《本記事のポイント》

  • 米国防総省は中東への増派を検討し、日本も護衛艦を派遣する
  • 米国務省は、「イラン当局は1000人以上の市民を殺害」と発表
  • 日本は宗教性と近代化との間で苦悩するイランの立場を理解して仲介を

米ウォール・ストリート・ジャーナル紙は4日、トランプ米政権が緊張関係にあるイランに対抗するため、中東地域に米軍1万4000人を増派することを検討していると報じた。米フォックス・ニュースも、国防総省が7000人増派の検討に入ったとする。これについてエスパー国防長官は「まだ決定していない」とコメントしている。

中東にはすでに、1万4000人の米軍が駐留している。増派はイスラエルの要請に応えるためだという。今週、トランプ大統領とポンペオ国務長官、イスラエルのネタニヤフ首相は、イラン・イラク・レバノンに対する反政府運動を支持することを確認した。

一方、アメリカ主導の有志連合「番人(センチネル)作戦」は、来年1月下旬に活動が本格化する見通し。アメリカ、イギリス、オーストラリア、バーレーン、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、アルバニアの7カ国が参加する。

日本は有志連合には加わらず、日本船舶の安全を確保するために、護衛艦1隻と哨戒機1機を派遣する予定。防衛省設置法に基づく「調査・研究」目的で、武器使用を伴わず、派遣期間は1年と限定的なものだ。必要となれば、閣議決定で期間を更新する方針だ。

当初は、「哨戒機P3Cの派遣のみで護衛艦は送らない」というものだったが、その方針が変更された。上空からの警戒監視だけでは、自国船籍の護衛ができないことがその理由だろう。

ホルムズ海峡を通過する船籍は年間延べ1700隻で、日本の船舶は一日あたり15隻と最多。日本船舶を自国で護衛するのは当然である。

だが、護衛艦1隻で日本船舶を護衛できるのか。この点について、HSU(ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ)で安全保障学を教える河田成治氏はこう述べる。

「哨戒機P3Cによる警戒監視で得た情報を、有志連合に共有することは歓迎されるはずです。また護衛艦1隻では、すべての日本船舶を守ることは到底できないため、外国の船に守ってもらうことを想定しているでしょう」

デモ参加者に対する処遇は非民主的

イランでは、ガソリンの値上げをきっかけに、20以上の都市でデモが発生。米国務省の発表によると、当局の鎮圧行動により、1000人以上の市民が殺害された可能性がある。また、少なくとも7000人が首都テヘランなどの刑務所に入れられ、劣悪な環境に置かれているという。さらに、インターネットを閉鎖し、デモ隊の連携もできないようにしている。

本来であれば、拘束して裁判にかけるなど、民主的な手段がとられるべきであるのに、デモ参加者をその場で射殺したケースもある。デモの鎮圧の仕方は、ある意味で、香港警察が市民に行っている以上の暴力の行使。当局が体制維持のために、国民の声を封殺しようと、イラン政府が動いていると言わざるを得ない。

「イランは神権独裁政治であるため、民主化が必要だ」というアメリカの主張に、あたかも正統性を持たせるかのような事件が起きている。

中東の近代化を阻むものとは何か

1979年のイラン・イスラム革命によって、イランは神がいなくてもよい体制をつくったフランス革命に象徴される近代化を否定。反近代化や反米を旗印に、イスラム体制への回帰を成し遂げる。

イランは、イスラム教に基づいた宗教的秩序を取り戻し、徳治主義の理想を目指した。だが、過去に説かれた教えに縛られてしまった側面が多くあるのも否めない。

キリスト教社会でも、16世紀にルターやカルヴァンによる宗教改革が行われた後、近代資本主義が生まれたように、宗教改革がなければ近代化もままならない。

もちろんイランは、科学に力を入れるなど近代化を目指してはいる。だが近代化を阻む大きな問題がある。

キリスト教では、宗教改革時にさまざまな改革者が登場した。なかでも興味深いのは、名誉革命のイデオローグとなったイギリスの思想家ジョン・ロックだ。イギリスでの宗派対立が壮絶な死闘に発展していたころ、彼はその争いを止めるため、ギリシア的な人間の理性に基づき、キリスト教を普遍的な立場から捉え直した。

人間には良心があり、「人を殺すなかれ」や「人を傷つけてはならない」といった基本的な考えは、各人が教会から教えられなくても知っているという「自然法」の立場をとったのである。

こうした立場から、キリスト教の排他的な教えを排除しながら、普遍的な宗教性、つまり「どの宗教にも貫く一本の黄金の糸を見出す」ことに成功した。これが英米系の宗教改革の特徴である。

イラン国民に考える自由を与え、権威主義的体制からの脱却を

だが、イスラム世界では、神の存在は絶対的なものであり、人間が理性によって、その御心を一端なりとも把握できると考えることに否定的だ。このため歴史のかなり早い段階で、個人がコーランとハディースを解釈して判断を下す「聖典解釈の自由」を禁止してしまった。

これは自然法の立場の否定に等しい。

シーア派のイランは、中東諸国の中でも例外的に、聖職者がこの解釈を行うことを許している。だが、キリスト教のプロテスタントのように、一般市民が聖典の解釈を行うことは許されていない。女性のサッカー観戦が認められた例をとってみても、高位聖職者である最高指導者の判断を待つ体制となっている。

これは「人間には良心があり、神の御心の一端なりとも忖度できる」という仏性の働きを抑圧する面があることは否めず、閉鎖的な体制をつくってしまいがちである。

では、これをどう乗り越えるべきか。権威主義的な体制とは異なり、民主主義は、各人に主体的に考える自由を許す体制であり、考えることを可能にする啓蒙を否定していない。

イランでも正しい形での宗教の革新運動が起きれば、宗教性を否定することなく、国民の力をのびのびと発揮できる民主的体制に近づけることができるだろう。

宗教性と近代化で苦悩するイランを理解して仲介を

イランが戦争で破壊されれば、素晴らしい伝統や文化も破壊されかねない。それを失うことは人類にとって損失となる。それを防ぐには、資本主義にそぐわず普遍的ではない宗教の教えをイノベーションすることも必要である。

戦争が起きれば、中国が中東に武器を輸出するなど、火種を拡大させる方向に動くのは明らかだ。日本にとって、中東の安定は国益そのものである。

イランのロウハニ大統領は、今月下旬に来日する方向で、日本政府と調整に入っている。アメリカ・イスラエル陣営とイランが相互に理解し合えるようにするには、宗教性と近代化との間で苦悩するイランの事情を理解し、日本は欧米との対立の仲介を図らなければならない。

(長華子)

【関連書籍】

『イランの反論』

『イランの反論 ロウハニ大統領・ハメネイ師 守護霊、ホメイニ師の霊言』

大川隆法著 幸福の科学出版

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