南シナ海では、中国が5月より進めていた石油の掘削作業を突如やめたことで、ベトナムとの緊張関係が一時的に緩和した。背景には、アメリカ上院本会議が中国への非難決議を出したこともあると思われるが、当事国のベトナムからも強いメッセージが発信されていた。
中国が掘削作業から撤退する直前、ベトナム首相の顧問を務めたツオン・ライ氏が、ベトナムとアメリカの同盟結成を呼びかける記事を米紙「ニューヨーク・タイムズ」に寄稿した(13日付記事)。
ツオン・ライ氏は、「我々の優先課題は、現在の敵である中国を打ち倒す歴史的な瞬間に、戦略的な同盟を緊急で必要としている」とした上で、「今日のベトナムにとって、重要な同盟国はアメリカだ」と指摘。そして、「我々の国は、中国と友好的になれるという神話を打ち破り、第二次世界大戦後、(ベトナムを建国した)ホー・チ・ミンがしきりにベトナム・アメリカの同盟を提唱したことに立ち戻らなければならない」と語り、民主主義国の仲間入りをすることが必要だと結論付けた。
同氏が主張する同盟を構築するために障害になるのは、ベトナムの国家体制である共産主義であろう。しかし、ツオン・ライ氏は、その共産主義の旗を降ろしてもいいともとれる内容を論じている。ここまで踏み込んだのは驚くべきことだが、裏を返せば、ベトナムにとって中国への脅威がどれほどかを示していると言える。
これまでのベトナムとアメリカは、1975年に終結したベトナム戦争によって、友好的な関係ではなかった。しかし近年、中国の南シナ海への海洋進出によって、ベトナムはアメリカに接近し、関係が修復し始めている。
また、同氏は、日本とアメリカの関係に触れ、その先例が参考になると述べている。太平洋戦争で敵同士であった日米が、今では同盟を結んでいるからだ。ベトナム(当時の北ベトナム)も、アメリカと戦ったが、自由主義や民主主義の価値を認めれば、日本のようになることができるはずだ。
現在のところ、アメリカは対中非難決議を出すにとどまっている。だが、周辺諸国を恫喝する中国の横暴を食い止めるには、アメリカはベトナムへの武器輸出、同国の基地使用などを含む軍事的な関係を見直し、同盟を結ぶことが望ましい。(山本慧)
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