《本記事のポイント》

  • 弾薬が尽きて、円安阻止ができなくなる!?
  • 円安傾向の本当の理由とは
  • ドル建てが晒した縮小し続ける日本経済

20日から21日に開催された連邦公開市場委員会(FOMC)で米連邦準備理事会は、0.75%の利上げを決定した。3回連続の利上げで、年内には少なくとももう1回の利上げを実施するとしている。

これを受け、一時145円台後半まで円安が進んだ。政府・日銀は円安阻止のために、ドルを売って円を買う市場介入に踏み切った。実に24年3カ月ぶりのことである。

単独介入であったにもかかわらず、140台前半まで円高に戻した。しかしその後、1ドル=143円台前半まで下落しており、その持続的効果は疑問視されている。

弾薬が尽きて、円安阻止ができなくなる!?

とりわけ懸念されるのは、弾薬である外貨準備に制約があることだ。

財務省が発表している8月末時点での外貨準備は、1.29兆ドル(約184兆円)だが、そのうち1.03兆ドル(約147兆円)は米国債を中心とした債券などで保有されている。

米国債を売却すると、米国債の値段が下がり、金利が上昇する。最終的に金利上昇から再び円安となる可能性が高いので、米国債の売却は逆効果だろう。

また日本の米国債保有は、アメリカに国防面で依存する肩代わりの側面がある。したがって米国債の売却は、同盟国の信頼を失う行為ともなりかねない。

とすれば日本は、全体の約1割に相当する約1300億ドル(約20兆円弱)ほどしか、すぐに使える外貨がないということになる。弾薬は決して潤沢ではないのだ。

それでも政府・日銀が「果敢な戦い」を挑んでいるように見せなければならないのは、日本円で資産を所有することを怖れた日本人が、円を売却して、ドルへと置き換える動きも起きかねないからである。

自国通貨への信頼を失えば、国内での日常的な買い物の際にも、円は受け取ってもらえず、ドル建てで行われるようになりかねない。これは途上国では頻繁に起きている「ドル化」の現象である。

従って弾薬に限界があるとはいえ、政府・日銀は円を守るという政治的意思を示すことが重要となるのだ。

円安傾向の本当の理由とは

ここで円安の理由を今一度考えてみたい。大手メディアが、アメリカとの金利差を円安の根本的な理由としているが、本当にそうなのか。

米レーガン政権およびトランプ政権で、経済顧問を務めたアーサー・B. ラッファー博士は、弊誌の取材に応え、ドルが下落しない理由をこう述べている。

「現在、他の通貨から見たドルの価値はかなり上昇しています。円やユーロ、ポンドが非常に弱いために、ドルが相対的に強くなっている。つまりドルは他の通貨と比較して非常に強いのです。

一方、金の価格は上昇しておらず、金に対してドルは中立です。またインフレであるということは、モノやサービスに対してドルは弱くなっています。

では何が起きているのでしょうか。私の見立てでは、アメリカにおいて悪い政策が行われている一方で、日本やヨーロッパ、イギリスではもっと悪い政策が行われているということになります。

日本は今、円安になっていますよね。ドル建てで見た日経平均株価は、ずいぶん下がっています。これは決して良い兆候ではありません」

つまり通貨価値は相対的に決まるということだ。アメリカ国内ではモノやサービスに対して、通貨は下落しているものの、ヨーロッパや日本の経済政策が、アメリカと比較した場合、「より一層悪い」ため、ドルが予想よりも下落せずに済んでいるということになる。

この問題に詳しい西一弘氏も、こう説明する。

「いまアメリカではラーメン一杯を食べるにしても、日本円で3000円もかかると言われています。日本円で3000円相当ものドルを支払わないと、ラーメンを食べられないということですから、ドルで買えるものは少ない、つまりドルの値打ちが低くなっているということです。そのため、インフレ率の高い通貨は、通貨価値が下落するのが普通なのです。この場合は本来、ドル安(円高)になっていてもおかしくないということです」

その上で西氏は円安の理由について、以下のように説明する。

「円安の原因を金利差のみに帰するのは、表面的すぎる見方だと思います。円の価値を支えるのは、国内総生産です。円で購買できるモノが増えると、通貨価値が維持されることになる。つまり、経済成長していない国の通貨は下落していくのです。さらにモノの生産が増えていないのに、お金を刷りすぎていますから、これも円の価値を下落させる要因として働いています」

ドル建てが晒した縮小し続ける日本経済

またラッファー博士が指摘したように、ドルで換算した時の経済規模は、日本経済の弱体化を世界に印象付けている。

ウクライナ紛争が開始された2月28日の円は1ドル=114円で、現在は143円となっているため、ドル建ての日経平均株価は、約2割安となった。

1ドル=140円で換算すると2022年度の国内総生産(GDP)は、30年ぶりに3.9兆ドルとなり、4位のドイツと並んでしまっているのである。

ドル建てで見た経済規模はバブル崩壊直後に戻ったことになる。この間、世界のGDPが4倍になっているため、日本のシェアは4%弱に"縮小"したことになる。

円安は、輸出競争力を高めたり、生産拠点を日本に戻すチャンスをもたらしたりするといった「良い側面」があるものの、ドル建てでは平均賃金が年3万ドルとなり、優秀な外国人を呼び寄せることが難しくなる。

小手先の政策ではなく「真の資本主義国家」へ転換せよ

では、政府のあるべき円安対策とは何か?

与野党から、政府の物価高対策は、歳出規模が不十分だという批判の声が上がっている。その結果、このままいくと、過去最大となった昨年の補正予算の30兆円を超える規模の補正予算が組まれることもあり得るのだ。

本欄でも述べたが、物価高対策として歳出を拡大させるのは愚の骨頂である。

市場に出回る貨幣量を減らして、インフレ高進を抑制すべき時に、政府が火に油を注ぐようなことをすれば、日銀の円安阻止のための介入努力も水泡に帰すことになる。このような方向性は、インフレ対策をFRBに一任して、財政面からの協調姿勢を欠くバイデン政権と軌を一にする。

いま必要なのは「健全な貨幣」であり、日本もアメリカも「健全な貨幣」についての議論がないため、保守もリベラルも瓜二つになっているのである。

政府は円安を追い風にして、水際対策を緩和し訪日観光客を増加させ、インバウンド(訪日客)効果を期待しているようだ。

だが、豊かな人々が日本に来てモノを買ってくれることを期待するような「途上国マインド」を持ち続ければ、文字通り途上国に転落する日もやって来よう。

日本経済がドル建てで4兆ドル以下になったという現実を厳粛に受け止め、歳出削減と財政規律を回復させること。そして「真の資本主義国家」へと生まれ変わり、民間の生産するインセンティブを高めることだ。それには、減税や規制緩和といった政策が欠かせない。

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