2022年12月号記事

「東洋の監獄」と化した香港を見捨てるな

「香港国家安全維持法(国安法)」施行から2年超が経過した香港は、「完全な沈黙」が街を覆う。
世界は、香港を中国のなすがままにしてよいのか──。報道に関わる香港人や投資家に聞いた。

「一国二制度の実践は、香港で世界が認める成功を収めた。香港国家安全維持法制定や選挙制度の改正で、愛国者が統治するという原則が確実に実行されている」

香港がイギリスから中国に返還されてから25年目の節目であった今年7月1日、香港での記念式典に出席した習近平国家主席はそう語り、今後も反政府的活動や外国勢力の干渉を許さないと指針を示した。

「国安法」という鉄条網

より良き未来をつくる責任と自覚を持った国民が政治参加して、政府の誤りを正すこと。それが愛国心である。しかし習氏の言う「愛国者」には、党に異論を唱える者は含まれていない。

そんな"政府の操り人形"をつくり出す最も有力な武器となったのが、「香港国家安全維持法(国安法)」だった。

習氏の香港訪問から遡ること2年前の2020年6月末に施行された国安法は、「中国からの分離独立」や「中央政府の転覆」、「テロ行為」、「外国勢力との結託」を禁止。違反すれば最高刑で無期懲役を科すと定めた。何がこの4項目に当たるかは極めて不透明で、市民はレッドラインを忖度する日々を強いられている。しかも海外在住の香港市民にも適用され、活動家は本国に戻った時に逮捕される。

秘密警察の誕生

そして薄気味悪い組織も新設された。「国家安全維持公署」である。公署は中国治安当局の出先機関。香港政府を監督指導する立場だが、実態は反政府活動を取り締まる秘密警察組織であり、人民解放軍がバックにある。しかも外国の介入に関わるなどの複雑なケースでは、公署が身柄を大陸に移送することもできる。

19年6月に逃亡犯条例の改正に反対する大規模デモが起きて以降、不法集会や暴動などの罪で1万人以上が逮捕され、200人以上が国安法違反の疑いで逮捕された。

国安法違反の内訳で全体の7割を占めるのが、50人超の民主派議員や活動家を逮捕した「国家政権転覆罪」(34%)と「分離主義的または扇動的な言論による罪」(35%)である(*)。

「光復香港 時代革命(香港を取り戻せ 我々の時代の革命だ)」と書かれたTシャツを着ることは当然ご法度だが、印刷物の所持だけでも捕まる。今年に入り、SNSに「コロナワクチンを接種するべきでない」と書き込んだ女性2人が公署に捕まったことからも、政府に異を唱える者は徹底的に排除する方針であることが伺える。

また「外国勢力との結託による国家安全危害罪」で逮捕されるケースも13%と決して少なくない。19年のデモでは、外国からの支援の取り付けを主たる戦略に据えていた。活動家と外国の支援者との関係を完全に断ち切るため、中国政府は国安法違反の項目に「外国勢力との結託」を据えたのである。

国安法施行から2年以上が経過する中、香港はどこまで中国化したのか。振り返ってみたい。

(*)アジア・ソサイエティの米中関係センターが発行する「チャイナファイル」が7月に発表した報告書より。

 

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