3月22日は放送記念日だ。1925年の同日、現在のNHK東京放送局(当時は「社団法人東京放送局」)が日本初のラジオ仮放送を始めたのが由来とされている。

その日以来、ラジオやテレビ、そして近年はインターネットと、さまざまな媒体により情報が発信されてきた。

大量の情報が飛び交う現代では、気づかないうちに偽情報や感情論に踊らされることも多くある。最近でも、マスクに続いて紙製品が足りなくなるというデマが発信され、トイレットペーパーやティッシュペーパーなどが品薄となった。

情報の洪水の中で生きる私たちが、デマや感情論に踊らされず、正しい情報を選び取るにはどうすればいいか。長くマスコミの現場で活躍してきた田中順子氏に、マスコミの責任と、情報を受け取る側の心構えについて聞いた。

※2017年3月号本誌記事を再掲。内容や肩書きなどは当時のもの。

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情報洪水の中で真実を見極めるには

ハッピー・サイエンス・ユニバーシティ(HSU)
レクチャラー

田中 順子

(たなか・じゅんこ)ニューヨーク大学大学院ITP修士課程、青山学院大学大学院国際政治経済学研究科修士課程修了。元日本テレビ「ニュース プラス1」メインキャスター。現在はフリーアナウンサー、大学講師、コミュニケーションセミナー講師として活動。主な著書に『心をつなぐスピーチ・コミュニケーション』(東京図書出版)『真実の扉を開くジャーナリズム論』(HSU出版会)などがある。

現代は誰でもインターネットで情報が得られ、SNSなどで自由に発信することが可能な時代です。「一億総ジャーナリストの世紀」と言ってもよいかもしれません。

ただ問題は、その情報が「真実か否か」ということです。手間をかけて事実を検証し、責任を持って情報発信している人がどれだけいるでしょうか。いわれのない誹謗中傷をネットで拡散され、多大な迷惑を被っている人も大勢います。

国家の命運をかけた選挙や国民投票に際し、国内外から「フェイク・ニュース(偽ニュース)」がばら撒かれ、投票者が判断を誤る事態も起きています。

真実を軽んじる風潮

英オックスフォード辞書が毎年発表する2016年の「今年の言葉」に選ばれたのは、「ポスト・トゥルース(脱真実)」でした。客観的事実より感情的訴えかけが、世論形成に大きく影響する状況を指す言葉です。

実際、政治家やメディアが、根拠もないのに言いたいことを言い、自分に都合のいいデータを引用して国民をミスリードしておきながら、「あの時はそうだと信じていた」「勘違いだった」と言って責任を逃れようとする風潮があります。鳩山由紀夫元首相が、「沖縄から米軍を移転させる」と発言し、後から「勉強したら、海兵隊の抑止力の重要性が分かった」などと撤回したのがいい例です。

「フェイク・ニュース」も「ポスト・トゥルース」も表現の自由に伴う責任を無視し、「真実」を軽んじている点では同じです。

偽情報は国を弱らせる

「偽情報」は、特に戦時中に頻繁に登場し、自国民の士気を高め、他国民の戦意を喪失させる、心理的兵器の役割をも果たします。他国が発した「偽情報」が証拠となって、後々まで苦しめられ、不利な外交戦を強いられることさえあります。

例えば、戦後長らく、日本に汚名を着せてきた「南京事件」(注1)です。事件の証拠が南京と東京の戦犯裁判の判決書しかないのに、長らく真実であるかのように語られてきました。

歴史学者の北村稔氏は、判決の根拠となった証拠や証言を丹念に調査し、中立的な第三者による報告とされている重要な証拠資料が、実は中国国民党による宣伝であったことを証明しています。

北村氏は、中国国民党国際宣伝処長の曾虚白が、自伝で次のように書いているのを見つけました。

「金を使ってティンパーリー本人とティンパーリー経由でスマイスに依頼して、日本軍の南京大虐殺の目撃記録として二冊の本を書いてもらい(中略)二つの書物は売れ行きのよい書物となり宣伝の目的を達した」(注2)。

(注1)日中戦争最中の1937年12月、中国の国民党軍が守る南京城を日本軍が攻撃し、最大30万人を虐殺したとされる事件。戦後、日本軍の残虐さを示す事件として喧伝されてきたが、虐殺が行われた客観的証拠はない。
(注2)北村稔著『「南京事件」の探究 その実像をもとめて』(文藝春秋)より。なお、文中のティンパーリーはオーストラリア人で英紙の特派員。スマイスはアメリカ人で南京の金陵大学の教授。

真実を求め続ける姿勢

偽情報に惑わされないために大切なことが二つあります。

一つは、私たち一人ひとりが、考え、判断する主体であると自覚することです。「情報」は、人生を切り開き、幸福を手に入れるためのツールです。そのツールに振り回されないよう、考え続けることです。「偽情報」の多くは、誰かの欲望を満たすために都合のいいものです。ですから、「真実」を見極めるには、「この情報は公の幸福のために役立つか」を検証することです。常に複数の情報を検証し、真偽をただす姿勢を持ち続けることが大切です。

二つ目は、「真実」だと確信したら、それを主張し続けることです。リアルタイム性や速報性が重視される現代において、「真実」をつかむことは難しいかもしれません。「真実」は時に、歴史の検証を待たなければならないこともあるからです。

それでも「真実」を発見したら、間違いをただすために声を上げ続けることです。沈黙したら嘘を認めたことになります。過去の偉人たちが示してくれたように、「真実」の扉は求め続ける者に開かれ、「真実」は語り継ぐ人がいる限り必ず勝利します。(談)

【関連書籍】

『真実の扉を開くジャーナリズム論』

『真実の扉を開くジャーナリズム論』

田中順子著 幸福の科学出版

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