あるジャーナリストによって公開された映像が世界中で話題を呼んでいる。シリアのアレッポで爆撃に遭った5歳の男の子、オムラン・ダクニシュ君の映像だ。

救急車に乗せられ、血とほこりで覆われてぼうぜんとした顔がカメラを見つめている。その顔は、私たちに「何かをしてほしい」と頼んでいるように見える。

混沌とするシリア情勢

シリアでは未だアサド政権によるスンニ派の虐殺が続いている。オバマ米大統領は、この問題について不介入を決め込んでいる。

イラク戦争後、アメリカ軍の撤退を受けて不遇な扱いを受けるようになったスンニ派が「イスラム国」を結成。アサド大統領はイスラム国を利用しつつ政権を温存し、シリア国民に対する弾圧は続いた。

その後もオバマ政権はシリア反体制派を助けるとして戦力を投入してきたが、この問題の終結は見えそうもない。

一方、18日に、ロシアはイラン国内の基地からイスラム国に空爆を加えたと発表した。イラン革命以降、イランは諸外国に自国の基地の使用を認めてこなかった。その意味では、ロシアの空軍がイラン基地を使用できるようになったことは、決定的に大きな事件である。ロシアとイランは両国ともシリアのアサド政権を支援している。

長らく中東地域は、アメリカとエジプトの同盟関係によって安定を保ってきた。だが、現在、両国の関係には亀裂が入っている。今回のロシアとイランの関係強化によって、中東地域とりわけ北東中東地域は、ロシアとイランに主導権が移ったことを意味する。

日本にできることとは

この状況のなか、シリアの内戦終結に対して、日本が直接的に貢献できることはほとんどない。

それでも、オムラン君のぼうぜんとした顔を直視するならば、我々日本人は、移民・難民に対する政策を変え、彼の思いに応えなければならないのではないか。

16日付の米紙ニューヨークタイムズは、日本の「島国根性」(Insular Japan)を批判する記事を掲載。

同記事は、「日本は民族の同質性を重視するあまり、よそものを排撃しがちで、日本の移民は2パーセントほどで、アメリカの14パーセントと大きく差が開いている」と指摘。

1942年にイギリスのオックスフォードで大学およびクェーカー教徒によって設立された人権団体 Oxfam(世界13カ国に支部を有する)によると、豊かな国日本は、難民を4万8千人ほど受け入れるのが妥当だとする見解を発表している。

2015年は7千5百人が日本への難民申請をしたが、難民として認められたのはたった27人だった。日本政府は、今年の夏、交換留学生としてシリア人難民を150人受け入れると発表している。

アメリカ大統領選候補のトランプ氏は、オハイオ州ヤングスタウンにてイスラム過激派に対する外交政策を発表したが、その中で「アメリカは中東から毎年10万人の移民を受け入れることにしているが、それではきちんとした審査ができない。ヒラリー・クリントン氏は、シリア移民を550パーセント増やそうとしている。彼女はアメリカのメルケルだ」と語気を荒げた。

こうしたトランプ氏の排外主義は日本でも問題になることが多いが、日本人はトランプをはるかに超えて排外主義的であることを自覚しなければならないだろう。

現在、オバマ政権は今年9月までにシリア難民を1万人は受け入れると発表しているが、交換留学生として150人の受け入れを目標としている日本との差は歴然としている。

こうした日本の難民に対する政策は、将来、自らへの刃となって戻ってくる可能性さえある。

先の大戦中、ナチスに迫害を受けたユダヤ人難民を助けた杉原千畝氏の霊は、大川隆法総裁が収録した霊言(『杉原千畝に聞く日本外交の正義論』)でこう述べた。

「日本人っていうのは、ユダヤ人と同じところがあって、小さな国家なので、占領されて国がなくなった場合、逃げるところがないのは一緒です」

「この難民を入れない日本を、日本人を、難民として受け入れてくれるかどうかっていうのは、これはまた、次に難しい問題」

大川総裁は同著の「あとがき」で「移民に対して厳しすぎる国策も、一国平和主義を墨守し続けるエゴイストの国に見えていることだろう」と述べた。

かつて哲学者・西田幾多郎は、「世界は世界性のある国によって安定する」として、偏狭な日本の復古主義や島国根性を手厳しく批判した。

オムラン君の動画が、日本に根強く残る復古主義を乗り越え、新しいヒューマズムの実践に踏み出すきっかけになってほしいと切に思う。(長華子)

【関連書籍】

幸福の科学出版 『杉原千畝に聞く 日本外交の正義論』 大川隆法著

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