《本記事のポイント》
- 膠着状態のウクライナ戦線
- 政権内部や軍部と対立か?
- 加速するウクライナ疲れ
河田 成治
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。
前回のPart 1では、イスラエルとハマスの紛争と、今後の中東情勢の行方についてお話してきました。今回は目を転じて、ウクライナ情勢について述べていきたいと思います。
膠着状態のウクライナ戦線
今年の6月に始まったウクライナ軍による反攻作戦は膠着状態に陥り、現在では完全に頓挫しているようです。アメリカはM1戦車やブラッドレー装甲戦闘車をはじめとして巨額の軍事支援を行い、欧州諸国もレオパルド戦車など強力な兵器を大量に供与したにもかかわらず、6月以降の反攻作戦によって奪還した領域は、わずか0.25%にしか過ぎません(*1)。
ウクライナ軍のザルジニー総司令官は、ザ・エコノミスト紙のインタビューに「反攻は失敗した」と答え、またロシア軍に消耗を強いれば阻止出来るという認識について、「私が間違っていた」と述べ、ウクライナ軍の置かれた状況が極めて厳しいものであることを告白しました(*2)。
11月上旬の戦況。赤がロシア占領地、青はウクライナ軍が奪還した地域。(各種情報に基づいて筆者作成)
政権内部や軍部と対立か?
一方、欧米からの援助に頼るゼレンスキー大統領は、ザルジニー総司令官の発言に反論し、「現在の状況は膠着ではない」と述べ、軍部との見解の相違に注目が集まりました(*3)。
米タイム誌は「私が信じるようには誰も勝利を信じない。誰も…」(‘Nobody Believes in Our Victory Like I Do. Nobody')と、ゼレンスキー氏と周辺の温度差を特集しました。
同誌が掲載した大統領側近など政権関係者のインタビューによると、ゼレンスキー政権内部で意見の食い違いが生じており、ゼレンスキー氏は一時的な停戦にすら反対の立場だとのことです。
またゼレンスキー氏の頑固さが、新しい戦略や新しいメッセージを打ち出そうとするチームの努力に水を差してきたことや、前線の指揮官の中には、大統領府からの直接の命令であっても、前進を拒否する者も出てきたことを報じています(*4)。
さらにX(旧Twitter)で、今年の初頭まで政権に仕えていたアレストヴィチ元大統領府補佐官は手厳しくゼレンスキー氏を批判しており、現在の停滞はゼレンスキー氏の責任であると主張しています。また繰り返し彼を「独裁者」と呼び、自分と違う意見の人間を憎み、腐敗を生み出し、西側との関係も悪化しても現実を直視しようとしない、と書き込んでいます(*5)。
(*1)The Economist(2023.9.21)
(*2)The Economist(2023.11.1)
(*3)UKRINFORM(2023.11.17)
(*4)TIME(2023.10.30)
(*5)X(2023.11.1)
加速するウクライナ疲れ
ウクライナへの失望は欧米にも広がっています。
HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の世界情勢などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。