奈良時代に活躍し、東大寺の大仏建立でも中心的な役割を務めた高僧・行基(668~749年)。

その偉業の数々は枚挙に暇がなく、発刊中のリバティ本誌2023年6月号でも、「行基菩薩の『妖怪封印』~大仏建立の霊的背景~」と題して、仏教僧の手本を示し、妖怪信奉者たちを仏教に帰依させる、という大きな仕事を成し遂げたことを伝えた。

今回は、アナザーストーリーとして、行基が行った社会事業の意義に焦点を当てて、紹介する。

行基集団が行った社会事業・救済事業の数々

行基は、弟子を連れて各地で布教する際に、土木事業や貧窮者の救済活動などを行った。

信仰の下に結集した民の中には、技術を持った者や地域の有力者が含まれており、社会事業や救済事業を行う組織ができあがっていった。その組織は、「行基集団」と呼ばれている。

「道俗、化を慕いて追随するもの、ややもすれば千をもって数う」(『続日本記』)と記されたように、行基が布教に訪れた土地では、僧侶や民衆の多くが付き従い、1000人単位を数えるほどに膨れ上がったというのだ。

行基集団は、畿内を中心に、行基四十九院(僧院三十四、尼院十五)のほか、数多くの土木事業に従事した。その内訳は「橋六、樋三、布施屋九、船息二、池一五、溝七、堀川四、直道一、大井橋一」と記されている(『天平一三年記』)。

民の行き倒れをなくすための救済施設である「布施屋(ふせや)」と「直道」以外には、水に関わるものが多い。「船息(ふなやど)」は船着き場であり、樋(ひ)や溝、堀川などは治水・灌漑施設にあたる。

当時は、「灌漑施設を新設して開墾した田地は三世まで、既設の灌漑設置を用いて開墾した場合は一代に限って没収しない」という法律(三世一身の法)のもとで、豪族たちが開墾に力を入れていた時代であった。

水田化することから取り残された土地を開墾した

ただ、どれだけ土地があったとしても、水がなければ農地としては使えない。灌漑施設をつくってこそ、土地は初めて農地として使えるようになる。

行基集団は、農業の灌漑のために、十五のため池を築造・修理した。『天平一三年記』を見ると、寺院以外の土木事業では、大工事を要するため池の数が最も多い。

和泉につくられたため池の多くは、台地上のものが目立つというが、ここで注目したいのは、台地上のため池は、平野部のため池とは性格が異なるということだ。

この点について、こんな指摘がある。

「千田稔・奈良県立図書情報館館長(歴史地理学)は、和泉で開発された池の大半が洪積台地にあると指摘。その上で、行基によるため池は『沖積平野の開発を目的としたものではなく、台地上でまだ耕作地となっていない土地を開拓するためのものであったと思われる。水田化することから取り残された土地を開墾することが行基の主眼だった』としている」(2019年10月9日付 産経新聞大阪朝刊「関西を創った人 行基の軌跡」)。

神仏なき資本主義的発展には意味がない

水田化から取り残された土地を開墾することによって、無から有を生み、その土地が生む付加価値を増やし、生産性を高めた。極めて資本主義的とも言えるが、行基のそれには、もっと奥深いものが含まれている。

大川隆法・幸福の科学総裁が2021年6月に行った霊言で、行基霊はこう語っている。

『その資本を、一部、信仰の形態に置き換えなければいけない』という考え方を持っているわけです。『神ないし仏、神仏なき資本主義的発展には意味がない』という考えを、もう一つは持っている」(関連書籍『天御祖神文明の真実』所収)

大仏なんかの建立もまた、国家をやっぱり守護し、何て言うか、鎮護し、国家に神仏にとどまっていただくことを願うためにするわけであり、『そうした、神仏を願う心を持っている人が数多いということが、徳のある国民ということにもなるのだ』」(同)

行基集団が手がけたため池のうち、狭山池(大阪府狭山市)、久米田池(大阪府岸和田市)、昆陽池(兵庫県伊丹市)の三カ所は、今なお現役である。一千数百年にわたって、人々の暮らしを潤わせ続けていることを踏まえると、神仏の念いを具現化した事業のように思える。

既存の「僧侶」の枠を超えた行基。大仏建立をはじめ、いくつもの大事業を手がけながらも、それを自分のものとせず、宗教家としての慈悲行に邁進した。

そうして功徳を積み重ね続けた人生は、後世への最大遺物とも言うべき「資本主義の精神」、そして「仏教僧の手本」を今に伝えている。

【関連書籍】

天御祖神文明の真実

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大川隆法著 幸福の科学出版

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