幸せの国として知られるブータンで、5年に一度行われる「幸福度調査」について、テレビ東京の経済ドキュメンタリー番組である「未来世紀ジパング」が現地取材を行い、このほどその様子を放送した。
以下概要
- ブータンは経済成長より幸福度を優先させてきたが、GDPが10年間で4倍になるなど、近年大きな経済成長を遂げている。街中では、スマホを使う人がたくさん見られる他、信号がないのにもかかわらず、日産の電気自動車であるリーフが走るほど。
- ブータンはチベット仏教の教えの下、利益を積極的に追求することはしなかったが、洗濯機がなくて不便を感じるなど、経済的問題に直面している人もいる。実際、農村から都市に出てきた人には十分な職がなく、警備員になる人が多いという。
- 警備員として働いている19歳の女性は「私にとって一番大切なのはお金です。お金がないから苦しいんです。幸せの国なんて口だけ」と語った。
ブータンは経済成長より幸福度を優先する
ブータンは世界で唯一、経済成長よりも幸福度を優先する政策を取っている国として有名で、幸福度調査を国家規模でやっているのは興味深い。
調査では「病気になったらお見舞いに来てくれる人は何人いますか」など、148項目から多面的な聴き方をするようになっている。さらに5年前の調査から、3段階だった幸福度の質問も、「0~10点」という10段階の点数方式になり、今回の調査から「理想の幸福度」が質問に追加され、国民の本当の満足度を測ろうとしている。
調査結果はまだ出ないが、質問項目が多面的になっていることと、番組が映し出す現地の様子を見る限り、経済成長に伴い、国民の間で幸福の捉え方が多様化してきていることが伺える。今後ブータンが経済発展するにつれて、貧富の差も生まれてくるなど社会問題は複雑化し、国の舵取りは難しくなるだろう。
宗教的に富が肯定され、経済発展の原動力になったキリスト教国
ただ、経済成長と心の幸福は両立し得るものだ。
中世ヨーロッパでカトリック教会の腐敗に対抗して生まれた、キリスト教のプロテスタントでは、勤労を通じてお金を稼ぎ、世の中に貢献することは神仏の思いに叶ったものとして、認められていた。富を肯定する教えは、その後のプロテスタントを中心としたキリスト教国の発展の原動力になった。実際にドイツやイギリスなどヨーロッパの先進国の多くがプロテスタントの国だ。
また、ブータンの隣国中国の軍事的な脅威も見逃せない。国力をつけ、国防体制を整えなければ、国の独立を奪われ、幸福度調査どころではなくなる危険もある。
経済成長を遂げ、お金に心を奪われて、神仏の心に反した生き方をする人が増えては本末転倒だが、国民一人ひとりの個性や価値観が違う中、経済成長によって多様な生き方が可能になるのは喜ばしいことだ。ブータンの人々が経済成長と心の幸福を両立させていくことを願いたい。(冨)
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2012年1月3日付本欄 日本とブータンの幸せ感覚――スピリチュアル面の違い
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2013年11月6日付本欄 世界一幸せな国・ブータン 経済成長路線に転換 豊かさを肯定するところに幸福が生まれる
http://the-liberty.com/article.php?item_id=6891
2015年3月号記事 イスラム・テロをなくす道 - スッキリわかる中東問題【後編】 Part1