《本記事のポイント》

  • 台湾人の7.5割が「民主主義が最善」と回答
  • 民進党支持者の9割が「祖国のために戦う」
  • 「偽情報」への警戒も強い


シンクタンク「台湾民主基金会」は2021年、台湾国立政治大学選挙研究センターに依頼して、20歳以上の台湾人1299人を対象にした世論調査(「台湾の民主的価値とガバナンス」)を実施した。調査は同年8月10日~15日にかけて行われ、結果は12月29日に発表された(誤差は±2.72%)。

なぜ、発表まで4カ月以上も要したのか。おそらく同基金会は、12月18日の「4つの公民投票」(8月行われる予定が延期)実施まで、結果を公表しないというスタンスだったのではないだろうか(結局、国民党が提出した議案は、関門である約495.6万票余りの賛成票を獲得できず、かつ反対多数で、すべて通過しなかった)。

今度の世論調査では、以下のように3つの大きな設問が用意された。とりわけ、第2番目が重要ではないか。

台湾人の7.5割が「民主主義が最善」と回答

第1に、民主主義に関して、である。

「『民主主義には問題があるかもしれないが、やはり最も良い制度である』という人がいるけれども、それに賛同するか」という質問だった。結果は75.3%が賛同し、14.1%が賛同しなかった(「無回答」は10.5%)。

次に、「今の台湾の民主主義政治に対し満足しているか」という質問である。53.2%が満足していると回答し、40.6%が不満だと回答した(「無回答」は6.2%)。

さらに、「台湾の民主主義の未来に対し楽観的か、それとも悲観的か」という質問では、55.3%が楽観的だと答え、36.5%が悲観的だと答えている(「無回答」は8.2%)。

民進党支持者の9割が「祖国のために戦う」

第2に、台湾の民主防衛に関して、である。

「台湾が『独立宣言』したが故に、中国が台湾侵攻した場合、台湾防衛のために戦うか」という設問では、「戦う」と回答した人は62.7%で、「戦わない」と回答した人は26.7%だった(「無回答」は10.6%)。

ただ、そもそも台湾が「独立宣言」うんぬんという設問自体、"不適切"ではないか。中国共産党が(澎湖諸島を含む)台湾本島を実質的に統治しているのであればともかく、同党はかつて一日たりとも台湾本島を支配した事実はない。中国に統治されていない台湾が、どのように「独立」するというのか。

一般的に、中国からの「台湾独立」とは、「一つの中国」という"虚構"から台湾が「独立」するという事であり、いわば"言葉遊び"の域を出ない。

本来、台湾の「独立宣言」とは、(1)台湾の国名変更(中華民国から「台湾共和国」へ)、および(2)新憲法制定(中華民国憲法を「台湾共和国」憲法へ)を指すのであり、決して台湾が中国人民共和国から「独立」する事ではない(実際、米国は海峡両岸が緊張するのを恐れ、台湾に対し(1)と(2)を許していない)。

次の設問は、「もし中国が台湾を統一する際に武力を使用したら、台湾防衛のために戦うか」である。「戦う」と答えた人が72.5%、「戦わない」という人は18.6%にとどまった(「無回答」は9.0%)。

「戦う」と回答した割合だが、20代は78.9%、30代は80.0%、40代は77.8%、50代は75.7%、60代以上は60.0%で、比較的年齢が低いほど中国と「戦う」という意志を示した。

大半の20代、30代は、台湾の「民主化」が開始された1980年代後半以降に生まれ育った。彼らは台湾の成熟した民主主義の恩恵を享受している。他方、習近平政権下、香港の「1国2制度」が終焉し、事実上「1国1制度」へと変貌したのを目の当たりにしている。彼らは、中国共産党に支配されたら最後、台湾がどうなるのか、よく理解しているのではないか。

なおこの設問は、前問の「台湾が『独立宣言』した故に、中国が台湾侵攻した場合、台湾防衛のために戦うか」という回答よりも「戦う」という回答が10ポイント近く増えている。

つまり、中国側が"一方的"に台湾を「武力統一」しようとした場合には、「戦う」意志を持つ台湾人が多い。

なお台湾国立政治大学政治系の兪振華教授(兼同大学選挙研究センター研究員)は「中国が武力統一のため台湾へ侵攻する場合、与党・民進党支持者のうち90%が、野党・国民党支持者のうち過半数が『戦う』という考えを持つ」と指摘した(「『抗中保台』はスローガンではない! 世論調査: 台湾人10人のうち6人以上が祖国のために戦う」2021年12月29日付自由時報)。

「偽情報」への警戒も強い

第3に、偽情報に関して、である。「偽情報が台湾の民主主義政治発展に危害を及ぼしていると思うか」という問いだった。

これに対して「大変な危害を及ぼしている」と回答した人は62.6%、「多少危害を及ぼしている」と回答した人は26.5%、「ほとんど危害を及ぼしていない」と回答した人は5.7%だった(「無回答」は5.2%)。

次に、「『偽情報も言論の自由の範囲で許されるべきであり、政府がその偽情報を規制すべきではない』という人がいるが、その意見に賛成するか」という問いだった。これに対して、79.9%が反対し、賛成は14.2%に過ぎなかった(「無回答」は5.9%)。

今回の世論調査で、台湾人(特に、民進党支持者)の祖国防衛意識が高い事が分かる。したがって、中国の台湾侵攻は決して容易ではないだろう。

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アジア太平洋交流学会会長

澁谷 司

(しぶや・つかさ)1953年、東京生まれ。東京外国語大学中国語学科卒。東京外国語大学大学院「地域研究」研究科修了。関東学院大学、亜細亜大学、青山学院大学、東京外国語大学などで非常勤講師を歴任。2004年夏~05年夏にかけて台湾の明道管理学院(現・明道大学)で教鞭をとる。11年4月~14年3月まで拓殖大学海外事情研究所附属華僑研究センター長。20年3月まで、拓殖大学海外事情研究所教授。著書に『人が死滅する中国汚染大陸 超複合汚染の恐怖』(経済界)、『2017年から始まる! 「砂上の中華帝国」大崩壊』(電波社)など。

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