《ニュース》

AI(人工知能)をめぐって、米マイクロソフトによる中国との深い関係が改めて争点となっています。

米議会で中国のAI技術に対する懸念が高まる中、ニューヨーク・タイムズ(NYT)紙が10日、同社の動きを報じています。

《詳細》

マイクロソフトは1998年、中国・北京に「マイクロソフト・リサーチ・アジア(MSRA)」開設して以降、中国との協力関係を深めてきました。

この動きは、中国の自由化を見据えた「善意」によるものだったとされますが、結果として、同研究所は"技術者養成所"として機能。中国を代表するIT企業・バイドゥやアリババ、テンセント、レノボ、ファーウェイの経営幹部をはじめ、実に5千人以上のAI研究者を育てたと言われています(*)。さらに、同研究所で働いた人の多くが、音声認識や顔認識、AIなど、中国政府がウイグルで活用している監視技術を開発する企業を設立するなど、人権侵害に利用されていることも問題視されてきました。

(*)MSRAの設立に携わった李開復(カイフー・リー)氏が、自著『AI世界秩序―米中が支配する「雇用なき未来」』で記している。

現在もMSRAは200人もの研究者を抱え、大規模かつ最先端の研究を行っています。米中が先端技術の獲得をめぐっても覇権争いを劇化させる中、マイクロソフトが依然として中国との関係を維持していることは、米議会やメディアなどから問題視されてきました。昨年9月にも米上院で公聴会が開かれ、同社のブラッド・スミス社長に中国との関係をめぐって質問がなされています。

そうした中、昨年12月初めにスミス社長が中国を訪れ王文濤(ワン・ウェンタオ)商務相と会談。AI分野での協力などについて話し合ったことが報じられました。これを受け米議会は同月、マイクロソフトに対し、同社が中国国内で進めている事業がアメリカの安全保障にとって潜在的なリスクをもたらしていると警鐘を鳴らしたとのことです。

NYT紙によると、マイクロソフト内でも数年にわたり、MSRAの将来について議論されてきたといいます。しかし、創業者のビル・ゲイツ氏はMSRAを支持し、昨年6月にも訪中して習近平・国家主席と会談。同社の最高技術責任者(CTO)であるケビン・スコット氏や、1500人以上の専門人材を抱える巨大研究所「マイクロソフト・リサーチ」で責任者を務めるピーター・リー氏、そしてマイクロソフトの社長であるスミス氏もMSRAを支持しているとのことです。

今後、マイクロソフトと中国の"蜜月"に歯止めをかけられるか否かが、争点となっています。

一方で、米IT大手のAI技術が、友好国を通して中国に流出している問題も表面化しています。

NYT紙の報道により昨年11月、アラブ首長国連邦(UAE)のタフヌーン・ビン・ザーイド国家安全保障局顧問が会長を務める同国のグローバルAI企業「G42」に対し、米情報機関が中国にAI技術を流出させるルートになり得ると分析。米政権がUAE側に懸念を伝えたことが明らかになりました。

G42はオイル・マネーを基盤に急成長を遂げ、生成AI「チャットGPT」を開発したオープンAI、マイクロソフト、Dellなど米大手IT企業との提携を拡大しています。

その一方でNYT紙の報道によると、米情報機関はG42が、アメリカが制裁対象としているIT大手・ファーウェイなど複数の中国企業と提携しており、数百万人のアメリカ人のDNA情報を中国政府に引き渡す懸念があると報告をまとめたとのこと。その後、G42のCEOを務めるペン・シャオ氏は英フィナンシャル・タイムズ紙の取材で、中国企業との関係を断つと述べたものの、水面下で関係は継続しているとみられています。

NYT紙による一連の報道を受け、米下院で「中国特別委員会」の委員長を務めるマイク・ギャラガー氏は今年1月3日、米商務省に向けた書簡で、G42への輸出規制をかけるべきかについて調査を求めました。

UAEは石油に代わる収入源としてAI産業の構築に取り組んでおり、構成国であるドバイ首長国では世界で初めて「AI国務大臣」が任命されています。また、米バイデン政権と一定の距離を取りながら多角的な外交を展開し、中国との関係を深めてきました。

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