Konrad Jacobs, Erlangen, Copyright is MFO。画像はWikipediaより。
2022年5月号記事
"悟り"の数学者──
岡潔ならAIを信じない
膨大な情報を分析することが「知」だというなら、人工知能(AI)が人間にとって代わる日も近いかもしれない。
だが、人の思考の中心には「情緒」があると考えた天才数学者が今生きていれば、そのような虚妄に見向きもしないだろう。
近年、碁やチェスなどを皮切りに、AIが人間に勝つ事例が増えてきた。そして、あらゆる面でAIが人間の知性を凌駕し、社会を変革する転換点(シンギュラリティ)が来ると論じる人が増えている。
そのため、多くのビジネスパーソンは、自分の仕事がAIにとって代わられるのではないかと恐れている。
AIによる仕事の代替は単純なデータ分析だけでなく、研究のように、創造性を要する分野でも増えてきた。例えば、AIロボットに、水から水素を発生させる光触媒を見つける実験をさせると、人では数カ月かかる作業が8日間で終わったという。
こうしたテクノロジーの進化を目の当たりにして、やがてはAIが人間に代わって科学的法則を見つけるようになると言う人もいる。「AIがノーベル賞を取る日が来る」といった極論まで出始めている。
この種のAI礼賛論の背景にあるのは、「科学をはじめとした学問は理知的な営みなので、人間の脳は、いずれAIに勝てなくなる」という考え方だ。
だが、本物の知を極めた天才が、こうした結論を受け入れるのだろうか。本稿では、とある先人の著作を参考に、AIに勝る人間の可能性を探ってみたい。