イランは核濃縮をやめなければ、国を失う可能性も 歴史上類例を見ないバイデン米政権の戦略的失敗
2021.12.19
《本記事のポイント》
- イスラエルの高まる対米不信
- 「イランが核武装したら、イランはなくなる」
- 「米民主党政権時代には戦争が起きやすい」
「我々にはあと数カ月ではなく数週間しかない」──。
こう述べたのは、欧州連合(EU)欧州対外活動庁のモラ事務局次長だ。
目下、イラン核合意(JCPOA)(*)の復活に向け、核合意の他の参加国である英仏独中ロと欧州連合(EU)がアメリカとイランを仲介する「間接協議」が17日にオーストリアのウィーンで開かれているものの、中断が続いている。
しかし協議が長期化するほど、時間はイラン側に有利に働き、核開発が進むことへの懸念が高まっている。
協議が難航し、決裂することもあり得る。イランは、核合意を離脱し制裁を再開させたアメリカへの対抗措置として、国際原子力機関(IAEA)の査察を制限してきた。
ただここにきてイラン政府は、査察を拒んできた核関連施設に監視カメラを設置することをIAEAと合意し、譲歩の姿勢を見せている。同時にイラン政府は「アメリカの制裁が解除されなければ、監視カメラが記録した映像を消去する」と主張しているので、IAEAの査察を一部受け入れることを条件に、制裁解除までもっていきたいとの思惑がある。
このような「小手先」の譲歩で制裁解除に到るほど、簡単な話ではない。
バイデン米政権は、イランとの核合意の復帰に向けた他の選択肢も考え始めている。サキ米報道官は9日の記者会見で、「イランの核開発の進展を踏まえて、外交が失敗して他の選択肢に転じなければいけない事態に備えるよう、大統領はチームに指示を出した」と述べている。
(*)2015年、オバマ米政権はイランの核開発を制限する代わりに、経済制裁を解除する核合意を締結。しかしトランプ前政権は「イランが核開発する余地を残す」と核合意から離脱し、最大限の制裁を科した。
イスラエルの高まる対米不信
間接交渉やアメリカの動きに懸念を抱いているのが、イランの核開発を警戒するイスラエルである。米ニューヨーク・タイムズ紙は10日、イスラエルの対米不信について詳細に報じている(Iran's Nuclear Program Ignite New Tension Between U.S. and Israel)。
むろんアメリカとイスラエルとの間のJCPOAに対する見解の相違は、イスラエルのナフタリ・ベネット現首相以前の、ネタニヤフ前首相時代からのもので、今に始まったものではないが、バイデン政権発足後、両者の溝は深まりつつあるようだ。
12月初旬のブリンケン米国務長官とベネット首相との電話会談では、相互に不満を残すものになったという。ニューヨーク・タイムズ紙によると、ベネット氏はブリンケン氏にこう伝えたとされている。
「イランは濃縮度を上げることで、アメリカを脅している。加えてアメリカもイスラエルも、イランが核兵器級の高濃縮ウランの製造が可能になったと報じる役回りが回ってこないことを願うと同時に、そうなった場合にイランの要求に屈したり、向こう見ずな合意に署名させられたりすることを恐れている」
またイスラエル側は過去1年間、イランの小規模な核設備の破壊攻撃や、テヘラン近郊のミサイル工場の破壊などの妨害工作を行っており、新しい核合意が結ばれた場合においても、この妨害工作を制限してほしくないと考えている。イスラエル側は、妨害工作が一定の効果を上げ、渋々とではあるが、イランが間接協議に真剣に向き合わざるを得ない機会を与えていると見ているからである。
さらにバイデン政権は2003年以降、イランは核の濃縮度を上げていないと見る一方、イスラエルの政府高官は、03年以降も秘密裡に核開発を続けていると見ている上、バイデン政権はイランと裏ルートで、「新しい核合意に至るのではないか」との疑念を拭えていないのだ。
「イランが核武装したら、イランはなくなる」
トランプ前政権時代、イランは経済制裁による苦境が極まり、革命前夜の様相を呈していた。
しかしバイデン政権の発足後、イラン政府はバイデン氏の足元を見て、核合意で認められていない濃縮度を60%まで高めたウランの製造を続けている。核合意で定められた低濃度のウランであれば、核爆弾をつくるための濃縮に1年以上かかるが、濃縮度60%であれば核兵器級の高濃縮ウランの製造は容易である。
もとより中東でイスラエルだけが核保有することへの不公平感はあるにせよ、イランの核合意への復帰は、問題の先延ばしに過ぎない。核武装の火種を先送りしているだけである。イランのような全体主義国家が持つ核は、民主国家の有する核とは性質が異なり、中東全体の不安定化につながるのは必定である。
また核合意の復帰により、イランへの制裁が解除されれば、イランは石油の輸出による収益でテロリストグループへの支援を再開することになる。
アメリカを指導するトス神が20年4月の霊言で述べたように、「テロ活動を支援しない、イスラエルとも戦わない」という「平和宣言」なくして、制裁解除をしてはならないのである。
では、イランが核武装したらどうなるのか。大川隆法・幸福の科学総裁は今年12月14日に開催されたエル・カンターレ祭で、イスラエル・アメリカ対イランの戦争が起きるかどうかはイランの核濃縮次第だとして、こう警鐘を鳴らした。
「イランも核兵器をつくるのを、急ぐのをやめてください。つくったらイラクと同じ運命が待っています。もうすぐです。だからやめてください。イスラエルとイランが核兵器持ったら、生き残るのはイスラエルです。イランはなくなります。だから、私の言葉を聞いて、踏みとどまってください。西洋化してください。民主化を入れてください。それが生き延びる道です!」
イスラエルは、「敵国が核兵器を保有しようとしている場合には、イスラエルは先制攻撃によって核保有能力を破壊する」という、ベギン・ドクトリンという安全保障上の抑止戦略を有している(関連記事参照)。
もちろん、核施設へのサイバー攻撃や核物理学者の暗殺といった妨害工作などの手段を尽くすことなくして、ベギン・ドクトリンを発動することはないだろう。両国の距離的な問題や、イランにはナタンズの他にも数十の核関連施設があることを考えると、作戦の実行は米政権の協力なくしては決して容易ではない。
しかし、イスラエル側はすでに「核爆弾一発を製造するために必要な量の濃縮ウランを備蓄させない」とレッドラインを示している。核の運搬手段が確立していない時点での、攻撃破壊プランを模索しているのは事実であり、空軍は空爆の訓練を始めている。
「米民主党政権時代には戦争が起きやすい」
米民主党政権下では、宥和的な政策からかえって大規模な戦争を誘発する──。大川総裁は、著書『法哲学入門』の中でこう指摘している。
「民主党政権のときには弱腰で、宥和政策を採ることが多いので、相手を増長させ、その結果、相手が軍事的に大きくなってきて侵略などを始めるため、戦争になってしまうことが多いからです」
バイデン政権発足から1年もたたないうちに、世界は流動化し、「冷戦構造」が完成しつつある。
しかもバイデン氏の外交・国防音痴により、中国、ロシア、そしてイランという三正面作戦を強いられ始めている。これは類例を見ない戦略ミスであり、バイデン政権は冷戦終結以来、最大の試練を迎えている。
中東やヨーロッパでの戦争は、中国が軍事的覇権拡張を実行する好機を与えるだろう。
バイデン政権は、自らが招いた「分断」による冷戦構造を反省するとともに、イランは自国への攻撃を招きかねない核濃縮よりも、国家経営の失策から国民の不満が高まっている現実に向き合い、原油に代替する産業を育成し国を富ませるべきだ。そして根本的には全体主義的な体制から国民の民意を反映できる民主国家へと体制を変えるべきである。
【関連書籍】
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2019年12月17日付本欄 イランがウランの濃縮度を上げることは、ネタニヤフ氏に好都合!? 日本は仲介を
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2020年3月号 アメリカ・イラン対立の行方「軍事衝突のリスクは去っていない」
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2019年12月7日付本欄 アメリカ、中東増派で緊張高まる 日本は苦悩するイランを理解し橋渡しを
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2020年1月18日付本欄 イランの元国王の子息レザー・パフラヴィー氏が米シンクタンクで講演:2020年は革命元年となる
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