首都トリビシの街の風景。

ヨーロッパとアジアの間に位置する、共産主義陣営の盟主だった旧ソ連の構成国だったジョージア(旧グルジア)は独立後、自由主義路線を歩み、急速に経済発展を遂げた。

同国の元財務省高官のギア・ジャンディーリ氏に、自由主義の価値について聞いた

(本記事は2016年10月号本誌記事を再掲したものです)

◆ ◆ ◆

経済学者

ギア・ジャンディーリ

プロフィール

1961年生まれ。ジョージアテクニカル大学、トリビシ国立大学卒業。中央選挙委員会、ジョージアの財務省の局長等を経て、2001年に、新経済学派(New Economic School)を設立し、現在同機関の副理事を務める。

――共産主義の問題はどこにあったと思いますか。

一言でいうと、人々の「やる気」を失わせたということです。私有財産を否定する共産主義体制では、何かを生み出しても「自分のもの」にはならないので、努力が報われません。

さらに私有財産の否定は、道徳の崩壊にもつながりました。誰のものでもなければ、「盗んで何が問題なのだ」という発想が生まれ、盗みや賄賂の授受が横行しました。結果として、正直者がバカを見る世の中になってしまったのです。

資本家たちに私有財産を放棄させる過程では、さまざまな悲劇も生じています。旧ソ連では、農場主に「小麦などを国家に提供するように」という命令がなされましたが、農産物をつくるために多額の資本を投じてきた彼らは当然嫌がりました。

そのため、旧ソ連の指導者レーニンは、農場主を始めとする資本家たちを粛清しました。彼らは、自由を奪う政府の政策を批判していたため、政府にとって都合の悪い存在だったのです。

ロシア革命後、1921年に共産主義国となる。ソビエト連邦の崩壊とともに1991年に独立。独立後はロシアと対立路線をとることが多い。

9年でGDPが3倍に

――ジョージアでは2004年から2013年にかけてGDPが3倍になったとのことですが、その理由は何でしょう。

ソ連崩壊後、自由主義路線を取ったことだと思います。

特に2004年からの改革では、自由を守る税制の実現を目指しました。大統領が、「ハイエクなどの自由主義の哲学に基づいて国家を立て直す」ことを宣言し、憲法には、新しい税金を課さないように政府を縛る修正条項が追加されました。

具体的には、世界銀行が薦めてきた22種類もの複雑な税制の導入をやめ、6種類のシンプルなものにしました。現在では法人税は15%、所得税は20%のフラットタックス(注1)を導入しています。今、各政党はどれだけ法人税や所得税を下げられるかを競っていますよ。

規制緩和も行い、ビジネスを始めるのに必要だった800ものライセンスや許認可をすべてなくしました。共産主義時代には、何をするにも政府の許可が必要だったことと比べると、見違えるように自由になりました。

公的機関のスリム化、民営化、国家公務員の削減なども大胆に進めました。

その結果、2016年版の「経済自由度指数」(注2)では、ジョージアは世界186カ国中、日本に次ぐ23位となりました。

2007年には公的年金制度を廃止し、これに伴って、社会保障関連の財源に充てられていた社会税もなくしました。

(注1)所得にかかわらず、同じ税率を課す税制。
(注2)アメリカのウォールストリートジャーナル紙および有力シンクタンクの一つヘリテージ財団が毎年発表している。2016年度は、日本は22位。

年金廃止で強くなった家族の絆

――公的年金をなくして問題はなかったのですか?

もともとジョージアには、子供たちがお年寄りを尊敬し、家族で支え合う伝統がありました。

年金を廃止したのは、政府のお金が尽きて配るものがなくなったという理由が大きいですが、それによって、家族で支え合う古き良き姿に戻ったのです。

日本をはじめ、世界の国々は公的年金制度をやめられず、税収を増やそうとして増税するという「罠」にはまっています。私たちはこの罠を断ち切ることにしたわけです。世界中で平均寿命が延びて、今までのような年金制度を維持することが難しくなる中、ジョージアの政策は、世界が向かうべき方向ではないかと思うのです。

私たちは過去の歴史においても、自由のために、そしてよりよい未来のために闘ってきました。これからも自由のために闘っていきたいと思います。

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