台風19号により水位が増加した川

《本記事のポイント》

  • 日本各地に大雨被害をもたらした台風19号
  • 災害大国と呼ばれる日本は防災大国を目指すべきだが、いまだ旧態依然
  • 名ばかりポストの防災担当相とアリバイ行政に終止符を

東日本を縦断し、各地に大雨被害をもたらした台風19号。猛烈な雨により、21河川の24カ所で堤防が決壊し、大規模な洪水被害や土砂災害が相次いだ。

気象庁が11日に、台風の本州接近前としては異例の記者会見を行い、早めの避難や安全確保を呼び掛けたが、死者は11県で50人、行方不明者は6県で18人(10月14日15時時点)。大きな被害をもたらした。

国民が天災に備えるのも限界がある。災害大国と呼ばれる日本においては、政府が主体となって「防災大国」を目指すべきだ。

本欄では、地震や巨大台風、豪雨などの天災が相次いだ2018年に、防災・危機管理の専門家に聞いた、日本の防災が旧態依然としている背景を紹介する。(2019年2月号記事の再掲。記事の内容は当時のもの)。

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Interview

「アリバイ行政」が防災を遅らせる

日本の防災が旧態依然としている背景について、防災・危機管理の専門家に話を聞いた。

拓殖大学大学院特任教授

濱口和久

(はまぐち・かずひさ)1968年、熊本県生まれ。防衛大学校卒。陸上自衛隊、栃木県首席政策監などを経て、現在、拓殖大学大学院特任教授や、一般財団法人防災教育推進協会の常務理事・事務局長などを務める。著書に、『日本版 民間防衛』(青林堂)など多数。

首都直下型地震にしても南海トラフ巨大地震にしても、30年以内に70%の確率で来るといわれています。これはかなり高い確率です。

それも、 予想される被害は、ほとんど戦争レベルですよ。 スペインは1755年、リズボン地震の津波で壊滅的な被害を受けて、二度と覇権を握れなかった。

今の日本政府の対応を見ていると、「そういうものが本当に来る」と思っているようには、とても見えないんです。

「ついでポスト」の防災相

例えば、今の防災担当相の名前を言えますか? 今の防災担当相は、拉致、海洋、国家公安、消費者など、いくつも兼任しています。これだけ年中、災害が起きているにもかかわらず、今、本気で防災をやろうと思っている人が行政セクターにいない。 ポストが回ってきたからやっているのであって、命を懸けてやろうとしているようには見えません。

そもそも防災行政自体が、内閣府、国交省、農水省、文科省、消防庁など、いくつもの省庁にまたがっています。 バラバラに対策を打ち、ダブっていることも多い。 強いリーダーシップで交通整理する必要があるのです。

政府も自治体も、災害発生を機に防災予算をつけるのはいいのですが、 実際の対策はアリバイづくり的で中途半端です。

例えば小池百合子・東京都知事が新たな防災冊子を作りました。知っていましたか? 「こういうのをつくりました」というアリバイづくりはしますが、浸透してはいないわけです。

政府にしても避難訓練の強化などをしていますが、消防士の消火活動を見学するだけの実効性に欠けるものも目立ちます。

本気で防災対策をするのであれば、例えば行政が各家庭を回って、防災対策がなされているかを点検する。津波被害が想定される地域に住宅を建てる場合には、補助金もつけた上で家庭用津波シェルターの設置を義務づける。それくらいの取り組みが必要です。 実際に災害が起きた後のコストを考えると、そのほうが断然安く済むはずです。

「戦時体制」という言い方をしていいかは分かりませんが、それだけの国難なのです。(談)

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2015年5月10日付本欄 噴火・地震の仕組み どこまで解明?どこから不明?

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