《本記事のポイント》
- 卵の価格は2割、ガソリン価格は4割アップ!
- バイデン政権の15カ月でインフレ率は8%超に
- イーロン・マスク氏が「サプライサイド経済学」を語る
米国のインフレ率は、全米平均で8%超となった(州ごとに異なり、ユタ州では10%を超えている)。
物価の番人である米連邦準備制度理事会(FRB)は今月4日、政策金利を0.5%引き上げて、インフレ収束を図る予定である。これは22年ぶりの大幅な利上げで、政策金利は0.75%から1%となった。6月、7月にも利上げを実施する予定だとしている。
FRBは市場に出回った国債を購入し量的緩和を続けてきたが、今後は市場に出回る資金を減らしていく方針だ。
卵の価格は2割、ガソリン価格は4割アップ!
インフレをきっかけに退陣に追い込まれたカーター政権でインフレが問題になり始めた1978年当時の物価上昇率は、7%に達していたので、8%という数字でも十分高い。
だが公式の数字は信用ならないと思っている米市民は多い。エネルギーや食料など、日用品の物価が急速に上昇しているからだ。
例えば、エネルギーや食料品に関するインフレ率を見てみると以下のようになる。
- 灯油 80.5%
- レギュラー・ガソリン 44.2%
- 天然ガス 22.7%
- 小麦 14%
- ベーコン 17.7%
- 卵 22.6%
- ミルク 15.5%
- バターとマーガリン 19.2%
- 家具 15%
レギュラー・ガソリンの価格は4割アップ。車で通勤する一般庶民の生活に打撃を与えている上、バター、卵、ベーコンといったアメリカ人の日常生活に欠かせない食品は2割アップ、主食の小麦は1.5割も上がった。深刻なのは乳幼児用の粉ミルクで、品薄を補うためにヨーロッパから空輸されることが決定された。
実感としては公式発表よりはるかに厳しいインフレが庶民の懐を直撃しているのだ。
バイデン政権の15カ月でインフレ率は8%超に
トランプ大統領退任時の2021年1月21日のインフレ率は1.5%。その後、バイデン政権発足後15カ月で8%超になった。
では、この15カ月で何が起きたのか。バイデン政権およびFRBのパウエル議長が主張するように、ウクライナ紛争に伴う原油の供給不足や、中国の「ゼロコロナ」政策による供給網の混乱も、もちろんあるだろう。
だが3月の時点ですでに、消費者物価指数(CPI)は、前年同月比8.5%上昇し、40年ぶりの伸び率を示している。
ロシアの軍事作戦が2月24日に始まり、上海でのゼロコロナ対策が徹底され始めたのは4月なので、プーチン大統領や中国のせいだけにはできないはずだ。
企業家がおおっぴらにバイデン批判を開始
ではインフレは「誰のせい」なのか? 「外国が原因ではない」「バイデン政権に責任がある」と、一斉に声を上げ始めたのが米企業家だ。
従来民主党寄りだとされてきた大手IT企業の創業者らが、インフレを契機にバイデン政権を大っぴらに批判し始めているのだ。
1つ目の事例は、米IT大手アマゾンの創業者ジェフ・ベゾス氏とホワイトハウスとの間で起きた論争だ。
発端となったのはバイデン大統領が13日午後に投稿した「インフレを倒したいのか? (ならば)最も裕福な企業に公平な負担を払わせよう」というツイートだ。
これに対してベゾス氏は同日に、インフレ抑制のために法人増税をほのめかしたバイデン政権は、「誤った方向(misdirection)」に向かうと批判する。これに対しホワイトハウスは「ベゾス氏は自身の資産を守り、労組に打撃を与えようとしているのではないか」と反論すると、さらにベゾス氏が16日に再反論を行い、こうツイートした。
「バイデン政権は3.5兆ドルもの政府支出を行おうとしたが失敗した。法案が通っていたらインフレはもっとひどくなっていただろう」
また、米電気自動車大手テスラのCEOを務めるイーロン・マスク氏は17日、インフレの原因について聞かれて、こう応えている。
「インフレの原因は、政府がお金を刷りすぎたことです。もし財とサービスの供給が間に合わなければインフレになります。これはそれほど難しい問題ではありません。もし政府が支出を増やしても問題にならないなら、赤字を100倍にしたらどうでしょうか? それはできません。そんなことをしたらドルの価値はなくなってしまいます。このことはベネゼエラで実験済みです。本当の経済というのは、財やサービスを提供することであって、お金を刷ることではありません」
しかも「今年は民主党ではなく共和党に投票する」とまで宣言し始めた。
さて二人とも、ウクライナにも中国にも触れていないことに注目してほしい。要するに、バイデン政権の巨額の政府支出と、それをサポートするために中央銀行がお金の刷りすぎたことに第一義的な原因があると述べているのだ。
もしベゾス氏が言うように、3.5兆ドルもの大型歳出法案の「インフラ投資計画」がジョー・マンチン民主党上院議員によって阻止されなければ、何が起きたのか?
エコノミストのステーブン・ムーア氏は、15%ものインフレに襲われていた可能性があると指摘する。
イーロン・マスク氏が「サプライサイド経済学」を語る
実はマスク氏の「本当の経済というのは、財やサービスを提供することであって、お金を増刷することではありません」という指摘は、サプライサイド経済学そのものである。
アメリカは量的緩和で通貨供給量を増やしてきたが、そのような金融政策で経済を容易にコントロールできるとする考えは社会主義的である。よく働き、付加価値のあるものを提供する供給者側がいなければ生産物が生まれない。
お金があるから、資金需要が生まれるのではなく、景気がよいから、「もう一店舗お店を出してみようか」といった投資意欲や「従業員に教育や投資をしよう」といった企業側の意欲が生まれてくるのである。
要するに、アメリカも日本も量的緩和によって、事実上の現代貨幣理論(MMT)が行われてきたと言える。だが資金需要にかかわらず通貨量の増減をまず考える発想は、「誰が生産をしているのか」という基本的な経済の問題を見ていない。
譬えると父親が働いてくれるから毎日学校に通ったり、食事ができたりするのに、それに気づかない子供が、授業料や塾の教材を払ってもらったりするのを当たり前と思い込むのに似ている。
その意味で、官僚体質に陥ったNASAにも達成できない宇宙への進出といった生産活動をやってのけるマスク氏は、政治家よりもはるかに経済の本質を理解していると言えるだろう。
バイデン大統領は、インフレをプーチン大統領や習近平国家主席のせいにしたいのかもしれない。しかし低金利であることに甘え、借金を繰り返し、国民にばら撒いて、債務残高を膨らませてきたのはバイデン政権だ。
本来なら働いて所得を得るべき人々に、失業給付金を撒いて、政府に依存させ、財やサービスの供給を減らしてきたことこそ、反省すべきだろう。
このような危うい金融・財政政策の上に、ウクライナ危機とコロナによる供給網の問題が加わり、インフレを加速させたと見るべきである。
FRBのパウエル議長も、「我々の政策手段は供給側のショックにはあまり効果がない」と率直に語っている。
要するに、バラマキをやめて人々の働くやる気を回復させることが必要なのだ。
根本的な問題解決をしなければ、ウクライナ紛争の解決の仕方次第では、インフレが加速しかねない。インフレに対して利上げが追い付かなければ、ニクソンショックと似たことが起きるともささやかれ始めた。さて、バイデン政権はいつまで人のせいにするのか。
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