ニウエ島の上空写真(NASA)。

 

国際政治学者

佐久間 拓真

(ペンネーム)
国際政治の中でも特に米中関係、インド太平洋の安全保障、中国情勢を専門にし、この分野で講演や執筆活動、現地調査などを行う。

中国と太平洋に浮かぶ小島嶼国ニウエとの関係性は通常、あまり注目されることがない。しかし、国際政治の舞台における「大国」と「小国」のダイナミクス、そして太平洋地域における地政学的な駆け引きを理解する上で、この関係は極めて重要な事例である。

ニウエは、その国土の小ささにもかかわらず、主権国家として独自の外交を展開し、経済的・開発上の利益を最大化しようと試みている。一方の中国は、「一つの中国」原則の堅持と、自国の影響力拡大を目指す戦略の中で、ニウエのような小島嶼国との関係強化を進めようとしている。

中国の援助が国家運営を左右するほどの小国

ニウエは2007年に中国と正式な外交関係を樹立した。これは、当時の太平洋地域における中国の外交攻勢の一環として捉えられる。中国が小島嶼国と国交を結ぶ際の絶対的な前提条件は、台湾(中華民国)との外交関係を断絶し、「一つの中国」原則を認めることである。ニウエが中国と国交を結んだ事実は、ニウエがこの原則を受け入れたことを意味する。

ニウエにとって、中国との国交樹立は、外交的な選択肢を増やし、開発援助やインフラ整備のための新たな資金源を確保する上でやむを得ない判断であったと言える。特にニウエのような脆弱な経済基盤を持つ小島嶼国にとって、他国からの援助は国家運営に直結する重要な要素である。

中国は、国交樹立後、ニウエに対してさまざまな形態の経済援助を実施してきた。その多くは、道路、港湾施設、政府庁舎などのインフラ整備プロジェクトに向けられている。これらのプロジェクトは、小島嶼国が直面する地理的な制約や、気候変動への適応、観光業の振興といった喫緊の課題に対処する上で歓迎されるものである。

一方で、中国の援助には、しばしば透明性の問題や、援助を受けた国が過度の債務を負う可能性(いわゆる「債務の罠」)が指摘されることがある。ニウエの経済規模は極めて小さいため、中国からの大規模な融資や援助は、国の財政に大きな影響を及ぼす。このため、ニウエ政府は、主権と財政の健全性を維持しつつ、援助を効果的に活用するという微妙なバランスを取る必要に迫られている。

また、中国との関係強化は、観光や漁業といった経済活動の分野にも影響を及ぼす。中国からの観光客誘致の可能性や、漁業権に関する取り決めなどが、両国間の経済関係の焦点となり得るのである。

中国にとって国連で貴重な「一票」になる