《本記事のポイント》

  • 訪日外国人の期待―「接客」と「トイレ」で首位争い
  • 世界が驚いた「トイレの神様」「幕末日本」
  • 日本では「清潔」が「善悪」の代わりをしていた

習近平・中国国家主席が、個人独裁・言論弾圧などを強化する様は、「さながら文化大革命の再来」と言われている。そんな習氏でも、苦戦を強いられている革命がある。それが「トイレ革命」だ。

中国のトイレは、外国人から「臭い」「汚い」と評判が悪い。そこで習氏は「大国」としての面子をかけ、全国のトイレを改修・整備する指示を出している。各地のトイレは水洗化・個室化され、都市部のトイレは最新の換気システムも導入されるなど、一気に進化している。

しかし最大の課題は、人々の「マナー」「衛生観念」だ。利用者が「便座の上に立つ」「汚物を散らかす」といった行為が後を絶たず、近代的なトイレもきれいに保てない。いくら設備が進化しても、これでは意味がない。

そんな中、「トイレ革命」に設備面だけではなく、衛生教育という面でも支援を表明している国がある。それが日本だ。外務省や経済産業省、環境省が主導し、中国政府と協議しているという(4月14日付日経電子版)。

日本は、世界が認める「トイレ先進国」なのだ。

訪日外国人の期待―「接客」と「トイレ」で首位争い

海外からみると、日本の「お手洗い」には、「おもてなし」に引けを取らない存在感がある。

TOTO株式会社が2016年、訪日外国人が日本の宿泊施設に期待するものを調査している。その結果、第一位は「接客」(57.8%)だったが、僅差で第二位となったのが「トイレ」(56.5%)だった。その差は1%とほぼ並び、第三位の「入浴」(48.7%)を大きく引き離している。

世界の人々がまず思い浮かべるのが、日本のトイレのハイテクさだ。米国のミュージシャン・マドンナが来日した際、「日本の温かい便座が恋しかった」と語ったのは有名な話だ。ハイテクの極めつけは、TOTOが1980年に発売したウォシュレットだろう。その恐るべき"命中率"には、日本の技術力が詰まっているとか。

こうした技術が開発され、普及したのも、日本人のトイレにかける衛生観念が強いためだ。TOTOは海外でもウォシュレットの普及に苦心しているが、多くの国では「たかがトイレのために"家電"を買い、電気代をかける意味がわからない」という認識だという。「おしりだって、洗って欲しい」とは、なかなか思わないようだ。

「トイレの神様」は"いた"

日本で2015年に、「トイレの神様」という曲がヒットしたことも、海外で話題を呼んだ。「トイレット・ゴッド」「バスルーム・ゴッド」といった仰々しい英訳で紹介され、「日本には、トイレに神がいると信じられている」と解説された。

そうした論評は極端な意見に見えるが、あながち間違ってはいない。昔から日本のトイレは、神道式では「厠神(かわやがみ)」、仏教式では「烏枢沙摩明王(うすまさみょうおう)」が祀られることが多かった。

その信仰においても、「トイレの清潔さ」は重要だ。厠神に祈る際には、トイレをきれいに掃除する。烏枢沙摩明王は、聖なる炎で不浄を焼き尽くす存在と言われ、「不浄」を嫌う民族性が色濃く反映されている。

世界を驚かせた「清潔」な幕末日本

この国の衛生観念は、開国した当時に訪日した外国人をも驚かせていた。

トロイア遺跡を発掘した世界的な考古学者シュリーマンは、幕末時代の日本を訪れ、「日本人が世界でいちばん清潔な国民であることは異論の余地がない」と断言している。

アメリカ総領事のハリスも、「貧しい国には必ずつきまとう不潔さが、日本にはない」という趣旨のことを語っている。

大森貝塚を発掘したことで知られるアメリカの動物学者・モースも、「日本人の清潔さは驚く程である。家は清潔で木の床は磨き込まれている」と書き残している。

「善」の代わりに「清い」を使う日本人

こうした清潔感の背景にあるのは、神道だ。神社の参拝者は、入り口の「手水舎」で身を清め、拝殿で「お祓い」を受ける。『古事記』でも、黄泉の国から戻った伊邪那岐神が身を清める。

これは単なる文化様式を超えて、精神性にも直結している。

西洋の倫理観は、モーセの「十戒」がベースとなっているので、「善い」「悪い」という言葉で表現されることが多い。一方、日本人にとっては、「清い」「穢れ」といった言葉で表現した方がピンとくる。これは、日本研究の大家と言われるジョージ・サンソムというイギリス人が指摘していることだ。

日本人の衛生観念は、宗教観に深く根ざしたものである。きれいなトイレに出会った時は、そんなアイデンティティに思いをはせてみてはどうだろうか。

(馬場光太郎)

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