《本記事のポイント》

  • 戦争の前段階にあるスパイ合戦をいかに止めるか
  • 日本のインテリジェンス体制は「回らず、上がらず、漏れる」
  • スパイ防止法と独立したインテリジェンス機関の設立が不可欠

インテリジェンスは国家の命運をも左右する──。前回は、第二次大戦中の事例を通して、日本のインテリジェンスにおける失策が、戦争において命取りになってしまったケースを紹介してきた。

今回はファイブ・アイズに加盟するにあたって、日本が乗り越えるべき課題について聞いた。

(聞き手 長華子)

外交戦の前段階としてのスパイ合戦を止めるべき

元航空自衛官

河田 成治

河田 成治
プロフィール
(かわだ・せいじ)1967年、岐阜県生まれ。防衛大学校を卒業後、航空自衛隊にパイロットとして従事。現在は、ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)の未来創造学部で、安全保障や国際政治学を教えている。

──アメリカでは、中国の女性諜報員ファン・ファングがエリック・スウォルウェル民主党議員をハニー・トラップにかけていたことが、最近になって明るみに出ています。下院のインテリジェンス委員会に所属するスウォルウェル氏は彼女に影響を受けて、同委員会で中国よりもロシアの方が危険だと発言するようになっていたといいます。日本でも同じようなことが起きていそうです。

はい。ハニー・トラップは、日本も他人事ではありませんね。古典的なやり方ですが、日本でも非常に数多くの政治家がターゲットになっている可能性が高いです。

戦争の前段階には「外交戦」があります。外交戦の前には「スパイ合戦」があるわけです。世論をつくるためにスパイが活動しているので、このスパイを押さえるのは、戦争を抑止するための方法なのです。

この部分を押さえられないと「工作天国」になってしまいます。

たとえば孔子学院が日本の大学に入って、中国語や中国の文化を学ぶためのカルチャー・センター的な役割を持っているように見せて、やっていることは日本の世論を誘導するための「工作」だとしたら、スパイ天国・工作天国を許しているということになります。

日本に潜伏している中国の工作員の数は、数万から多ければ10万人いると言われていますので、看過できない状況にあります。

──そもそもインテリジェンス機能が、諸外国と比べて弱い印象もあります。

そうですね。コロナに対する対応が後手にまわった一つの理由として、インテリジェンス体制の不備があるように感じています。

諸外国のような、情報収集能力が足りていません。たとえば台湾は、中国に「ヒューミント」(人間が直接情報を取りに行く、いわゆるスパイ活動)を多数送り込んでいて、内部の諜報員を通して、ヒトからヒトへの感染力の高さを把握し、中国からの往来をすべて止める措置を採りました。台湾は12月31日の時点で、情報を入手していて、いち早く対処したのです。

──「コロナ人工説」も、中国の公安の孫力軍氏が妻に送った情報をオーストラリアの情報機関が傍受し、ファイブ・アイズで共有されました。

ファイブ・アイズの報告書では「中国は意図的に情報被害を隠蔽し、証拠は消した。その結果、悲惨な状態を世界にもたらした」「中国の秘密主義は世界の情報の透明性への暴行と言える」と書かれていましたね。

貧弱な日本のインテリジェンス体制

このように情報を入手し、中国人の渡航を止めることで、国民の安全を守ることになりますが、日本の情報収集体制は貧弱です。それは人員や予算規模にも表れています。

  • アメリカ:8兆円、20万人、12%(国防予算に占める割合)
  • イギリス:3000億円、1.6万人、10%(但し国防情報部の予算は含まず)
  • フランス:1200億円、1.3万人、4%(人員は5~6%)
  • イスラエル:6000億円、6000人、10%(但し国防情報部の予算は含まず)
  • 日本:1500億円未満(推定)、5000人未満、2~3%

日本の情報源の収集、分析、評価能力の低さが、独自の外交政策を打ち出せずにいる原因の一つになっている可能性があります。

メディア・キャンペーンの力が弱い日本

──さらに挙げるとすると、どういった問題がありますか?

メディア・キャンペーンの力が極めて弱いことが挙げられます。

1931年の満州事変に対する情報発信でも、日本は失敗しています。

アメリカの広告会社がワシントンの日本大使館に押しかけ、「私たちが日本の言い分をアメリカに大々的にキャンペーンしてあげます。だから契約書にサインを」と迫ってきたとき、日本の外務省は、プロパガンダ予算は出せないと言ってきたため、当時の出渕米大使は広告会社の申し出をすべて断ったと言います。

広告会社の人たちは、その場でタクシーに乗って中国大使館に行き、大きな契約を結びました。その結果、その後に起こった上海事件も、日本側から武力行使をしたかのように歪められて報じられ、アメリカ国内で反日キャンペーンが起き、さらにそれがヨーロッパまで波及する原因になりました。当時も今も、プロパガンダ下手というのは、日本の外務省のカルチャーにあるようです。

「回らず、上がらず、漏れる」

これに加えて、「回らず、上がらず、漏れる」という問題があります。

この言葉は日本のインテリジェンス体制の機能不全を指摘する際によく用いられる言葉です。

「回らず」は、日本のインテリジェンス機関と、その情報を活用すべき政策サイド(最終的には官邸)の連接が不十分であることを指摘したもので、「上がらず」は、官邸のトップ(総理大臣)にまで情報が到達しないことを意味しています。最後の「漏れる」は、保全すべき情報が漏洩する様を表現しています。

スパイ防止法は外圧で成立するかも!?

ファイブ・アイズに加盟するにあたって、特に問題なのは「漏れる」ことです。情報が洩れるケースには、3つの類型があると言われています。

  • (1)職員が内部情報を外部に持ち出す行為をする場合(故意)。
  • (2)不注意や無知による流出(過失)。
  • (3)職員が他国機関の働きかけで、当該国のエージェント(情報提供者)になってしまう場合(故意)。

この(1)と(2)の問題に対しては「特定秘密保護法」が成立したので、改善されるようになりました。ただ、自分たちが話す情報が、機密ではないと思ってうっかり話をしてしまうケースもあるので、過失行為を防ぐためにも、インテリジェンス・リテラシーを上げる必要があります。法律と知識の両極で自己チェック能力を高めることが大事です。

さらに(3)のように、冒頭に出てきた中国人のエージェントのような、外国の働きかけでエージェントになるケースの場合に対処するには、「スパイ防止法」が必要です。

ファン・ファングはどうやら危険を察知したらしく、捕まらないでアメリカから逃げたようですが、スパイは、バレて捕まったら死刑として処罰されるほどの重罪です。ところがスパイ防止法がない日本では、スパイ行為をしても軽犯罪程度の罪しか課されず、スパイは悠々と自国に帰っていくことになります。

日本はスパイ天国となっており、多くの要員が浸透しているため、防諜(カウンター・インテリジェンス)が不可欠です。ファイブ・アイズに加盟するに際しては、「スパイ防止法を成立してもらわなければ困る」といった外圧による「働きかけ」から、スパイ防止法が成立することになるかもしれません。

独立した単一の情報機関の設立を

もっと言えば、日本のインテリジェンス機関は特定省庁の付属組織として存在しているだけです。主要外国のような、情報を専門として統一された単一の情報機関が存在しないことも問題です。日本の各機関に付属する情報組織では、縄張り意識が強くなってしまい、各情報関係省庁のコンセンサスが得られないのです。

日本の外務省や防衛省といった各省庁は、どこの国でも自省庁の活動に有利な情報しか上げない傾向にあります。要するに、「省益」と切り離すことが難しいのです。

しかもそれぞれの情報機関が存在しても、細分化され相互に十分な情報交換が行われていません。「情報を抱え込むことに徹している霞が関の文化」が、命取りとなっている可能性があります。

省益や政策利権によって歪められた情報を、客観的立場からチェックすることがどうしても必要となる。そのためにはどの省庁にも属さずに純粋に情報収集だけを使命とする「中央情報機関」が不可欠です。

特定秘密保護法は成立しましたが、スパイ防止法や、独立したインテリジェンス組織などもそろわないと、諜報も防諜、つまり護りも攻めもできるインテリジェンスにはならないと言えるでしょう。

【ご案内】

HSU未来創造学部では、仏法真理と神の正義を柱としつつ、今回の「インテリジェンス」などの生きた専門知識を授業で学び、「国際政治のあるべき姿」への視点を養っています。詳しくはこちらをご覧ください(未来創造学部ホームページ)。

【関連書籍】

「特定秘密保護法」をどう考えるべきか

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幸福の科学出版 大川隆法著

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