2021年1月号記事

なぜ中国は宗教を恐れるのか

中国に「信教の自由」を広げよ


全体主義が最も敵視するのが「宗教」だ。
信教の自由を勝ち取る中で、あらゆる市民的自由が生まれたことを
思えば、放置すれば民主化の起爆剤となる。それを恐れ、
中国政府は1億人にも達すると言われるキリスト教徒の懐柔に入っている。
「信教の自由」のための戦いは無神論国家・中国の脅威を封じ込める力となる。
同時にそれは世界平和に資するだろう。日本は迫害されている人々の側に立ち、
「信教の自由」のための戦いを開始すべきだ。

(編集部 長華子、山本泉、竹内光風)

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写真:チャイナ・エイド

Interview 1

中国との「対話」で教会は全てを失う

中国政府の宗教弾圧に批判の声を上げ、「香港の良心」と評される

カトリックの枢機卿に、中国政府に接近するバチカンの対応について話を聞いた。


枢機卿

陳 日君

プロフィール
(ゼン・ゼキウン)1932年、上海で生まれる。1948年に香港へ移民。61年に司祭叙階。2002~09年香港司教職。06年に枢機卿に任命される。雨傘革命で主導的役割を果たし、香港の「新しい良心」と呼ばれる。

──中国本土におけるカトリック教会の状況を教えてください。

バチカンと中国との間で合意が結ばれる2年前まで、地下教会は法律上は違法でも、教会でお祈りをする行為は見逃されてきました。ところがその後、宗教を取り締まる法律の執行が強化され、大都市の地下教会で、司教はミサを執り行えなくなりました。また悲しいことに、18歳以下の若者は教会に立ち入ることさえ禁じられるようになっています。驚くべきことに昨年教皇は、地下教会の司教に中国政府公認の中国天主教愛国会に参加するよう促しました。

問題は中国政府が、教会を全て政府のコントロール下に置こうとしていることにあります。ナチスやソビエトなどの全体主義国家が全ての教会を支配下に置いてきたのと同じです。


現ローマ教皇は共産主義に共感している

──フランシスコ教皇は、中国という全体主義国家を終わらせるために、ポーランド出身のヨハネ・パウロ2世などのように振る舞うべきではないでしょうか。

フランシスコ教皇は、冷戦を終わらせることに貢献したヨハネ・パウロ2世とも、前教皇ベネディクト16世とも異なります。二人はソビエトやナチスのもとで「全体主義とは何か」を身をもって経験しています。一方、フランシスコ教皇は南アメリカ出身です。共産主義者は軍事政権下で弾圧されており、彼らは貧しい人たちの声を代弁していたため、共産主義に共感しているのではないでしょうか。

しかし中国では、共産主義者が教会を迫害しています。この違いが分からないため、教皇は中国と「対話」で解決できると信じているようです。前教皇のベネディクト16世が、「地下教会が政府に統制されて本物の信仰を失わないよう、政府公認の教会に参加すべきではない」と訴えてきたことを思い出すべきです。

現在のこの宥和的な方針は、教皇自身というよりも、側近のピエトロ・パロリン国務長官からきていると見ています。

私には中国と対話すればうまくいくとは到底思えません。屈服を求める中国が勝利し、私たちは全てを失ってしまうでしょう。教皇の意図はよくても、やっていることは間違っているのです。

──香港国家安全維持法成立後の状況について教えてください。

もはや一国二制度はありません。いまや「発言」だけで、法律違反とみなされ、私も含めて誰もがいつでも国家扇動罪で逮捕される可能性があります。それでも中国のやり方に反対の声を上げ続けなくてはなりません。

──日本のみなさんへメッセージをお願いします。

偽情報も出回っていますので、善なるものの実現を願う人々に正しい情報が入ることが大事です。日本の方々には中国で現実に行われていることを知って、神様に世界を正しい方向に導いていただけるよう、お祈りしていただきたいと願っています。

 

次ページからのポイント

『劉暁波伝』著者 劉 燕子氏インタビュー

香港の民主化運動を支援 鄭 宇碩氏インタビュー