《本記事のポイント》
- 就労と給付金を紐づけなければアメリカの労働倫理が損なわれる
- 落ちこぼれのベンを成功へと導いた母の教育
- 高い志を持った人たちの心を蝕む福祉社会
令和3年の補正予算案の全容が25日に明らかになった。その規模は31.5兆円。国の借金である国債は新たに22.5兆円発行される。当初予算と合わせると、65兆円を超える国債発行額となる。
この額は、リーマン・ショック後の平成21年度の51兆円を上回り、過去2番目の水準になる。コロナが収束しつつあるのにもかかわらず、お金を刷りまくってばら撒く異様な構図に対して、国民は嫌気がさしてきている(11月30日発刊の本誌2022年1月号では「自民党は社会分配党なのか」と題して特集を掲載しているので、ぜひご覧いただきたい)。
一方のアメリカのバラマキの規模は、日本を遥かに上回る。
バイデン米大統領は約1兆ドル(114兆円)規模のインフラ投資法案を成立後、1.7兆ドル(約194兆円)規模の歳出法案をクリスマス・プレゼントとして成立させる野心を持つ。トランプ前大統領が就任後の同時期に「小さな政府」を目指し1.6兆ドルもの減税をプレゼントしたのとは対照的だ。
インフレでガソリンや食料品の価格が高騰し、庶民の生活を直撃しているにもかかわらず、市場にさらにお金を供給して火に油を注ぐ大判振舞いに、保守層のバイデン政権批判は頂点に達しつつある。
就労と給付金を紐づけなければアメリカの労働倫理が損なわれる
そうした中で、トランプ政権で住宅都市開発長官を務めたベン・カーソン氏がウォール・ストリート・ジャーナル紙で「アメリカにはセーフティネットは必要だが、ハンモックは必要ない(America Needs a Safety Net, Not a Hammock)」と題するコラムを発表した。
タガの外れた政府予算が組まれるようになった日本においても、参考になる議論なので紹介したい。
アメリカ人は非常に慈悲心を持ち寛大である。ギビングUSAのレポートによると、4700億ドル(約50兆円)を慈善事業に寄付し、5億時間をチャリティ組織のボランティア活動に使っている。
しかしこれは連邦政府が社会福祉に投じる費用と比するとわずかな額だ。
アメリカ人は(働きたくても働けない)不自由な人を支えたいとは思っているが、政府の福祉プログラムに依存して生きる健康な大人を支援したいとは思っていない。セーフティネットは必要だが、セイフティハンモックは不要だと考えている。
アメリカの社会科学者のアーサー・C.ブルックス氏が述べているように、「アメリカの理想の中心にあるのは職業にある」というアフォリズムには、「生きるために働くというよりも、われわれは働くために生きる」という考えが根底にある。
ブルッキングス研究所の調べによると、本人がフルタイムの仕事に就いているか、パートナーがフルタイムの仕事に就いていることが中流階級に入る鍵だ。
仕事こそが責任の自覚と自助の精神をしっかりと植え付けてくれる。
仕事と公的支援を結び付けることで、アメリカ社会は繁栄する。レーガンがかつて述べたように「一番の社会福祉プログラムは仕事」なのだ。
クリントン政権時、下院が共和党に奪還されると、福祉の受給者に2年以内に就労することを義務付けた。
結果、福祉への登録者が減り雇用が増え、子供の貧困も減った。有意義な仕事の報酬を再発見することになったのだ。
現在の急進左派は、就労と公的福祉を切り離している。
オバマ政権は、多くの人々の自活を可能としたクリントン政権時代の就労条件を放棄する権限を各州に与えた。
バイデン政権が最初に行ったのも同じで、メディケイド(低所得者向けの医療保険制度)を受け取るには就労を条件としたトランプ政権の義務付けを撤回した。五体満足な大人が就労せずに受け取ることができる社会福祉プログラムをつくり、そこに数十億ドルも支出する予定だ。
アメリカ人は高齢者、障害者などに手を差し伸べることを厭わない。しかし、働く尊厳を理解しているので、働ける人は働くべきだと信じている。
就労と福祉とを切り離し、助けたいと思っている人やその他の人々の人生を損なってまで、バイデン政権はアメリカ人の労働倫理を蝕んでいる。
落ちこぼれのベンを成功へと導いた母の教育
シングルマザーの母に育てられ、黒人としても差別を経験したベン・カーソン氏。幼少時は落ちこぼれだったと言われた彼が、共和党の大統領候補として立候補するまでになった背景には母親の存在があった。
母のソンヤは13歳の時に結婚。後に父親は重婚者であることが判明し、ベンが8歳、兄のカーティスが10歳の時に離婚している。離婚した父を責めず、クリスチャンで信仰心の篤かった母親は、教育こそ貧困から抜け出し成功する道であると信じていた。テレビ番組の視聴は週2つまでと制限を課してテレビ漬けの生活から子供を守り、代わりに公共図書館に連れていった。
図書館で週に2冊本を借りてきて、そのうち1冊についてレポートを提出させた。そのレポートを母が赤ペンで採点する。1カ月ほどで、学校から帰宅するとすぐさま図書館から借りてきた本を読む習慣がついた。
後になって、小学校3年までしか学校に通ってなかった母は文字が読めなかったことに、兄弟は気づいたという。
ベンはそんな教育熱心な母のもと、医師になる目標を立てた。
脳神経外科医となった後、世界でも稀な頭部結合双生児の分離手術に成功。奇跡の医師として名を馳せた。
その後、2016年に大統領選に出馬し、母から植え付けられたメッセージを端的にこう表現している。
「ハードワークと忍耐、そして神への信仰を通して、あなたは自分の夢を生きることができる(Through hard work, perseverance, and a faith in God, you can live your dreams.)」
高い志を持った人たちの心を蝕む福祉社会
ベン・カーソン氏が強調するのは、労働と福祉の支給との間を断ち切ると、アメリカの伝統である「働くことに尊厳を感じる心」が失われるということだ。
アメリカでは、生活保護受給者の平均労働時間は週16時間とも言われている。週5日の就業で、毎日たった3時間しか、五体満足な大人が働いていないことになる。
黒人として貧困層の家庭に生まれたが、熱心な母親の支えもあって、そのハンディキャップをものともせず乗り越えたカーソン氏の言葉には説得力があるため、トランプ政権の高官を退任後も保守系メディアで引っ張りだこになっている。
もし「働かなくても福祉手当が得られるので、努力しなくても構わない」という母に育てられたら、カーソン氏は自らの使命に目覚め、志を実現できなかったかもしれない。
「大きな政府」が目指す福祉国家が人間に与える影響について、大川隆法・幸福の科学総裁は著書『危機に立つ日本』で、こう述べている。
「正しい方向で努力しなくても、いくらでも援助を引き出せる世界は、一見、善いように見えますが、これは、自分の体のなかに、麻薬、麻酔を打ち続けているのと同じです。(中略)大きな政府による『ばらまき政策』は、それと同じなのです。
体のなかに有害な薬物を打ち込むと、個人の生きていく力、コツコツと努力・精進する地味な力を失わせていきます。そして、この国の国力を高め、この国の倫理、理想を高め、世界の人々を導こうとする、そういう高い志を持った人たちの心が、次々にむしばまれていく世界になるのです」
また弊誌に連載記事を掲載しているレーガン大統領およびトランプ大統領の経済アドバイザーだったアーサー・ラッファー博士も、同じくその影響についてこう語る。
「働かないことに支払うことで、働いていない人たちを助けることはできません。それでは彼らを政府に依存させてしまいます。時間が経つと、彼らは豊かにならず奴隷となり、貧困を生み出します」。
メディアは給付金の多寡や財源の話に終始しているが、本当の問題は国民を政府に依存させて勤勉の精神を忘れさせることだ。その過程で「高い志」を持った人々の心をも蝕んでいくというマイナスの影響こそ、国民に問題提起すべきである。
そしてまた、神への信仰からこの勤勉の精神を息子に植え付けることができたカーソン氏の母親のような存在こそ報じるべきだろう。給付金など完全に色褪せて見えるほど、人生成功の秘訣を息子に伝えることができたのだから。
【関連書籍】
『危機に立つ日本』
幸福の科学出版 大川隆法著
【関連記事】
2021年7月号 見せ方は上手だが… バイデンで果たして大丈夫か? - Part 2 内政・経済編
https://the-liberty.com/article/18411/
2021年2月14日付本欄 格差論者が語らない貧困の本質 「経済的自由」と「勤労のカルチャー」がアメリカの繁栄をつくってきた
https://the-liberty.com/article/18078/
2021年2月8日本欄 アメリカを「20世紀のローマ帝国」に押し上げた繁栄の精神とは? アメリカは原点に立ち返るべき