2018年6月号記事

Expert Interview

「金正恩ブーム」の先に展開する世界

数カ月前まで、朝鮮半島は「アメリカがいつ北朝鮮に軍事制裁するか」と議論されるほど緊張状態にあった。
4月中旬現在、漂っている「南北融和ムード」は、本当に地域の平和を実現するのか。

(聞き手 山下格史)

拓殖大学国際学部教授

呉善花

プロフィール

(オ・ソンファ)1956年、韓国・済州島生まれ。83年に来日し、大東文化大学卒業後、東京外国語大学大学院修士課程修了。在学中から執筆活動を始める。現在は日本に帰化。近著に、『北朝鮮化する韓国』(PHP研究所)、『韓国と北朝鮮は何を狙っているのか』(KADOKAWA、下画像)などがある。

――韓国の人々は「南北融和」をどう捉えていますか。

呉氏(以下、呉): 現在、韓国には「金正恩ブーム」とでも言うような、異様なムードが広がっているのをご存知でしょうか。

金正恩朝鮮労働党委員長は3月末に中国の習近平国家主席と電撃会談し、5月から6月にかけてアメリカのトランプ大統領と会談する予定です。

こうした動きについて、韓国マスコミは「平和の春が来た」「金正恩は賢い」「二大大国の元首と渡り合えるのはすごい」となり、金氏への批判的な報道は減っています。

金氏は2月の平昌オリンピック前後から「ソフト路線」「平和ムード」を演出してきました。選手を応援する美女軍団や妹の金与三氏を韓国に送り込み、訪中などの公の場に李雪主夫人を同伴。世界中のメディアに報じさせています。

金氏の好感度を上げ、「核・ミサイル」という怖いイメージを薄める北の戦略が成功しているのです(4月18日時点)。

――金氏の狙いはどこにあるのでしょうか。

呉: 主に「米軍に北朝鮮への軍事制裁をさせないこと」と、「在韓米軍を撤退させること」です。「平和な朝鮮半島」を演出すれば、「軍事制裁も、米軍そのものも必要ない」となりますから。

そのねらいは、韓国の文在寅大統領と一致しています。

歴代の韓国大統領にとって、在韓米軍が握る「戦時作戦統制権」を韓国軍に取り戻し、在韓米軍を撤退させることは悲願です。中でも文氏は強烈な親北派。「朝鮮半島の統一は、我々民族同士で実現させる」「強い朝鮮をつくりたい」と考えています。 この気持ちは金氏も同じ。今南北は急速にこの方向に進もうとしています。