政府は秋の臨時国会で、安全保障関連の法整備を予定している。そこで、在外邦人が武装勢力に襲われた場合に、自衛隊が武器を使用して救出できるよう、自衛隊法を改正する審議を始める方針だ。当事国の許可を取った上で、自衛隊が現地政府の「警察権」を代替するもので、集団的自衛権の見直しなどは必要がないという。
今回の自衛隊法改正は、邦人10人が亡くなった、2013年1月のアルジェリア人質事件を受けてのものだ。当時、自衛隊は邦人の陸上輸送を認められていなかったため、現地から50キロメートル離れたイナメナス空港まで、アルジェリア政府に邦人を輸送してもらった。今後、海外で同様の事件が起きたとき、当事国がアルジェリアのように協力してくれるとは限らない。そのため、昨年11月の自衛隊法改正で、「輸送を安全に実施できると認めるとき」という条件付きで、自衛隊による邦人の陸上輸送も可能にはなっている。
今回の法改正はさらに、陸上輸送に伴う護衛のための武器使用や、自衛隊の保護下にない邦人を救出する際の武器使用を許可するために審議される。
ただ、自民党と連立を組む公明党からは、「憲法9条の求める、武力の行使の否定に反することになる」という反論が出ることが予想される。また、邦人救出の際には他国軍と隊列を組む場面も想定されるが、その他国軍が第3国の軍隊やテロ組織から攻撃を受けた際、日本では集団的自衛権の行使が認められていないため、自衛隊はそれに反撃することができない。他にも、法律に規定されていないことが起きた場合、緊急事態にもかかわらず、対応の合法性を審議しなければならないケースも出てきかねない。憲法9条に手を加えないまま、細かな法改正で対応することには、限界が来ていると言える。
尖閣有事にも同様の問題が存在する。尖閣諸島に武装した漁民が上陸した場合などで、どの時点で有事とみなすかが曖昧な「グレーゾーン事態」がある。自衛隊が実力で排除するための法改正が、16日に提出される「政府方針」で提案される見通しだが、問題が報告されてから、どう対応するかを国会で審議しているうちに、既成事実を積み上げられて実効支配されるという事態に陥りかねない。
国民の生命と安全と財産を守るのは、政府の責務であるという結論から考えると、憲法9条の存在そのものが、国としての主権を奪っていると言える。小手先の対応を重ねていたずらに時間をかけるのではなく、「日本政府は国民の生命を守る」という意思を示し、きちんと国民を説得して、憲法改正を堂々と進めるべきだ。(居)
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