《本記事のポイント》
- 雇用深刻化に焦る李克強
- 中国経済"墜落"で大量失業が発生する!?
- 「一晩で改革・開放前に戻る」
現在、中国では習近平・国家主席の「ゼロコロナ政策」と李克強首相の「経済優先政策」が"対立"し、"拮抗"している状況ではないだろうか。
雇用深刻化に焦る李克強
本稿ではまず、15日付「ラジオ・フランス・アンテルナショナル(rfi)中国語版」の「習近平はゼロコロナしか考えず、李克強は経済を心配する」という記事の一部を紹介したい。
4月下旬以降、李克強首相が重要会議で3回も「雇用の安定」を強調している。香港メディアによれば、中国の雇用情勢が軽視できない状態であるという。
1度目は4月27日、李首相が国務院常務会議で「雇用安定政策の強化」を強調した。2度目は5月7日、全国雇用安定工作テレビ電話会議で「目下、雇用情勢は複雑で厳しい」と言明した。3度目は5月11日、国務院常務会議で「財政・金融政策は雇用優先を志向する」よう要請している。
あるアナリストは、半月で李首相が3回も「雇用の安定」に言及したのは、「雇用情勢が深刻な課題に直面していることを示す」と指摘した。同国では、コロナの流行とロシア・ウクライナ情勢が経済の下押し圧力を強めている。他方で、2022年に中国の大卒者が1000万人を超え、就職問題が非常に深刻である。
中国経済"墜落"で大量失業が発生する!?
さて次に、5月20日付「中国瞭望」には「大企業の人員削減ブームが顕在化 学者: 中国経済はすでにハードランディングしている」という注目すべき記事が掲載された。興味深いので、その一部概略を抄訳しよう。
李偉氏はインタビューに対し、政府にとっては、企業の閉鎖よりも従業員失業の社会に与える悪影響の方が恐ろしい。一番怖いのは、大企業による従業員の解雇だ、と語った。
また、李氏は次のようにも言及した。経済は車ではない。車はブレーキをかけても、アクセルを踏めば、またすぐに走り出す。他方、経済は飛行機である。ブレーキをかけたら、たちまち飛行機は落下してしまう。そして再び離陸するには、滑走路が必要であり、滑走し、加速してようやく飛ぶことができる。
今日の防疫対策は、中国経済に大きな打撃を与えた。近年、中国に進出していた外資系企業の多くが、インドやベトナムなどの国々に工場を設立している(ベトナムの国内総生産(GDP)は昨年、広東省の15%に過ぎなかったが、今年第1四半期には70%に増加した)。
李氏は、中国の大量失業が今年から来年にかけて最も深刻な問題となるだろうと予測している。
「一晩で改革・開放前に戻る」
米ブルームバーグの経済調査部門「ブルームバーグ・エコノミクス」の5月2日付の発表によると、今年、中国のGDP(公式目標は5.5%)はさまざまな要因で2%まで急降下する可能性があるという。他方、アメリカの経済成長は低迷しているが、何とか2.8%程度にとどまるだろうと見ている。
仮に、両国に関する予想が当たれば、アメリカ経済のGDP成長率が中国経済を上回る。これは1976年以来、46年ぶりだという。
ブルームバーグが中国経済について非常に悲観的な見通しを示した最大の理由は、以下の通りである。
中国当局が、景気低迷に焦りを募らせ、各種の景気浮揚策を打ち出しながら、他方では、習近平氏が厳格な「ゼロコロナ政策」に固執しているので、経済対策を無効化するというジレンマに陥っている。
「ゼロコロナ政策」は3つの主要な防疫措置に基づく。(1)大規模な封鎖、(2)大規模なウイルス検査、(3)大規模な隔離である。
中国の2年余りの防疫は、この3大措置の結果として、必然的に流動人員と生産・消費活動の停滞を招き、大量失業と消費能力の激減をもたらすことを証明した。
中国の今年のGDP成長率が2%台に減速すれば、「一晩で改革・開放前に戻る」という中国人の常套句がそのまま現実化する。
1976年は毛沢東の「文化大革命」が終わる年だった。その後80年代に入ると、中国共産党は、歴史的決議─「文革」は中国に深刻な災難をもたらした10年間と規定─を採択している。
中国の「改革・開放」は78年(中国共産党第11期3中全会)から始まったというのが定説である。その道を歩んで以来、中国経済は大きな変化を遂げ、毛沢東時代の"鎖国"から世界2位の経済大国へと躍進した。
ブルームバーグは、今年の2%予想が76年以降最も低いだけではなく、2020年、中国がコロナに見舞われた年はもちろん、1989年「6・4天安門事件」直後の90年にも及ばないと指摘している。
「天安門事件」以降、西側諸国は中国に対してさまざまな制裁を加え、中国経済に大きな影響を与えた。だが翌90年、中国経済は3.9%まで回復した。
2021年第4四半期にアメリカの経済成長率が中国を上回った。アメリカは5.5%の経済成長を遂げたが、中国は4%しか成長できなかった。
今年に入って、中国ではコロナ再流行により、都市部のロックダウンが急拡大している。そのため、同国のサプライチェーンが停止した。これが、アメリカに大きなインフレ圧力をもたらしている。
アジア太平洋交流学会会長・目白大学大学院講師
澁谷 司
(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。
【関連書籍】
『ウクライナ問題を語る世界の7人のリーダー』
幸福の科学出版 大川隆法著
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