個人消費が堅調に推移し、株価は高値となり、失業率も歴史的な水準の低さになるなど、好景気を迎えているアメリカ。強い経済をつくりあげたのが、トランプ大統領の経済政策「トランポノミクス」だ。
トランプ政権は160兆円規模の大減税などで、成熟化が進む先進国を再び高い経済成長力を取り戻した。
政策を立案したのは、米ヘリテージ財団特別客員フェローのスティーブン・ムーア氏と、「サプライサイド経済学の父」であるアーサー・B・ラッファー博士。両氏がトランポノミクスの誕生秘話を記した『トランポノミクス』の日本語版が、このほど全国書店で発売された。
巷の書店には、トランプ政権の政策を論評する本が並んでいるが、本書は、政策をまとめた張本人が、2016年の大統領選挙で戦うトランプ氏から仕事を依頼され、経済を復活させるまでの「実話」を明らかにしたという意味で、一線を画している。
トランポノミクスの柱を明快に説明
本書で興味深い点は、トランポノミクスの柱が簡潔に示されていることだ。日本ではほとんど報じられることはない政策の柱は、次の通りだ。
- (1)不要な規制を廃止する
- (2)税率を下げて税負担を減らし、アメリカの国際競争力を強化する
- (3)生活保護ではなく雇用を
- (4)アメリカの豊富な天然資源を活用する
- (5)アメリカのインフラを現代化する
- (6)選択と競争の原理で、二十一世紀型の医療と教育を推進する
- (7)自由で公正な貿易を推進する
- (8)政府支出を削減する
- (9)アメリカ本位の移民政策を実行する
さらに、これらの柱の土台には、「アメリカ・ファースト」「愛国心を取り戻す」「国境を守る」などの原則が流れているという。
つまり、トランポノミクスは、「アメリカを偉大な国にする」という原則の上に、9つの柱で構成されている。これらによって、アメリカを強国に押し上げているのだ。
「自由で公正な貿易」というキーワードの誕生
しかし多くのマスコミは、政策の本質を見誤っているためか、トランプ氏を「保護貿易主義者」というレッテルをはったりして、批判を加えたりしている。
だが本書を読めば、保護貿易主義者ではないことも分かる。少々長いが、同氏が、2016年の大統領選挙中にデトロイトに向かう機内で、自身の演説内容をまとめたエピソードを紹介したい。
トランプは、ふらりと歩み寄ってきて言った。
「この演説の内容について、何か思うところがあるか?」
私たち(ムーア氏とクドロー氏)は互いに気遣いながらも、顔を見合わせた。(米大統領国家経済会議委員長を務める)クドローが、最初に口火を切った。
「いい内容だと思いますよ、ドナルドさん。でも気になるのは、この演説のなかでは、国際貿易の利益については何も触れていないですね。あなたが貿易をよいものだと考えていることを、みんなに知らせたら、安心してくれるのではないですか。あなたも、保護貿易主義者だとは思われたくないのでしょう」
ムーアは縮み上がった。もしかしたら、トランプは私たちを窓の外に放り出してしまうのではないかと思ったからだ。トランプは、ほんの少し考えた。それから、機内にいる誰もが聞こえるような大きな声で言った。
「君たちは正しい。私は孤立主義者でもないし、保護貿易主義者でもない。そのことを、はっきり言っておこう」
そして、トランプは付け加えた。
「私は実業家だ。だから、もちろん国際貿易が大事なことぐらいは分かっている」
そこで、(スピーチライターの)スティーブ・ミラーに向かって言った。
「スティーブ、文章を付け加えよう。自由貿易はよいことだ。しかし、公正な貿易でないといけない、としよう。保護貿易主義者だとは、思われたくないのだ」
そして、「自由で公正な貿易」の利益という言葉を声に出して言って、演説に付け加えた。
このやり取りにより、トランプ氏が国連などの演説で繰り返し強調することになる「自由で公正な貿易」というキーワードが生まれた。
その後、自由で公正な貿易体制の実現は、今年6月に大阪で開かれたG20サミットの首脳宣言でも一致。トランプ氏の考えが、世界標準となる。
本書は、こうしたエピソードを余すことなく紹介し、「トランプ氏の信念」や「同氏の協力者たちが、共和党内部やリベラルからのいわれのない批判をどう思っていたのか」などについて明らかにしている。
翻って日本は、消費増税などで「消費不況」に突入しつつある。その意味で、アメリカに繁栄をもたらしている『トランポノミクス』は必読の書と言える。繁栄の未来を選び取るためにも、多くの方に本書の一読をおススメしたい。
【関連書籍】
スティーブン・ムーア、アーサー・B・ラッファー 共著
藤井幹久 訳 幸福の科学出版
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