写真:AFP/アフロ

2018年5月号記事

編集長コラム Monthly  Column

トランプの「雇用を創造する」パワー

トランプ政権は、幹部の辞任が相次ぐなど「お騒がせ」が続いている。ただ、経済は絶好調で、トランプ大統領当選時から雇用は約300万人増え、平均株価は約40%上昇した。

トランプ氏は就任前、「神が創った中で、最大の雇用を創造する者となる」と豪語していたが、本当にその道を歩んでいる。

経済学者も予想は難しかったようで、ノーベル経済学賞受賞者のクルーグマン氏は政権発足前、「経済は絶対に回復しない」と指摘。それはトランプ氏が選んだ「フェイクニュース賞」の1位になってしまった。

経済学からは見えない、トランプ氏の「ジョブ・クリエーション」のパワーを探ってみたい。

(1)移民にも愛国心を求める

マスコミは報道しないが、トランプ氏は大統領選の公約を着実に実行し、イスラム国の壊滅など、就任1年余りで8割ほどを達成した。トランプ氏が何をやろうとしているかは、その公約と節目の演説を見れば、クリアに分かる。

今年2月、世界の大企業の経営者が集まるスイスのダボス会議に出席し、こう語りかけた。

「私たちの力、資源と主張によって問題を解決しよう」「家族とコミュニティ、歴史と未来を守るために」

目の前にいたのは、国境を越えてどこでも稼ぐ「グローバリスト」と呼ばれる多国籍企業のトップたち。その人たちに「愛国心」を訴え、「アメリカ・ファースト」の各国版を求めた。

トランプ氏が移民を制限する理由も愛国心にある。 今年1月の一般教書演説でこう語った。

「スキルを持つ人、働く意欲のある人、私たちの社会に貢献できる人、そしてアメリカを愛し、尊敬する人に永住権を与えるべきだ」

クジで選ばれて入国し、犯罪者になる人より、愛国心を持って働いてくれる人に移民してほしいということだ。

トランプ氏はダボス会議で、グローバリズムを体現する企業経営者を前に愛国心を訴えた。写真:AFP/アフロ

関税自主権を取り戻す

関税を引き上げ、「貿易戦争に突入する」と言われる問題も、愛国心からきている。

1980年代以降、アメリカの製造業は中国などに移転して空洞化が進んだ。その中国では、労働者が十分な労働条件がない中、低賃金で酷使され、現代の「奴隷貿易」とも言える状態となっている。

中国政府が自国の輸出企業に補助金を出しているため、アメリカの製造業は太刀打ちできない。さらには、中国に進出した企業の技術を強制的に移転させ、実質的に知的財産を盗んでいる。

トランプ氏はダボス会議で、「これらの略奪的な行為が世界の市場を歪め、アメリカだけでなく、世界中の企業や働く人々を傷つけている」と訴えた。

マスコミは「トランプ氏は自由貿易を破壊する」と批判するが、むしろ「公正な自由貿易の守護者」と位置づけられる。

アメリカのTPP(環太平洋連携協定)離脱にも批判が強いが、多国間で関税を一括して決めるのは関税自主権を譲り渡しているとも言える。

関税自主権などの「主権」を取り戻すのは、本国イギリスに握られた課税権を獲得するために独立戦争に立ち上がった建国の父たちの精神に通ずる。一国の政治家が自国民の豊かさを第一に考えるのは当然だろう。

(2)自由とやる気を取り戻す

「規制は隠れた税金だ」「私たちは(新しい規制1つに対し)22もの厄介な規制を撤廃した。企業や働く人々を解放し、かつてない繁栄を可能にした」

トランプ氏はダボス会議で、減税や規制緩和の成果を語った。

トランプ政権は法人税を35%から21%へ下げた。所得税は累進性を簡素化。80年代のレーガン政権を上回る大減税で、サラリーマンや中小企業経営者たちが恩恵を受けた。

アップル社は海外に貯めていた余剰資金約27兆円の大半を還流させ、国内に投資し、2万人を新規雇用する。国内投資と雇用増が加速し、社員を囲い込むために給料を上げる企業が続出。300万人がその恩恵にあずかった。

規制緩和は1500件以上の規制を撤廃・延期。シェールガスや石炭などの生産規制を解除して投資を喚起し、金融規制の緩和によって住宅建設を促進する。

トランプ氏は常々、「創造主から与えられた自由を、この世の権力から国民に返す」と語っているが、 減税と規制緩和によって国民は「自由とやる気」を取り戻している。

(3)騎士道精神による福祉

トランプ氏の公約には「オバマケア廃止」もあったが、すでに達成された。昨年末の税制改革にオバマケアを実質撤廃する条項を盛り込んでいたためだ。

オバマケアは国民皆保険を目指したが、10年間で約120兆円もの補助金がかかる高コストなものとなっていた。

「すべての米国民に勤勉に働くことの尊厳を知ってほしい」「国民を福祉から就労へ、依存から独立へ、そして貧困から繁栄へ引き上げることは可能だ」

トランプ氏は先の一般教書演説でこう述べ、政府がお金を配るよりも、仕事を創り出すことに取り組むと強調した。

加えて今回の税制改革では、政府に代わって福祉活動を担う教会やNPOに寄付が向かうよう控除制度が改善された。

つまりトランプ氏は、 ジョブ・クリエーションと騎士道精神によって、福祉国家のあり方を見直そうとしているのだ。

(4)インフラ投資は未来への遺産

今年、本格的に動き出したのがインフラ投資だ。民間資金も活用し、10年間で約160兆円の投資計画を打ち出した。トランプ氏は一般教書演説でこう訴えた。

「アメリカは建設者の国だ。エンパイア・ステート・ビルはわずか1年で完成した。今、普通の道路を造る許可を得るのに10年もかかるのは恥ずべきことだ」

そのうえで、できる限り1年で道路や橋、鉄道などの許認可を出すと宣言した。これで米全土の道路、鉄道、空港などの改修・新設が始まり、建設関連の雇用が一気に増える。

20世紀初頭にニューヨークに摩天楼が次々と建った繁栄の時代が再び到来し、次世代への遺産を形づくることになる。

取り残された人々を救う

アメリカ経済の問題として、繁栄する業種と衰退した業種の格差が激しいことがある。

アップルやグーグルなど新興企業は高い収益を上げる。一方、中西部の「ラストベルト」の白人労働者が貧困化している。

トランプ氏の政策は、繁栄から取り残された人々を救うものだ。

トランプ氏の公約には「10年で2500万人の雇用創出」もあった。90年代から工場が本格的に中国に移り、2500万人以上が失業したり、非正規雇用になったとされる。トランプ氏はこれを丸ごと取り戻す決意だ。米国民が勤勉に働き、収入を得て、誇りを感じられる状態になったら、「アメリカを再び偉大な国に(Make America Great Again)」の公約が達成される。

トランポノミクスは、経済学で説明できないものが多い。敵対心むき出しのツイート、先鋭化するマスコミとの対立……。トランプ氏はいつ大失敗してもおかしくないが、なぜか成果が上がる。

トランプ氏本人が言うように、「神の創造エネルギー」を引く天才なのかもしれない。

正直者トランプ

先に触れたトランプ氏の貿易政策は、中国がターゲットだ。

中国は急成長するGDP(国内総生産)を軍事拡張に注ぎ込み、今やアメリカの覇権を脅かすまでになっている。

トランプ氏は、中国の軍資金を断つ「貿易戦争」を仕掛けている。かつてレーガン大統領はソ連に経済戦争を仕掛けて冷戦を終わらせたが、もしトランプ氏が中国共産党政権を崩壊させれば、レーガンの再来となる。

トランプ氏の発言と行動は、個々のツイートは別にしても、素直に見たほうがいいだろう。「正直者トランプ」という視点に立てば、ノーベル賞経済学者も、そう判断を間違わないのではないだろうか。

(綾織次郎)

トランプ氏はメキシコ国境の壁の試作品を視察し、「犯罪を減らし、国民の命を救う」と語った。写真:ロイター/アフロ

トランプ流「ジョブ・クリエーション」の秘密

  • 1.「愛国心」を移民に求め、中国の不公正貿易とも戦う
  • 2.  減税と規制緩和で国民の「自由とやる気」を取り戻す
  • 3.「騎士道精神」によって福祉国家を見直す
  • 4. インフラ投資によって「未来への遺産」をのこす