《本記事のポイント》

  • 米中貿易戦争の影響を受け中国の第3四半期の国内総生産は、27年半ぶりの低い伸び率
  • 負債総額がGDP比300%超の中国で財政出動を続ければインフレが加速
  • 「香港人権・民主主義法案」で優遇措置が見直されれば、資金流入が制限される可能性も

中国政府は、18日、7~9月の第3四半期の国内総生産(GDP)を発表した。前年比6.0%増と、27年半ぶりの低い伸び率となった。

国内の民間消費を示す、新車の販売台数も落ちていることから、米中貿易戦争で影響を受けた外需とともに、内需も落ち込んでいることが分かる。

貿易戦争が続けばどうなる?

現在、米中貿易協議は部分的合意を見ている。中国は、米国農産品の年間購入額を現在の倍の毎年500億ドル(約5兆4200億円)に拡大し、知的財産権の慣行を改めるという条件を提供。

その見返りに、アメリカは、中国の2500億ドル相当の輸入品に対して、関税を現在の25%から30%に引き上げる案をペンディングした。

メリルリンチのアナリストの試算によると、一連の「貿易戦争」が来年末まで続いた場合、中国の成長率は、5.7%にまで落ち込むという。

負債総額GDP300%の中国で進むインフレ

中国は、2012年11月の第18回党大会の活動報告で、胡錦涛前国家主席は「20年までにGDP(実質)を10年比で倍増させる」という目標を掲げた。倍増を達成するには、19年度も20年度も、6%以上の経済成長率が必要となる。

政治家が選挙で選出されない中国共産党にとって「経済成長」は死活問題。今後も経済が減速し、目標が達成できなければ、党の正統性が揺らいでしまう。

一層の落ち込みを避けるための刺激策として、次の四半期にインフラ債(地方政府特別債)を増発し、財政出動を打ち出す可能性も予測されている。要するに、借金をして財政出動し、投資に回すことで、成長率を引き上げる戦略だ。しかし、ゴーストタウンに象徴されるように、中国のインフラ投資は飽和状態にある。

国債や地方債を増発すれば、国の借金を増やすだけ。ニーズのないところに、ただインフラ投資を続けた結果、回収できない借金が積み重なり、企業、家計、政府の債務の合計額はGDP比で300%の40兆ドル(4300兆円)に達した。

国債、地方債を増発すれば、インフレも進む。そもそもドルの裏付けがない元の信用は高くないため、「国民が持ちたくない」通貨になりつつある。

また中国が進める「一帯一路」も外貨準備に影響を与えている。中国は、元の信用を担保する外貨準備を3兆ドル(330兆円)保有していると言われている。そのうちの3000億ドル(約33兆円)が一帯一路に費やされているが、ベネズエラやアンゴラの開発のように融資が回収できないケースも出てきている。一帯一路における融資は、もともと流動性が低い。その上に融資が焦げ付けば、外貨準備は減る一方だ。

中国のいまの状況は、古代ローマ帝国衰退の経緯に似ている。

ローマ帝国では、金の含有率の減少とともに、貨幣価値が下落。通貨への信用の低下とともに、物価が上昇し、激しいインフレから帝国は衰退していく。同様にドルの裏付けのない元は、悪鋳そのものだ。信用低下から、インフレ傾向に歯止めがかからない。

香港人権民主主義法案で資金の借り入れが困難に

ドルを海外から流入させたい中国にとって、さらに不都合な要素が加わった。アメリカの「香港・人権民主主義法案」である。本法案が施行されれば、香港経由の資金の流入も制限されかねない。

米下院は15日、香港に高度な自治を認める「一国二制度」が守られているかどうかをアメリカ政府が毎年検証させることを求める「香港人権・民主主義法案」を可決した。今後、上院の採決とトランプ大統領の署名を経て成立する見通しだ。

この法案は、一国二制度が維持されず、香港の自治が守られない場合には、関税、投資、政治面での対香港優遇措置を見直すというもの。

法案では、行政長官や立法会議員を選ぶ権利を香港市民に与え、「一人一票」の原則を守ることも要求しているが、金融面でも打撃を与える可能性がある。

現在、中国の対外債務は3兆ドルで、そのうちの1兆ドルが香港経由で流入している。北京や上海から直接借りるよりも、香港経由で借り入れたほうが、信用限度が高いためである。対香港優遇措置が見直された場合、20%~30%ほど信用限度が減らされる。アメリカが香港の優遇措置を取り消せば、IMFや諸外国もその慣行に従うからだ。

銀行の社内規定では、中国本土の銀行に対して貸し出すのと同じ信用限度でしか貸し出せなくなるため、ドルの借り入れに制限がかかることになる。

一方、香港市場に上場している米企業は1400社にのぼる。同法案が施行され、優遇措置が見直された場合、こうした米企業にとっても痛手だ。このように、「肉を切って相手の骨を断つ」ような政策を実行しようとしているのがアメリカである。

意図せず中国経済に寄与する日本: 早急に中国の金融危機対策を

サンディエゴ大学のビクター・シー教授は、9月に開かれた米中経済安全保障委員会(USCC)の公聴会でこう述べている。

「中国で金融危機が起きた場合、ドル建ての返済が困難になった中国の銀行が破産を宣言し、債務不履行となります。そうなれば中国に貸し出しをしている日本、韓国、アメリカの金融機関は、困難な状況に陥ります」

「中国の債券市場は巨大です。アメリカを除くと、中国が次の主要な投資先となっています。中国への投資で、高い利回りを得ようとしているわけです」

要するに、銀行にマイナス金利が導入され貸出圧力は高まったが、日本はデフレで借入需要が少ないため、中国に資金が流れている。産経新聞論説委員の田村秀男氏によると、「日本の銀行から、国際金融市場を通して、直接または間接的に中国に約5300億ドル(約58.3兆円)の資金が流れている」という(2019年5月号本誌インタビュー)。

2014年の消費税8%への引き上げとともにデフレ脱却の目標が腰折れし、10月からの10%上げの実施で、デフレ脱却がさらに遠のいた。日本人の預貯金が巡りめぐって中国を富ませていても、お構いなしの状況が続く。

一方アメリカでは、年金資金などが禁輸措置の対象とした中国企業の資金集めに使われていないか、調査し始めている。また減税によって内需主導型の経済を築き、中国で金融危機が発生しても共倒れにならない盤石な体制づくりを急いでいる。

日本は元の暴落が起きた場合に備え、間接的あるいは直接的に中国に融資している邦銀を洗い出すなどの対策が早急に求められている。政治家には、危機管理の鋭敏な感覚が求められることを自覚すべきだ。

(長華子)

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幸福の科学出版 『愛は憎しみを超えて』 大川隆法著

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