国際政治学者
佐久間 拓真
(ペンネーム)
国際政治の中でも特に米中関係、インド太平洋の安全保障、中国情勢を専門にし、この分野で講演や執筆活動、現地調査などを行う。
中央アジアの小国キルギスが、巨大な隣国・中国による「経済的侵略」の最前線に立たされている。
かつてシルクロードの要衝として栄えたこの地は、現在、習近平指導部が掲げる巨大経済圏構想「一帯一路」の荒波に飲み込まれ、国家の存立基盤さえも揺るがしかねない深刻なチャイナリスクに直面している。この事態は、単なる経済支援の結果ではなく、巧妙に仕組まれた依存の連鎖がもたらす死角を突いた戦略的帰結であると言わざるを得ない。
GDPの3割にも及ぶ対中債務
キルギスが陥っている最大の窮地は、中国に対する天文学的な対外債務である。キルギスの公的対外債務のうち、実に4割以上を中国の輸出入銀行が占めている。道路建設や電力網の整備、火力発電所の改修といった大規模なインフラ事業の多くが、中国からの巨額融資によって賄われてきた。しかし、これらのプロジェクトの多くは、地元の雇用を生むどころか、資材から労働力に至るまで中国側が持ち込むパッケージ型の支援であり、キルギス経済への波及効果は限定的であった。結果として残ったのは、自国のGDP(国内総生産)の約3割にも及ぶ対中債務という重荷である。
この債務問題が牙を剥くのは、返済が滞った時である。ジャパロフ大統領は、債務の返済が遅れれば、国の重要なインフラ施設や資源が中国側の手に渡る可能性に言及し、国民に警鐘を鳴らした。これは単なる危惧ではない。隣国タジキスタンでは、債務返済の代替として領土の一部を中国に割譲し、スリランカでは港の運営権を99年間租借されるという事態が現実のものとなっている。キルギスにおいても、資源豊富な金鉱山や戦略的に重要な鉄道網が、債務返済の担保として実質的な支配下に置かれるリスクが極めて高い。
さらに深刻なのは、この経済的依存が政治的・社会的な主権を浸食している点である。中国による投資は、しばしば不透明な契約形態を伴い、現地の環境基準や労働慣習を無視する形で強行されることがある。これが地元住民の反発を招き、2019年には金鉱山で中国人労働者との大規模な衝突が発生した。しかし、莫大な借金を抱える政府は、中国側の意向に逆らうことができず、国民の不満と大国への従属の間で板挟みとなっている。





















