戦後、ロシアに支配されている北方領土。

安倍晋三首相が2日にロシアを訪問することをめぐり、政府は、北方領土が日本に帰属することでロシアと合意に至れば、北方領土で暮らすロシア人の居住権を認めるとの提案を行う方針を固めた。この方針は、5月の首脳会談で一致した「新たな発想に基づくアプローチで精力的に交渉を進める」を具体化したもので、ロシアの譲歩を引き出したい考え。毎日新聞(1日付)が報じた。

記事によると、北方領土には、ロシア人約1万7千人が生活しているため、日本政府は、ロシア人の退去を求めることは困難であると判断。日本に帰属した後も、ロシア人の待遇を保障し、幅広い自治を認めることで、北方領土の返還を具体的に進めたいという。

ロシアの利害を考慮しているのか

日本にとって北方領土とは、先の大戦の敗戦直後に、ロシアに奪われた固有の領土。一方のロシアにとっては、大戦に勝利した象徴である。両国のナショナリズムが絡み合い、領土の返還交渉が思うように進んでいない。

安倍首相は、ロシアとの関係を良くすることで交渉を進展させたいが、狙い通りにいくかは疑問だ。その理由は、ロシアにとっての北方領土の戦略的価値を軽視した外交姿勢がうかがえるためだ。

北方領土周辺は「ロシアの聖域」

ロシアの原子力潜水艦。

実は、北方領土の周辺海域は、ロシア海軍が太平洋に出るための重要な航路に当たる。特筆すべきは、アメリカを射程に入れたミサイルを搭載する原子力潜水艦が潜航する「聖域」である、という点だ。ロシア防衛の要であるこの海域を、みすみす手放すわけがない。

これまでロシアが、北方領土の一部である歯舞(はぼまい)群島・色丹(しこたん)島の返還を示唆してきたのも、仮にそれらを返還しても、原潜の航行には影響がないためだと指摘されている。

つまり、ロシアの仮想敵国がいなくなるなどして、あるいは、北方領土の戦略的価値が減少しなければ、その返還は難しいと言える。

日本人が「北方領土は日本の領土だから、返ってきて当然」と思うのも無理はない。しかし、ロシアは、軍事的な脅威がなくなるという確約がなければ、返還に応じることはないだろう。日本には、アメリカ追従一辺倒ではない独自の外交方針が求められている。

(山本慧)

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