優勢が伝えられている、現職の蔡総統(中央)。

台湾総統選の投票日が1月11日に迫っている。

再選を目指す民主進歩党の蔡英文(さい・えいぶん)総統と、最大野党・中国国民党の韓国瑜(かん・こくゆ)高雄市長の、事実上の一騎討ち。昨年末、台湾の大手テレビ局が調査、発表した支持率は、蔡氏45%、韓氏29%で、「蔡氏優勢」を伝えている。

しかし台湾には、「一国二制度」に名を借りた中国による侵略の危機が迫っている。2日には、軍幹部13人を乗せたヘリコプターが墜落し、軍ナンバー2で制服組トップの沈一鳴・参謀総長ら8人が死亡。原因は不明だが、年明けから不穏な空気が漂う。

香港、台湾を支配下に置くことを目指す中国が、近くにある沖縄・尖閣諸島の占領を視野に入れていることは間違いない。日本は、台湾・アメリカと共に、「自由・民主・信仰」を大切にする国家として、「神を信じない国・中国」を封じ込める必要がある。

本欄で紹介するのは、前回2016年の総統選後に行った、台湾の現地取材の一部。台湾の民主化と日台交流に尽力した元駐日代表のインタビューだ。

※2016年6月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの。

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インタビュー

日本人には台湾との関係を大切にしてもらいたい

日本をはじめ各国の要人との人脈を築き上げ、世界を舞台に活躍しながら

台湾の自由と民主主義を守り続けている羅福全氏に、話を聞いた。

元駐日台湾代表

羅福全

(ら・ふくぜん)1935年、台湾嘉義市栄町生まれ。経済学者。台湾安保協会名誉理事長。元国際連合大学高等研究所副所長。

『台湾と日本のはざまを生きて』

羅福全 著

藤原書店刊

――台湾の民主化運動に目覚めたきっかけを教えてください。

羅氏(以下、羅) : 台湾大学を卒業後、日本とアメリカに留学し、自由と民主主義に触れ、感動したからです。

早稲田大学は当時、安保闘争の真っ最中で、学生が「反米」「反政府」を叫んでいました。また、アメリカのペンシルベニア大学では、ベンジャミン・フランクリンがサインした独立宣言を見て、「世界にはこれほど自由な国があるのか。台湾にも自由がほしい」と強く感じました。

――1月の選挙で大勝した民進党の蔡英文氏は、対中関係について「現状維持」を掲げました。

: 今回の選挙は、台湾人が民主国家の誇りを持って未来を考えた初めての選挙です。蔡氏が訴える「現状維持」は、中国が台湾を統治していない現状を維持するということです。

世論調査では、国民の約7割が台湾として独立したいと考えています(下グラフ)。だからこそ、蔡氏の主張は台湾の国際的な地位を高める、極めて民主的なものなのです。

中国は一党独裁で、侵略的。一方、台湾は民主的で平和的。これだけ考え方が違うのに、なぜ統一する必要があるのでしょうか。

台湾と中国は、アメリカやインドなどと同じ「外国」。敵ではなく、互いに尊重し合う関係です。

抑止力があるから戦争を防げる

――台湾には中国の軍拡の脅威が迫っています。日米に期待することはありますか。

: 私は駐日代表の時にも「日台関係は日米同盟の延長線上にある」と述べていました。日米同盟はアジアの平和と安定の公共財です。今、中国が南シナ海で軍事力を拡大していることは、バランスを崩すことになります。

以前、パネッタ米国防長官(当時)が「2020年にはアジアにおける軍事力を、海外の軍事力の50%から60%まで高める」と発表した。中国の軍拡に対し、抑止力を保つためです。

また、主要な先進国や、ASEAN、オーストラリアなどの59カ国が日本の安保法制に賛成しているということを、日本人は知るべきです。軍事力があるから戦争する? とんでもない。抑止力があって初めて、戦争を防ぐことができるのです。

――国連職員として、中国の経済問題にも取り組まれました。

: 私は中国人を恨む気持ちは全くありません。むしろ、独裁政権に支配されている中国人は本当にかわいそうです。大部分の中国人は、国民党や共産党が勝手に書いた中国の歴史しか知りません。

私は、将来、中国の民主化は教育の力で実現すると思います。中国が香港のように、教育制度を高度化・国際化すれば、共産主義体制や独裁体制は成り立たなくなる。これが、中国人の幸福です。

社会がいったん民主国家の流れに入れば、絶対に後には引けません。特に台湾の若い人は民主国家の素晴らしさを知っています。今さら中国のような一党独裁の国に戻るのは不可能でしょう。

台湾と日本は奇跡的な関係

――日台関係の今後については。

: 2011年、安倍晋三首相が台湾に来た際、「日本は自由、民主主義、法治、人権を尊重する国であり、台湾は重要なパートナーだ」とおっしゃった。これらは、中国には一つもありません。日本、台湾、アメリカなどの民主国家との最大の違いです。

国と国との間には、政治的な利害関係が生じるものです。しかし台湾と日本は、利害を超えた、奇跡的な思いやりの関係をつくってきました。日本人には、「自国が平和ならそれでいい」ではなく、こうした日台関係を大切にしてもらいたいです。

2011年9月、台北で台湾安保協会の国際シンポジウムが開かれた。この時、羅氏(左から2人目)は蔡英文・民進党主席(中央)と安倍首相を引き合わせた。(写真提供:台湾安保協会)

羅福全氏の歩み

1935年 日本統治下の台湾に生まれ幼年期を日本で過ごす。

1958年 台湾大学経済系卒業。

1963年 早稲田大学で経済学   修士号を取得。

1968年 米国ペンシルベニア大学で地域科学博士号を取得。

蒋介石政権下で、台湾独立運動に参加したため、30年以上故郷への帰国を許されなかった。

1973年 国連地域開発センターで働き始める。40数カ国を訪問、地域開発や経済協力に携わる。

1990年 国連大学高等学術審議官となる。

1992年 李登輝政権の時に台湾に帰国を許される。

2000年 民進党の陳水扁政権下では駐日代表(駐日大使に相当)を務める。

【関連記事】

2016年6月号 台湾ルポ -国防女子が行く!- 日本と台湾は運命共同体だった

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2020年2月号 2020年2月号 2020-2030 世界を読む Extra Edition Interview - もし中国軍が台湾を侵攻したら

https://the-liberty.com/article/16597/

【公開収録講演のお知らせ】

「未来編集」の公開収録講演を開催いたします。どなたでもどしどしご参加ください。

テーマ

『総統選後の日台の未来』

2020年を占う台湾総統選が1月11日に行われます。これについて、日本語が堪能である台湾の軍事専門家に、選挙の総括と今後の中国情勢の解説を聞けます。

講師

台湾国防大学校務諮詢委員 邱 伯浩

(チョウ・ボハオ)1967年生まれ。台湾出身。陸軍軍官学校、国防大学陸軍参謀学院、国防大学政治研究所などを卒業。政治学博士。現在は国防大学校務諮詢委員や日本安全保障戦略研究所研究員を務める。

日時

令和2年1月21日(火) 19:00~20:30(受付開始18:30)

場所

カフェ・ジュリエ

東京都中央区銀座5-13-16 東銀座三井ビル1F

地下鉄東銀座4番出口から徒歩1分

参加費

2,000円(学生1,000円)

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