《本記事のポイント》

  • 「中国の急転直下の衰退はない」
  • 共和党はレーガンの外交政策に立ち戻るべき
  • 愛国主義的全体主義の「拡張欲」を見逃してはならない

中国の覇権的拡張をどう見るべきか。フォーリン・アフェアーズ誌で、リアリズム(現実主義)とアイデアリズム(理想主義)の見地から、2つの論文が発表された。

1つ目は、中国の台頭が終焉に近づいているという前提に基づいて、台湾「統一」のチャンスが急速に狭まっていると考えるべきではないとする、オリアナ・スカイラー・マストロ氏とデレック・シザーズ氏の論文「China Hasn't reached the Peak of Its Power」だ。両氏はともに中国通の論客で、米シンクタンクAEI(アメリカン・エンタープライズ・インスティトゥート)に所属する。

「中国の急転直下の衰退はない」

2人は、「未曾有の人口減少、多額の債務負担、不均等な技術革新、その他の深刻な経済問題が中国の成長を減速させる可能性があるため、中国にはアメリカに対抗できる軍事力も政治的影響力もなくなっている。北京はこうした逆風を認識しており、手遅れになる前に早急に行動を起こす可能性が高い」という定着しつつある考え方を批判する。

これは主に昨年10月に同誌に発表されたハル・ブランズ氏らによる「中国の成長はもはやこれまで──中国に世界をつくり変える時間はもうない──(The End of China's Rise Beijing Is Running Out of Time to Remake the World)」と題する論文に対する批判である(関連記事「米論文『中国の成長はもはやこれまで』 中所得国の罠にはまりつつある中国」参照)。

確かに中国は経済的に減速しており、これはいずれは軍事的・政治的な野心を阻害することになる。だからといって急転直下の衰退はあり得ないと考えているからだ。

中国経済のピークからの落ち込みは緩やかであり、中国は人口減少と巨大な政府債務の問題に直面しているものの、軍事的な研究開発などへの支出を増やすことによって、経済面での落ち込みによる影響は緩和される可能性があるとする。

両氏は、「今後10年間で、中国はアジア全域にパワーを投射する能力を高めていくだろう。2030年までに、中国は4隻の空母を保有し、その接続性を高めるネットワークと宇宙インフラを構築し、それによって自軍の殺傷力を高め、アメリカの軍民の衛星群を脅かすことができる地上・宇宙ベースの兵器と、アジアにおけるアメリカの航空優勢に挑戦できる航空兵力を持つことになる」と述べ、より強大で自信に満ちた中国と対決するための戦略を持つべきだとする。

共和党はレーガンの外交政策に立ち戻るべき

2つ目は、アイデアリズムの立場から、米冷戦史に詳しいウィリアム・インボデン氏が書いた「将来の共和党の外交政策に向けての戦い」という論文である。

同氏の主張はシンプルである。

共和党は、2022年の議会での勝利を礎に、2024年のホワイトハウスの奪還を目指すなら、レーガン大統領の遺産を拠り所とするのが良いとする。

レーガンの国家安全保障政策は、しばしば「力による平和」というキャッチフレーズに集約される。

インボデン氏によると、この「力」には、軍事力だけではなく、アメリカの価値、思想、同盟、外交、歴史も含むと考えられていたという。中でも「自由」という価値観に、米外交の優位性があると捉えていたと述べる。

このような価値外交から、アメリカ建国以来、時折顔をのぞかせる「孤立主義」を克服できたというのである。

愛国主義的全体主義の「拡張欲」を見逃してはならない

オリアナ・スカイラー・マストロ氏とデレック・シザーズ氏の見立てのように、中国の急激な経済的衰退はないと見る冷静な視点は不可欠である。

ただそれは、中国の短期的な台湾侵攻の可能性を排除するものではないだろう。

シカゴ大のリアリズムの国際政治学者ジョン・ミアシャイマー氏や、30日発刊予定の本誌2023年1月号の記事「中間選挙の真相とアメリカの復権」に登場する、元国務省の政策企画局長のピーター・バーコウィッツ氏が述べているように、中国の指導原理は、「ナショナリズム」である(バーコウィッツ氏は、「超愛国主義」と表現する)。

中国は、ソ連がベルリンに対して持ちえなかったような、感情的な執着を台湾に持っており、この点は、共産主義のソ連とは原理が異なる。

そもそも政治哲学者のハンナ・アレントによれば、全体主義とは、目的のない「運動」である。決して止まることがない運動が成功するからこそ、正統性のない党の存続が可能なのである。それゆえ愛国主義を掲げ次々と他の国家を呑み込む「運動」が「熱い戦争」を引き起こすである。

このことを踏まえると、バイデン政権の1期目が終わるまでが最も危険な時期に当たるとするジェームズ・ファネル元米海軍大佐の指摘は空論ではないし、マストロ氏とシザーズ氏が批判するハル・ブランズ氏らの主張も、的を射ていないわけではないのだ(本誌2022年10月号本誌「『ポスト・バイデン』を考える」及び関連記事参照)。

現在のところ、共和党の下院議員で中国との融和を掲げている者は1人もおらず、有権者の大多数は、強硬な対中政策と台湾へのより強力な支援を支持しており、反中は超党派で合意できる数少ない分野であるのは確かだ。

だが残念であるのはバイデン氏が、チャーチルのように、そしてレーガンのように、「自由」という価値に愛着や確信を持っているように見えないことである。それは香港やウイグル、イランの反政府デモについての言及がないことや、国内の「社会主義的政策」にも表れている。

だからこそ今後、共和党が外交政策においても「力による平和」に表現されるような旗印の下にまとまり、外交・軍事政策についてもバイデン政権に圧力をかけられるかどうかが焦点となる。

下院の多数派を奪還した共和党は、数々の弾劾をバイデン政権に仕掛けることになるが、大局的勝利を見失ってはならない。

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