3人の専門家がAUKUSの意義について語る 岸田首相は「核なき世界」で原子力アレルギーを煽るべきではない
2021.10.11
《本記事のポイント》
- オーストラリアは米戦力を補い地域の安定に責任を果たす意思決定をした
- 中国の潜水艦の保有数はアメリカを抜く
- アメリカはなぜオーストラリアに技術移転を認めたのか
アメリカとイギリス、オーストラリアは9月、インド太平洋地域での新たな安全保障協力の枠組み「AUKUS(オーカス)」の創設を発表した。米英両国がオーストラリアの原子力潜水艦建造に協力することで、東シナ海・南シナ海で、軍事的圧力を強める中国に対する抑止力強化につなげる見通しである。
この多国間の連携強化は中国が恐れていたシナリオで、中国政府に「気の狂ったハイエナ」とあだ名をつけられた安全保障の専門家アントニー・ボンダズ氏は、「アメリカ、イギリス、オーストラリアの連携に、日本も参加するだろう。これは中国にとって悪夢となる」と予測する。
中国はこれを挑発的だと反発するが、因果関係は逆である。新型コロナウィルスの起源をめぐる国際的な調査を求めたオーストラリアに対し、輸入品に高関税の制裁をかけ、徹底的な嫌がらせをし始めた中国の「戦狼外交」が引き金となり、今回のAUKUSが創設されたのだ。
オーストラリアは米戦力を補い地域の安定に責任を果たす意思決定をした
AUKUSの意義に関して、以下、3人の識者の声を紹介する。まず一人目は、シドニー大学の外交防衛政策のディレクターを務めるアシュレイ・タウンシェアンド氏。AUKUS創設の動機について、Pacific Forum誌でこう語っている。
AUKUS自体は新しい構想ではなく、2017年の外交白書および20年の防衛戦略に詳しく構想が書かれていたことです。原子力潜水艦の技術供与も、オーストラリアが長年水面下で求めてきたことであり、戦略の抜本的な変更を意味しません。
これは、中国の台頭とともにインド太平洋における軍事バランスが崩れ、米軍のみで秩序維持が不可能になるという明敏な分析に基づいています。
中国を封じ込めるために、オーストラリアは米軍の戦力を補い、集団的な地域戦略を追求し、より強いオーストラリアの実現を構想として固めたのです。
中国の潜水艦の保有数はアメリカを抜く
二人目は、米太平洋艦隊の情報部門を統括していたジェームズ・ファネル退役海軍大佐である。オーストラリアの安全保障系シンクタンクに登場し、AUKUS創設のメリットをこう語った。
オーストラリアが原子力潜水艦を保有すべきである最大の理由は、アメリカが支援しようとしたとしても、西海岸から西太平洋にたどり着くのに時間がかかるという「距離の残酷さ」があるからです。
西太平洋にも中国の原子力潜水艦が進出していますが、ここには海底に通信ケーブルが張り巡らされています。この重要インフラを中国が寸断する恐れも出てきています。
中国は海洋強国になっています。戦力を拡大するとともに、インド洋を含む第一列島線以西での活動を日常的に活発化させています。一方で、米軍および同盟国の戦力は増強されていません。
習近平国家主席以前から海軍の強化は始まっていますが、習氏が国家主席に就任した2013年以降から天文学的な海軍が増強されています。中国の潜水艦数は62隻から68隻ですが、このペースで増強が進めば、2030年までに100隻以上の潜水艦を保有する見込みです。そうなればアメリカの潜水艦の数を上回ります。
戦力を補う上で、オーストラリアが原子力潜水艦を保有する意義は大きいのです。
アメリカはなぜオーストラリアに技術移転を認めたのか
ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)で安全保障学や国際政治を教える河田成治アソシエイト・プロフェッサーは、日本も原子力潜水艦を保有すべきだとして、その理由をこう述べた。
日本列島は中国との戦争が起きた場合、戦場になる運命にあります。米ソ対立時にも、日本が戦場になることが想定されていました。その当時と同じで、米中戦争においても、アメリカは日本が戦場になることを想定しています。
中国は、日本にある米軍基地や米空母を直接攻撃できるミサイルを大量に保有しているため、在日米軍はその脅威を強く抱いています。
トランプ米政権は、米軍は第一列島線の中で戦うと表明したものの、アメリカが攻撃される事態を予測し、日本よりも後方にある基地の重要性を考えているのでしょう。その意味において、オーストラリアは重要なパートナーです。
日本を拠点とした防衛作戦ができない場合に、次善の策としてオーストラリアを拠点として作戦を遂行すれば、インド太平洋全域でアメリカの利益を守ることができます。
最悪の場合、アメリカの東アジア地域に対する影響力が落ちたとしても、インド太平洋地域の利権は確保できるという思惑があると思います。
現在、中国はスリランカのハンバントタ港などを補給基地にしながら、インド太平洋全域に原子力潜水艦を潜行させています。これにより他国の商船や軍艦が沈められる脅威にさらされます。これを防ぐには、アメリカの同盟国が攻撃型原子力潜水艦を保有することが不可欠です。
原子力潜水艦は、制海権を確保しインド太平洋地域に影響力を残すために、ふさわしい兵器なのです。
また中国は台湾攻撃時に、米軍の接近を阻止するために原子力潜水艦を第一列島の前面に配備させることが予測されます。
これに対抗するためには、日本も原子力潜水艦を持つべきだと思います。なぜなら日本の通常型潜水艦は、待ち伏せ攻撃はできますが、原潜の速度に追い付かないため、追跡して攻撃することができないからです。
オーストラリアがアメリカの不足する潜水艦を補完して同盟国としてこの地域を守ろうとする気概を持つなら、日本も同じことをするのは当然でしょう。
日本がAUKUSを歓迎するだけでは、日本の「依存心」を高めることになるだけではないでしょうか。
もう一つ、私たちが日本人として考えなければならないのは、もし日本が原子力潜水艦の技術供与をアメリカに求めたら、アメリカは認めるのか、ということです。
なぜオーストラリアは認められたのでしょうか。オーストラリアはワインやロブスターよりも、民主主義という価値を守り抜く姿勢を示しました。こうした姿勢を示したので、軍事機密の塊である原子力潜水艦の技術供与をしても構わないという信頼を勝ち得たのだと考えます。
日本は同じだけの気概を示すことができていないというのが、最大の課題のように思えてなりません。
「核なき世界」の発信で原子力アレルギーを煽るべきではない
日本はオーストラリアのように、中国の台頭によるインド太平洋地域の戦力バランスが崩れることを見越して手を打ってきたとは言えない。オーストラリアは核武装国を目指すと言っているわけではない。むしろ安全保障面においてアメリカの対等なパートナー国としての役割を果たそうという気概を持っている。
日本はオーストラリアよりも距離的に中国に近く、台湾防衛をアメリカと共同して行う立場にあるが、AUKUSを歓迎するだけにとどまっている。より一層我が国の責務を果たすべく、原子力潜水艦を持つべきだという議論は深まっていない。
被爆地である広島を地盤とする岸田文雄首相は、オバマ元米大統領の「核なき世界」に同調し、所信表明演説で「核なき世界に向けて全力を尽くす」と述べた。
原子力潜水艦を持つことは核保有国になるのとは次元が異なる話だが、岸田首相がこうした発言を繰り返せば、心情的な原子力アレルギーを煽ることになるだろう。
事態は急を要している。その理由について大川隆法・幸福の科学総裁は、昨年末の法話「"With Savior"─救世主と共に─」でこう説いている。
「もしこのウィルス戦争と、そのトランプ落選というのが重なったことで、二〇二〇年段階で、習近平さんのほうが、覇権握ったと思ったとしたら、一気に十五年から二十年、世界の戦略地図は変わります。ただ、その結果は、日本を含め、周辺国やヨーロッパの国々も合わせて、どう対応するかによって変わります。中国にはまだそれだけの力が実際にはございません」
日本を含め、周辺国の総合力が問われている。日本はオーストラリアのように、民主主義という価値を守り抜く姿勢を示し、原子力潜水艦をはじめとした防衛力の強化を急ぐべきである。
(長華子)
【関連書籍】
『リーダー国家 日本の針路』
幸福の科学出版 大川隆法著
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2020年12月24日付本欄 悪なるものと戦うセイビアの力 - 大川隆法総裁 講演Report「"With Savior"─救世主と共に─」
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2021年9月21日付本欄 極超音速ミサイル、原潜、トマホーク……将来的な核武装が視野に入ったオーストラリアの対中有事の本気度
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2021年9月16日付本欄 米英が、オーストラリアの原子力潜水艦配備を支援 日本も原潜配備は必要
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