精神科医
千田 要一
プロフィール
(ちだ・よういち)1972年、岩手県出身。医学博士。精神科医、心療内科医。医療法人千手会・ハッピースマイルクリニック理事長。九州大学大学院修了後、ロンドン大学研究員を経て現職。欧米の研究機関と共同研究を進め、臨床現場で多くの治癒実績を挙げる。アメリカ心身医学会学術賞、日本心身医学会池見賞など学会受賞多数。国内外での学術論文と著書は100編を超える。著書に『幸福感の強い人、弱い人』(幸福の科学出版)、『ポジティブ三世療法』(パレード)など多数。
千田要一著
幸福の科学出版
仕事や人間関係に疲れた時、気分転換になるのが映画です。
その映画を選ぶ際に、動員数、人気ランキング、コメンテーターが評価する「芸術性」など、様々な基準があります。
アメリカでは、精神医学の立場から見て「沈んだ心を浮かせる薬」になる映画を選ぶカルチャーがあります。一方、いくら「名作だ」と評価されていても、精神医学的に「心を沈ませる毒」になる映画も存在します。
本連載では、国内外で数多くの治療実績・研究実績を誇る精神科医・千田要一氏に、悩みに応じて、心を浮かせる力を持つ名作映画を処方していただきます。
世の中に、人の心を豊かにする映画が増えることを祈って、お贈りします。
今回は、「頑張りたいと思うが、やっぱり自分はダメだと思い努力を諦めてしまう」という人に、オススメの映画を処方いたします。
◆ ◆ ◆
「ソウル・サーファー」(★★★★★)
まずご紹介するのが、2011年にアメリカで公開された「ソウル・サーファー」です。ハワイを舞台にした本作品は、サメに襲われ片腕を失ったサーファー、ベサニー・ハミルトンの実話に基づいています。
プロのサーファーを目指していた13歳の少女、ベサニー(アナソフィア・ロブ)は、ハワイ・カウアイ島沖でサーフィン中にサメに襲われ、左腕を根元から食いちぎられます。
60%の血液を失いながらも奇跡的に一命をとりとめた彼女は、事故からわずか1か月ほどでサーフィンを再開しますが、昔のようにサーフィンできず自暴自棄になってしまいます。そんな中、世界中からベサニーを応援する声が届くのです。奮起したベサニーは、家族に支えられながら片腕のハンディを克服し、プロ・サーファーとして復活をとげます。
ベサニーが逆境を克服していく姿は、私たちに「勇気」と「ガッツ」を与えてくれます。
強烈なショック体験からトラウマを抱く、「心的外傷後ストレス障害(PTSD)」は広く知られています。一方、悲惨な体験をし、その時激しく傷ついても、ベサニーのように、それをバネにして、むしろ素晴らしい人間として成長するケースもあります。それを心理学では、「PTG(Posttraumatic stress growth:心的外傷後成長)」と呼びます。
PTGが生まれやすい4つのファクターとして以下のようなものが分かっています(イローナ・ボニウェル『ポジティブ心理学が1冊でわかる本』国書刊行会)。
- (1)トラウマを受け入れ、理解しようとする。
- (2)トラウマとなる出来事に意味を見いだし、人生観の再構築につなげられる。
- (3)特に、トラウマとなる状況を「チャレンジ」と解釈する。
- (4)他人からの支援がある。
「ソウル・サーファー」のベサニーは、家族や周囲の人々からの直接的なサポート、そして世界中からのエールを糧にした、「(4)他人からの支援がある」の好例だと言えます。
「ヘアスプレー」(★★★☆☆)
次にご紹介する映画は、ブロードウェイの人気ミュージカルを映画化した「ヘアスプレー」(2007年・アメリカ)です。
舞台は、1960年代の米メリーランド州・ボルチモア。女子高生のトレーシー(ニッキー・ブロンスキー)の夢は、人気TV番組『コーニー・コリンズ・ショー』に出演して踊ること。でも、チビで、デブな彼女は、親友のペニー(アマンダ・バインズ)と一緒に番組を観て楽しむだけの日常でした。
そんなある日、番組のオーディションが開催されることになり、トレーシーも参加することに。一度は落選してしまうものの、彼女のリズム感を見抜いた番組の司会者、コーニー・コリンズによって抜擢。レギュラーの座を獲得したトレーシーは、たちまち街の人気者となります。
しかし、当時のアメリカではあからさまな人種差別が行われており、『コーニー・コリンズ・ショー』でも黒人が登場できるのは月に一度の“ブラック・デー"のみ。これを理不尽に思ったトレーシーは公民権運動のデモに参加し、黒人ダンサーたちの番組参加に尽力するのでした。
外見による差別、人種による差別など、世の中には、さまざまな差別による苦しみがあります。しかし、本作を観ると、「人間は中身が勝負」だと実感します。自分の精神性を上げることにこそ、注力したいものです。
前述の、PTGが生まれやすい4つのファクターの中では、「(1)トラウマを受け入れ、理解しようとする」と、「(2)トラウマとなる出来事に意味を見いだし、人生観の再構築につなげられる」の好例です。
「ザ・ダイバー」(★★★★☆)
次にご紹介する映画は、「ザ・ダイバー」(2000年・アメリカ)。アフリカ系黒人として初めて、栄誉あるマスター・ダイバーの称号を手にした潜水士、カール・ブラシアを取り上げた実話映画です。
ブラシア(キューバ・グッディングJr.)は1943年、ケンタッキー州で小作農民の子として生まれます。極貧生活でしたが、家族の強い励ましがあり、村を出て海軍に入隊することに。
しかし、人種差別がまかり通っていた当時、海軍に入ったブラシアは激しいいじめに合い、コックや雑用係ばかりさせられます。
そういった過酷な環境下でも、ブラシアはダイバーになる夢を諦めませんでした。さらに、ニュージャージーのダイバー養成所では、鬼教官ビリー・サンデー(ロバート・デ・ニーロ)の熾烈ないじめにあいますが、ブラシアはそれを跳ね返し、見事ダイバーとなります。
ところがその後、ブラシアは回収作業中に怪我を負い、片足を切断します。それでも彼は諦めませんでした。なんと、義足をつけてダイバーとして見事復帰し、マスター・ダイバーにまで昇進したのです。
ポジティブ心理学では、こうした、逆境を跳ね返して自分の強みを発揮した偉人を参考にするよう勧めます。どのような環境からでも成功した話を聞くと、自分の「勇気」と「パワー」になるものです。
他には、以下のような映画がオススメです。
「マネーボール」(★★★☆☆)
メジャーリーガーから球団経営者に転職し、弱小球団アスレチックスを強豪チームに脱皮させたビリー・ビーンの実話映画。「ピンチはチャンス」で、人生の逆境は、新しい成功の種になります。ビリーのように、固定概念にとらわれず、白紙の目で物事を見ることで、新しい打開策が見つかるものです。
「幸せの教室」(★★★☆☆)
不景気なアメリカで、リストラされながらも前向きにチャレンジし、新たな人生を切り拓いていく中年男性の姿を描いています。本作は、あのトム・ハンクスが15年ぶりに監督を務めました。この主人公・ラリーのように、諦めない心。折れない精神力が、未来を切り拓いて行くことでしょう!
「陽はまた昇る」(★★★★☆)
家庭用ビデオ規格競争(VHS vs. ベータ)の実話にもとづく企業戦士たちの感動のヒューマン・ドラマ映画。本作は、NHK番組『プロジェクトX』シリーズにも取り上げられ、企業戦士たちの創意工夫により、80年代まで日本経済は成長していきました。本作のように、「自分たちに何ができるのか?」を考えて、日本経済の付加価値を増やしていきたいものです。
【関連サイト】
ハッピースマイルクリニック公式サイト
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【関連書籍】
幸福の科学出版 『幸福感の強い人弱い人 最新ポジティブ心理学の信念の科学』 千田要一著
https://www.irhpress.co.jp/products/detail.php?product_id=780
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