2025年5月号記事

第11回

釈量子の宗教立国への道

幸福実現党党首が、大川隆法・党総裁による「新・日本国憲法 試案」の論点を紹介する。

釈量子

幸福実現党 党首

釈 量子

(しゃく・りょうこ) 1969年、東京都生まれ。國學院大學文学部史学科卒。大手企業勤務を経て、幸福の科学に入局。本誌編集部、常務理事などを歴任。2013年7月から現職。
釈量子のブログはこちらでご覧になれます。
https://shaku-ryoko.net/

強力な大統領令で「自由の創設」を

第七条

新・日本国憲法 試案〔第七条〕

大統領令と国会による法律が
矛盾した場合は、最高裁長官が
これを仲裁する。
二週間以内に結論が出ない場合は、
大統領令が優先する。

憲法試案〔第七条〕は、大統領令に関する条文です。国民の直接投票によって選ばれた大統領には、大きなリーダーシップが期待されます。その手段となるのが大統領令です。

米大統領令第一号はリンカンの「奴隷解放令」

最近ではアメリカのトランプ大統領が、就任6週目の時点で「100近い大統領令に署名した」と宣言したように、大鉈ならぬ"チェーンソー"を振るって歴史的な大改革を断行しつつあります。

大川総裁は「『国全体の改造』や『構造改革』のようなものを目指しているのであれば、首相公選制ないしは大統領制のようなものができたほうが(中略)全体的に、やりやすい」と語っています(*1)。日本が官僚組織や議院内閣制のしがらみに縛られ、何も変えられない政治になっていることを考えても、ダイレクトに民意を背負った大統領が、強力な采配を振れる制度が望まれます。

実はアメリカの大統領令「第一号」に位置づけられているのが、リンカンが1862年に発した「奴隷解放令」です。「財産権の侵害」といった批判も激しいなか、「神の御心はこちらにある」として、人類史に残る決断をした──その歴史を考えるにつけても、大統領令が政治の創造性を広げることは間違いありません。

(*1)大川隆法著『「現行日本国憲法」をどう考えるべきか』(幸福の科学出版)

大統領令は独裁につながらない

憲法試案の大統領制について、「独裁政を生むのではないか」という声もあります。しかしこの憲法体系には、その暴走を防ぐ仕組みがしっかりと組み込まれています。大川総裁はこう指摘します。

『大統領令の場合は、行政の命令系統をスムーズに執行するためのものを中心にする』ということであり、基本的には、『それ以外の一般的な法律は国会において決める』という考えです。そのなかで、競合する部分、相互に抵触する部分が出てくることもあるでしょうから(中略)大統領令法や新しい国会法など、憲法の附属法令をつくれば済むことなので、簡単に行えます。『ここまで』という区分を明確にすればよいだけのことです」(*2)

何より画期的なのが、「大統領令と国会による法律が矛盾した場合は、最高裁長官がこれを仲裁する」という規定です。

トランプ大統領の大統領令についても、既存の法律に照らして違反だとする訴訟が行われる案件はあります。あるいは、大統領は国民から直接選ばれるので、国会の多数派と意見が必ずしも一致するとは限りません。新憲法は、そうした場合に調停するという新しい役割を、最高裁判所長官に与えるというビジョンです。

「大統領が大統領令で自分の任期を変えて終身制を敷ける」という批判もあります。しかし、〔第三条〕に「大統領の選出法及び任期は、法律によってこれを定める」とあり、ストッパーは存在します。

そもそも憲法試案の体系を見れば、独裁者の暴走を許さない「自由の哲学」が、現行憲法よりはるかに強く打ち出されています。人権については、〔前文〕に「神の子、仏の子としての本質を人間の尊厳の根拠と定め」とあり、国民の自由についても、〔第十一条〕で「国家は常に、小さな政府、安い税金を目指し、国民の政治参加の自由を保障しなくてはならない」と定められています。

トランプ氏の大統領令の連発は「独裁者」と言われることがありますが、その目的も納税者である国民の生命や自由、財産を守ることです。

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女神コロンビア(アメリカの象徴)を脅かす吸血鬼として風刺されたリンカン。

リンカンについても、奴隷解放を強力に押し進め、南北戦争を戦った姿は当時、「独裁者」「吸血鬼」と激しく批判されましたが、後世から見れば「自由の創設」のための戦いであったことは明らかです。

「奴隷解放令」に法的な妥当性があるのか、という議論は当時も激しく交わされました(*3)。しかし、こうした法律の解釈も結局は、黒人を「私有財産」と見るのか、肌の色は違っても「同じ人間」と見るのか、といった価値観のぶつかり合いです。

政治には最終的に、高次な次元における哲学的判断が必要であり、「自由の領域」を拡大していくことが、神の願いです。その推進役としても「大統領制」は期待されます。

(*2)大川隆法著『宗教立国の精神』(幸福の科学出版)
(*3)「奴隷解放令」は厳密には大統領の戦時権限を根拠としたもので、その法的位置づけをめぐって、元弁護士のリンカンは反対者と激しい議論を交わした。