人材活用に尽きる。それを見抜いて、戦略的かつ貪欲に頭脳を集める中国の内幕を明かした一冊。

――中国は産業政策の「中国製造2025」を実現するために、人材を集めています。

遠藤氏(以下、遠): 中国は世界一のハイテク製品生産量を誇りにしています。しかしそのキーパーツの90%は輸入に頼っており、組み立て国に過ぎないのです。そこで2025年までにICチップの70%を国産にして自給自足しようというのが目的です。

国家戦略を支えるのは人材です。私はかつて中国政府の人材開発顧問もしていました。その経験から、中国の人材獲得戦略は「スパイ活動」と深い関係があると言えます。

加速する「頭脳」集め

――トランプ米大統領が「中国人留学生はスパイだ」と発言していました。

遠: 中国大使館や領事部の中に、「教育処」という部局があります。海外に留学した学生に、大学ごとの「学友会」をつくらせて、学友会会長が教育処と常に連絡を取っています。学生は名簿上で管理され、不穏な動きをする学生は報告されます。

また博士号を取得して海外企業に就職した中国人は直接、国家人事部に管理されています。

これは、1996年の「第9次5カ年計画」に由来します。中国は当時、WTOへの加盟に向け産業の競争力の強化が必要だったので、全世界で活躍する中国人元留学生と中央政府を結びつける「中国全球人材信息網」を作ったのです。

この人材網は、技術移転が目的でした。このリストを使って中国当局が必要とするコア技術を持つ人材を一同に集め、中国での会合に招待。往復の経費は全て中国政府が負担します。帰国した暁には、「留学人員創業パーク」に入って、起業の際の補助金などが提供されます。

中国人元留学生を呼び戻す流れは、第18回党大会が開催された2012年以降に一層加速し、帰国した留学生は、約231万人もいます。1978年の改革開放以来の帰国者の約半分の人数を占めるほどです。

アメリカのシリコンバレーはICチップ生産の聖地ですが、ICをIndian Chinese(インディアン・チャイニーズ)と表現するほど、中国人が圧倒的に多い。そこで培った技術を中国に持ち帰って中国の半導体産業に役立て、「中国製造2025」を完遂させようとしています。このチップ(コア技術)さえあれば、それは宇宙開発にも軍事開発にも応用できます。

だからこそ、トランプ大統領はどんなことがあっても「中国製造2025」を阻止しようと、米中貿易戦争を仕掛けているのです。

大学との共同研究は危険

――中国の通信大手ファーウェイが日本の大学と共同研究を行っています。

遠: 建国後、中国には国営企業しかなかったので、改革開放後も民間企業に研究開発をする機能が育ちませんでした。そこで大学に企業を付設するという形の産学連携が盛んになっています。だから海外の大学に対して産学連携を持ちかけるのです。

一方、日本では、大学に対する政府からの補助金が減り、基礎研究に予算をかける余裕がなくなっています。もちろん中国は、どの大学でどのような研究をしているのかを調べ尽くしており、中国に必要な技術を持っているのに予算が足りない日本の大学を狙っています。研究者は、「あなたの研究は素晴らしい。費用を出すので、一緒に研究をしませんか」などと言われたら、共同研究に乗ってしまうのです。理工系大学に対する日本政府の政策の弱点を突いているわけです。

――孔子学院をどう見ますか。

遠: 孔子学院は、表面上は、文化交流を装ってはいますが、実態は思想文化的に親中派を増やし、世界を「中国化」させて、世界制覇を達成するための道具の一つです。中国は、これを2020年までに全世界に普及するという目標を掲げています。

孔子学院の普及は、その国への中国の国家権力による思想工作と介入を意味しますが、日本の政治家は対策を立てていません。

国家にとっては、精神文化が一番大切なものです。文化的に中国化されることの危機感をもっと持つべきだと思います。


Interview

中国の「技術略奪」インタビュー

中国スパイ活動への監視を強化せよ

長年、金融政策の視点から中国問題に警鐘を鳴らしてきた専門家に、中国の知財侵害の問題とその対策について聞いた。

産経新聞特別記者・編集委員

田村 秀男

プロフィール

(たむら・ひでお)1946年、高知県生まれ。1970年、早稲田大学第一政治経済学部卒、日本経済新聞入社。ワシントン特派員、米アジア財団上級フェロー、香港支局長、編集委員などを歴任。2006年から産経新聞に転じ、同社特別記者兼編集・論説委員。著書に『人民元の正体』『中国経済はどこまで死んだか』など多数。

『検証 米中貿易戦争
~揺らぐ人民元帝国~』

貿易摩擦は「人民元vs. ドル」戦争を誘発する。人民元の流れから米中関係を分かりやすく解説した一冊。

――中国の知的財産の窃盗についてどう対処すべきでしょうか。

田村氏(以下、田): アメリカでは、8月に国防権限法が成立しました。これにより外国投資リスク審査現代化法が成立し、諸外国による対米投資の審査が厳格化されます。

中国は、これまで投資ファンドを通じて、AIなど先端技術を開発する企業に巨額の資金を提供してきました。その中には人民解放軍が管理するダミーファンドもあります。今後、アメリカは国内の企業に対する中国の影響を阻止するために、審査を厳格にしていくでしょう。また、不動産の取得も審査の対象となるので、軍の関係施設近辺の土地や建物を外国の投資家や企業が買う場合も阻止できるようになります。

――ファーウェイやZTEも国防権限法の対象となりました。

田: 米議員団は2012年に、ファーウェイ本社に乗り込んで、面談もしています。それを基に報告書を作成し、政府機関で同社の製品の使用を禁じる規制を今回の国防権限法の中に入れました。

ファーウェイの通信機器は、バックドア(裏口)と呼ばれるデータ監視装置が組み込まれており、データを裏から抜いて、操作できるとされています。スマホのデータをもとに今日は誰に会ったかなど、中国政府に一挙手一投足が把握されてしまうのです。これは安全保障の問題なので、政府機関から排除されたのです。

インフレに見舞われる中国

――米中貿易戦争で中国は今後どうなりますか。

田: 大豆や豚肉や鶏卵の物価が上昇中です。天安門事件の時も物価が20%以上、急上昇したことが原因で動乱が起きています。物価上昇、つまりインフレは、中国共産党の最大の敵なのです。

また中国は、貿易戦争による景気の悪化を避けるために、公共投資や金融緩和を進めようとしています。しかしながら、現在発行している人民元の約70%しか、ドルの裏付けはありません。3年前までは、100%ドルの裏付けがありました。ドルの裏付けのないまま発行された元は信用の裏付けがなく、元安になります。

トランプ政権は中国に対し一貫して「元安にするな」と言っています。元安にならないようにするには、外貨(ドル)を使って元を買い支えないといけない。でも、その外貨は、共産党幹部の金持ちが海外に持ち出しているため減り続けています。

習近平氏は、悪性インフレと人民元の下落の両方と戦わなければならなくなっています。

中国は、米共和党が中間選挙でぼろ負けしたら、トランプ氏は影響力を失うと思っているのかもしれませんが、議会は超党派で対中強硬派に転じています。トランプ政権後も、この路線は続くと見ていいと思います。

日本も法整備を急ぐべき

――日本政府の取り組みをどう見ていますか?

田: 日本も先端技術の研究を行う理化学研究所や情報通信研究機構は、中国の機関と提携し技術者を受け入れていました。しかしそれは人民解放軍と関わる研究機関だったのです。政府の補助金の出ている東大や早稲田大の理工学部にも中国人留学生がたくさんいて、論文ごと盗まれています。

ファーウェイなどの通信機器について、アメリカが国防権限法に基づいて政府機関での使用を禁止し、オーストラリアやイギリスも足並みをそろえています。これを受け、日本もようやく政府の入札から排除する方向で検討し始めたようです。

これは安全保障の問題です。スイスのような小さな国でも自国の安全保障のためなら何でもやります。自分の国の安全は、自分で守るという意識を強く持たないと、政府機関や国民の個人情報が抜かれていきます。

残念ながら日本には、こうした問題意識を持っている議員も少ない。アメリカのように、監視体制を強化する法律をつくることが必要です。


Interview

中国の「技術略奪」インタビュー

血税で開発した技術を中国に贈与する日本の研究機関

ITの専門家が、ネットを通じた中国のスパイ活動について語った。

ITビジネスアナリスト

深田 萌絵

プロフィール

(ふかだ・もえ)早稲田大学政治経済学部卒。学生時代にファンドで財務分析のインターン、リサーチハウスの株式アナリスト、外資投資銀行勤務の後にリーマンショックで倒産危機に見舞われた企業の民事再生業務に携わった。現在はコンピュータ製造開発に従事。

――大企業が中国との共同開発を進めています。この現状をどう見ていますか?

深田氏(以下、深): 中国にとって共同研究は、「他国から泥棒する」ことを意味します。これまでも情報通信研究機構や科学技術振興機構の技術が合法的に中国に移管されました。それを手伝っていたのが日本の旧民主党の国会議員でした。

機構と名のつく研究機関は国家予算を利用しています。それらを我が国の発展に活かさず、無償で中国に移転するということは、研究機関の国民に対する背信行為です。それを放置しているのは国会議員の怠慢でもあり、取り締まれるように法の整備を行うべきでしょう。

――ファーウェイの技術を日本の通信で使用したり、共同研究をしたりするリスクとは?

深: ファーウェイがターゲットとするものは全て軍事、諜報につながる研究です。

すでに我が国の通信基地局で使われている機器の大半はファーウェイ製と言われています。サイバーテロが起きた際には、発電所の停止などのインフラへの被害や、通信網の麻痺などの大混乱を引き起こすでしょう。

「誰も知らないはずの話が漏れている」とぼやいておられる国会議員の方がいましたが、ファーウェイ製の基地局とスマホが犯人でしょう。

以前にシンガポールでシェーン・トッドという米研究者が、ファーウェイとテラヘルツ波を生み出す窒化ガリウムの研究を行っていました。ある日、彼は何かをアメリカ政府に伝えようとした直後に変死体で見つかっています。そもそも、ファーウェイとZTEはトウ小平が中国人民解放軍につくらせたフロント企業です。共同研究をする場合には、会社の実態を調べてからでも遅くありません。

――日本人も中国に監視される時代になってきました。

深: 以前、私のオフィスで中国製のIP監視カメラを利用していたことがあります。外出時にも、インターネット経由でオフィスの様子を見られるようにしていたのですが、その映像は外部の人間からも見られていたようなのです。外出時にオフィス内の書類が盗まれた上、盗難が起こった時間帯の監視カメラ映像だけが消えていました。

このように中国製監視カメラは、泥棒ではなく、私たちを監視しています。

シャープも監視カメラ業務に入ると発表しましたが、ここにはハイクビジョン製のソリューションや部品が導入される可能性があります。ハイクビジョン製品はアメリカ政府によって利用が禁止されています。これはアメリカの政府機関が使用を禁止した技術です。

中国政府の息のかかった技術を使用することがないよう、日本も防衛すべきです。

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