民主党が今年の夏の参院選に向けて発表したポスターが、「自虐的」だと話題を呼んでいる。

「民主党は嫌いだけど、民主主義は守りたい」というメインコピーの下に、「そんなあなたへ。すぐに信じなくてもいい。野党として止める役割をやらせてください」とある。

民主党への支持が低迷していることを逆手に取ったコピーは、話題づくりとしては面白い。しかし、ポスター全体のメッセージからは、「自虐」よりもむしろ民主主義への傲慢さが感じられてならない。

全体主義の綱領は否定

根底には「現政権の"暴走"を誰かが止めることが民主主義であり、民主党がその役割を担う」という思想がある。現政権の政策の是非についてはここでは論じないが、「何かを止めさせることが民主主義である」という考えはおかしい。

全体主義の危険性に警鐘を鳴らしたP.F.ドラッカーは、その著作『「経済人」の終わり』において、「ファシズム全体主義には、前向きの信条がない代わりにおびただしい否定がある。《中略》なぜならば否定がその綱領だからである」と指摘している。

今回の民主党のポスターも、具体的に何を実施するか、どんな政治を目指すかという方向性は書かれていない。ただ、「止めること」すなわち、現政権の否定だけが強調されている。これでは民主主義を守るどころか、破壊することになるだろう。

建設的な政策を示し、どの政策が一番国民の幸福、国家の発展に資するかを議論し、有権者の審判を仰ぐのが選挙の場である。ゆえに、政策や信条において好きになれない政党に投票を促すのは違和感がある。

有権者も、この党はどんな政策を訴えているのかに注目して投票先を選ぶべきだし、マスコミにも政策に関する詳細な報道を求めるべきだ。

1人の救済のために理論を組み立てると間違う

民主党はこの他に、「1人ひとりを大切にする国へ~1人を見捨てる国が1億人を幸せにできるはずがない」と訴えるポスターも発表した。

こちらのメッセージの背景にあるのは、民主党が参院選で掲げる格差是正に焦点を当てた経済政策だろう。非正規雇用の待遇改善や児童扶養手当の拡充など、若者や貧困家庭の支援を訴えているが、その財源は富裕層への課税強化で賄うという。要するに「お金持ちから取って、貧困に苦しむ1人ひとりを大事にしよう」という考え方だ。

1人ひとりを大切にするということは、民主主義の理想でもあるだろう。ただし、政治においては、「最大多数の最大幸福」という視点も大事だ。「1人」を中心に理論を組み立てて大きな方向性を見失ってしまえば、かえって多くの人を不幸にする。

やはり人間が行う政治的な営みには限界がある。政治家は謙虚さを忘れず、「できる限り多くの人を幸せにする政策は何か」を真摯に問い続けなくてはならない。

(小川佳世子)

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