《本記事のポイント》

  • ウイグルの監視システムが厳格化・高度化し、最悪の方向へ
  • 他民族を排除するヒトラー的統治思想
  • ノーベル平和賞もささやかれる"ウイグルの劉暁波"の存在

中国が支配する新疆ウイグル自治区の実態は、なかなか明るみに出ない。

だが最近、米ウォール・ストリート・ジャーナル紙やカナダのザ・グローブ・アンド・メール紙などの報道で、自治区において「監視社会」が完成しつつある実態が、浮かび上がりつつある。

古代より新疆ウイグル自治区は、ヨーロッパと中国をつなぐ要衝であるだけでなく、石炭、石油、天然ガスの豊富な地域だった。そのため、毛沢東は1949年に東トルキスタンを制圧し、「新疆ウイグル自治区」として共産党の支配下に組み込んだ。

2009年にウイグル族の学生らと治安部隊が衝突する「ウルムチ騒乱」が勃発。数百人が殺され、数千人が投獄された。それ以来、中国共産党当局によりウイグル族の監視は強まっている。

1年で9万人の治安要員を募集

中でも、2016年は大きな節目となる。

元中国共産党チベット自治区委員会の書記で、チベット民族の弾圧で手腕を発揮した陳全国氏が、新疆ウイグル自治区の書記に就任したのだ。陳書記は、1年も経たない間に、9万人を越す治安関係ポストを募集するなど、徹底した治安対策を行った。

陳書記が手掛けているのは、新疆ウイグル自治区の「監視社会」の完成だ。その「貢献」により、新疆ウイグル自治区は「最先端の監視技術を試行する実験場」となっている。

例えばウォール・ストリート・ジャーナル紙は、監視の実態をこう報道している。

「ナイフを買うにしても、ナイフの内部にQRコードで、持ち主のIDが組み込まれる。通りに存在する大量の監視カメラでは、常時、顔認証が行われている。この顔認証と常時携行させているIDカードとは連動しているので、当局は誰が何をしているのか、いつでも把握可能だ。AIの技術を駆使し、車を変なところに駐車しようとすればアラームで知らせる仕組みもある。AIだけではない。警察の人員を2015年の6倍に増員し、交番の数も増やした」

ウイグルは2017年から最悪の方向へ

さらにウォール・ストリート・ジャーナル紙は、アメリカに亡命したタヒール・ハムット氏の声を紹介。警察国家と化した新疆ウイグル自治区の実態をハムット氏はこう語った。

「ウイグル自治区は2017春を境として、最悪の方向に向かっています。警察は、ウイグル人の詳細な情報を集め始めました。その事情聴取のなかには、ウイグル人である場合、仕事をしているか、パスポートは所持しているか、お祈りをするかなどの質問が含まれており、ウイグル民族は提出を義務付けられました。そして"安全"な人物か"安全"でない人物か、分類が行われたのです」

ウォール・ストリート・ジャーナル紙の取材によれば、「"安全"ではない人物」とされた人物は、カシュガルの郊外に存在する「政治教育センター」に送られる。そこは、高圧線の通ったワイヤーに囲まれ監視塔の存在する刑務所に近い「センター」である。人々は、監視によって得られた情報に基づいて拘留されるため、なぜ拘留されたかは知らされていない。

また、カナダのザ・グローブ・アンド・メール紙は、イスラム教徒が礼拝を行うモスクに対して、最大限の監視が行われていることや、ウイグル人の思考パターンや遺伝情報も収集されていることを報じている。特に子供たちは、学校で中国語を話す環境を強要され、週末に一度帰宅するのを許されているだけだという。

ヒトラーと同じ理論!?

中国は、「ロシアが周辺の少数民族のナショナリズムが高揚したことで崩壊した」という経緯を記憶から消すことができない。それを防ぐための現代の"鉄の鎖"は、最新鋭の監視技術である。

また中国語の教育は、「ウイグル経済の発展にとってプラスになる」と中国共産党は主張するが、それは「同化政策」であり、「異質なものの排除の論理」に他ならない。

漢民族の絶対的優位──これは人種主義政策であり、ヒトラーのアーリア人によるユダヤ人排除の論理と異ならない。ヒトラーは、生きるに適しない有害な階級が滅びることこそ自然の法則だとして、アーリア人のみが人類を支配するに足る人種だと考えた。その上で、他の民族はアーリア人に仕えるか、殺害されるべきだと考えた。そして人種間の憎しみを煽り、ドイツ民族による領土の拡張を正当化した。

だが「憎しみ」や「否定」は、正統な統治の原理ではない。古代より統治の原理の中心にあったのは、「正義」や「法の支配」、または「神への愛」による和合であった。そして「神への愛」と「衆生への愛」の間にあって、統治者は、全ての人に徳ある生活を促し、神に近づけるように努め、物質的幸福をも実現する責務を負っていたのである。

投獄されるウイグルの"劉暁波"

その役割を政府が担えない時、革命家が出現する。

「私には敵はいない」と述べた劉暁波氏がそうであるし、漢民族とウイグル民族との融和を説いて投獄されたウイグル人経済学者のイリハム・トフティ氏もそうだ。

イリハム・トフティ氏は、2009年7月5日のウルムチ騒乱の日を「民族和解の日」と定め、夏休みを利用して、お互いに自分の子供を相手民族の家庭で生活させるといった民族間の友情を深める活動をしてきた。

しかし2014年以降、投獄され無期懲役の刑に服している。「漢民族の絶対的支配」を主張し、「和解」や「許し」の原理を認めないこのような仕打ちこそ、中国共産党が、全体主義国家の完成を目指していると認めているようなものではないか。

「イリハム・トフティ・イニシアチブ」のプレジデントであるエンバー・ジャン氏は、トフティ氏がノーベル平和賞にノミネートされるよう挑戦している。この活動が、ウイグル独立や中国民主化の、発火点の一つとなるかもしれない。

ウイグルを救うには外圧が不可欠

しかし、そのためには外国による働きかけや圧力が不可欠となる。

幸いにも、新しく発表されたアメリカの国家安全保障戦略は、中国を「戦略的競争相手」と位置付け、貿易面でも中国への圧力を高めていく可能性が高い。さらには、弾圧されている宗教的少数派の文化的遺産を護る意志をも明確にしている。おそらくチベット族やウイグル族やモンゴル族を想定したものだろう。

では、日本としては何ができるのだろうか。

新疆ウイグル自治区の支配は、中国の覇権国家が完成した時、その傘下の国々がどうなるのかという未来図を象徴的に示している。対外的圧力やノーベル賞を契機に、中国の野望の実態が明らかになることを期待したい。

(長華子)

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