18日の胡錦濤中国国家主席の訪米に向け、米中間の政策課題を巡る議論がアメリカ国内メディアの間で盛り上がっている。米中間の摩擦の一つに人民元の切り上げ問題があるが、ハーバード法科大学院助教授のマーク・ウー氏は、18日の米紙ニューヨーク・タイムズへの寄稿の中で、人民元は北朝鮮やイランの問題に優先する課題ではないと述べている。

中国による通貨操作がアメリカの失業や輸出伸び悩みの原因になっているという議論があるが、ウー氏によれば、人民元が高くなったとしてもアメリカの輸出増にさほど寄与しないという。2005年からの3年間に人民元は20%切り上がったが、切り上げがなかったその前の3年間よりも輸出拡大のペースは低調だった。そもそもアメリカから中国への輸出は宇宙航空関連や発電関連の機械など、価格の影響を受けにくいものが多い。第3国での米中企業の競合におけるコスト・パフォーマンスへの影響についても、ウー氏はアメリカが航空機や医薬品中心なのに対し、中国の輸出は電化製品や繊維製品で影響は限定的と見る。また仮に人民元切り上げにより中国での賃金高が生じた際にも、多くの企業はベトナム等の人件費のより安い地域に移転するだけで、アメリカの雇用はそのままである。通貨戦争をも招く人民元問題は世界経済の運営に関わる問題ではあるが、二国間の最優先事項ではないというのが、同氏の結論である。

確かに中国との人民元の問題が国内政局で用いられていたのは事実である。一向に低下しない失業率を背景に、「中国が俺たちの仕事を取っている」という叫びは、先の中間選挙での保守派の回帰の伏線ともなった。しかし、人民元切り上げにアメリカの輸出押し上げ効果がさして望めないとしても、だからといってもうその話は止めようということにはならないだろう。人民元問題は今や中国への圧力ともなる有力なカードであって、中国の台頭が脅威となりつつある今、これを簡単に手放すのは得策ではない。ウー氏も指摘する通り、ましてや問題の本質は自由貿易や公正な為替制度という世界経済の枠組み――しかもそれは「アメリカ的価値観」に合致する――に関わることであるから、中国には継続してより公正な世界経済の一員となれるよう変化を迫ってゆく必要があるだろう。

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