《本記事のポイント》
- ユーチューブから消された、ワクチンの代替療法の議会証言
- 当局見解以外は「誤った情報」という考えは、ガリレオ裁判レベル
- 「独占」が、普通なら起きない「独裁」を生む
ユーチューブが、とうとうアメリカ合衆国議会まで"検閲"しはじめた。
米グーグル社が運営するユーチューブが、米上院委員会の公聴会の様子を映した映像を2本削除した。共和党のロン・ジョンソン上院議員が4日付ウォール・ストリート・ジャーナル紙に寄稿し、批判した。
削除されたのは、2020年12月8日に行われた国土安全保障・政府問題委員会の公聴会の様子。新型コロナウィルスの治療薬として、「イベルメクチン」が有効であるとする臨床実験結果を、救急医療の専門家であるピエール・コーリー博士が紹介するなどしていた。
消されたのはワクチンの代替療法の証言
イベルメクチンとは、大村智・北里大学特別栄誉教授が開発を主導した治療薬。同氏はこの業績で、ノーベル生理学・医学賞を受賞した。アフリカなどで、寄生虫による感染症対策に絶大な効果をもたらした。
このイベルメクチンが新型コロナウィルスの予防・治療に効果があるという研究結果が、世界各国の大学や研究機関から発表されている。各地で50以上の臨床試験が走っており、大村教授が所属する北里大学研究所も近く、国の承認を目指す治験を始めるという。
同薬の特徴について大村教授は『致知』2020年12月号において、「イベルメクチンの特徴は、とにかく値段が安いことです。1錠700円程度です。だから、毎年何億人という人が飲むことができるんです。しかも、この薬は副作用もなく、医師や看護師の手を要しません」と述べている。
実際の効果のほどは不明だ。しかし、世界中で期待されているワクチンに代わるものとして期待を集めている。
一方で、同薬の効果に懐疑的な研究者は「イベルメクチンの効果を謳う誤った研究が、闇市場での売り上げを増やし、正しい科学的調査や政府の感染症対策を妨げる」といった批判をしている。
「ユーチューブは医者よりも"賢い"ようだ」と批判
アメリカの公衆衛生の権威である国立衛生研究所は、同薬についてどのような公式スタンスを取るかを検討していた。その流れの中で、映像が削除された公聴会は開かれていた。
上記ウォール・ストリート・ジャーナルの記事の中でジョンソン議員は「ユーチューブの検閲者は、アメリカの一般市民が、上院議員が聞いたことを聞くべきではないと、私たち全員のために決めた。どうやら彼らは、科学に人生を捧げ、命を救うためにその技術を使っている医師よりも賢いと思っているようだ」と非難している。
当局見解以外は「誤った情報」と言い切る
ユーチューブの検閲は有名になりつつあるが、ことに新型コロナ情報の取り締まりについては、かなりの入れ込みようだ。
同サービスのポリシーには、「深刻な危害を及ぼす可能性のある COVID-19 に関するコンテンツは YouTube で許可されていません」「YouTube は、地域の公衆衛生当局や世界保健機関(WHO)が提供する COVID-19 に関する医学情報と矛盾する、医学的に誤った情報を拡散するコンテンツを許可していません」と明記されている。
そして、ポリシー違反となる以下のような主張例も挙げられている。
- COVID-19ワクチンに関して、地域の公衆衛生当局またはWHOの専門家間で広く合意されている内容と矛盾する主張
- 現在入手可能な薬でコロナウィルスへの感染を防止できると主張するコンテンツ
- 医療機関で治療を受ける代わりに祈祷や儀式を行うことをすすめるコンテンツ
- 特定の人種または民族はCOVID-19にかからないと主張する
- 社会的距離を保つことや自己隔離措置を取ることに、ウィルスの拡散を防ぐ効果はないと断言する動画
要するに、国連や当局の公式見解に反する主張は全て「誤った情報」であり、「深刻な危害を及ぼす」というのだ。
中世のガリレオ裁判レベルのことをしている
しかし、アメリカで最もオフィシャルな機関であるはずの議会が耳を傾け、各国の研究者が真摯に向き合っている説を、一企業が「誤情報」と決めつけて削除するというのは、あまりに傲慢だ。
グーグルはじめIT大手各社は、新型コロナウィルスや、先の大統領選における選挙不正などに関するさまざまなコンテンツを「フェイクニュース」として削除している。しかしその多くは、議会や法廷などの場で、さまざまな政治家が堂々と語っていることである。反論・議論はあれども、内容を理由につまみ出されることはない。
ユーチューブや各種SNSは、議会・法廷で言えることが言えないほど、息苦しく、歪んだ空間となっている。
はっきり言えば、地動説を唱えたガリレオ・ガリレイを「人心を惑わす」として異端審問した中世の教会と、同じレベルのことをしているようにも見える。彼らは「コロナや大統領選は例外」と言うだろうが、後世はそう見ないだろう。
「独占」が「独裁」を生む
この横暴さの背景には、「偏った事実認識に基づく浅はかな"正義感"」と「ユーザーや政界・財界の多数派におもねればクレームが最小化され、経営的にもメリットが大きいという打算」、そして「そこにつけこむ国内外さまざまな勢力の思惑」が相乗効果を生み、誰も制御できなくなっている現状がある。
そしてそれを許しているのは、「有力なライバルがいない」という構図だ。偏った運営をしても他社にシェアを奪われる心配がない上に、その偏りを浮かび上がらせる情報や主張を人々の耳に入らないようにすることもできる。
IT大手の経済的「独占」が、議会でのやり取りを国民に見せないという、政治的「独裁」につながっている。
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